佐々木保乃花の話
佐々木保乃花の話
「行くな保乃花」
そう言って、貴方は私を抱きしめてくれる。
その腕はとても優しい。
私はそっと彼の背に腕を回した。
「ありがとうございます。王様。私は貴方に愛されて本当に幸せだった。貴方に出会えて本当に、本当に嬉しかった」
「私もだ。これからもずっと側にいてほしい」
「ダメですよ。そんなことすれば貴方が王でなくなってしまう」
「構わぬ。一緒に逃げよう保乃花」
あぁ、愛されていると、心から幸せを感じた。
それだけでわたしは幸せだ。
王様から聞かされた秘密の話。
歴代の王はずっと勇者を利用し続けてきたという話。
その話をしてくれて、一緒に逃げようと言ってくれた貴方がわたしは本当に愛しい。
「私は明日、魔王城へ向かいます」
「保乃花!」
「どうせ、私達異世界人と貴方たちは寿命が違います。長くは一緒にいられない」
「それでも!」
「貴方と過ごした日々は私の宝です。貴方のためにならわたしは死んでも構わない」
私は王様をそっと離すと、出来る限りの笑顔で笑った。
涙は見せない。
この人は優しいから、泣けば本当に私を勇者としての運命から逃させてくれるだろう。
そんなことをしても何も解決にならない。
勇者を殺しても魔王を殺しても王を殺しても、きっとこの戦いは終わらない。
ならばせめて、少しでも幸せになれる人が増えるように……
私は1つの計画を胸に抱いて、最後の言葉を告げた。
「さよなら、王様。誰よりも愛しています。永遠に」
以上で完結です。
ここまで読んでくださいまして本当にありがとうございました。