第8話 『初打ち』ショートコースデビュー
マサ(父) 34歳
カズ(息子) 3歳9か月
クリスマスが終わり、年が明けて、新年になった。新年のあいさつなどの定例行事を終わらせて、ちょっとだけできた余暇。せっかくなので、カズと一緒にショートコースを回ってみることにした。次なる目標「90切り」に向けて練習をしたいというのもあったが、クリスマスにプレゼントしたウェッジをカズに使ってもらいたいという思いもあった。いわゆる「初打ち」ってやつも兼ねて、いつものTセントラル練習場に向かった。ここは、打席練習場の横にショートコースもある。一番長いホールで80ヤードくらいあるが、30~40ヤードくらいのホールも多い。全部パー3で9ホール。これくらいなら、カズの飛距離でも届くところもあるし、それなりに楽しめるかもしれない。
「今日はショートコースをお願いします」
「年明け早々から熱心ですね」
「今年こそ90切りたいですからね!」
自然と語気に力が入る。
「えっと、坊ちゃんもショートコースですか?」
「はい」
「結構距離あるところとか坂道もありますけど、大丈夫ですかね?」
「まあ、スコア数えるわけでもないし、途中で飽きたらおんぶして帰りますので…」
「そうですか。そういえば、昔、お前もここ回って遊んでたよな」
いつも顔を合わせる社長が、傍に座っている若いお兄さんに声をかけている。どことなく顔が似ているような…
「ああ、息子さんですか?」
「ちょっと年末年始で帰ってきてまして。手伝ってくれてます」
「初めまして。いつもお世話になっております」
顔はちょっと社長に似ているが、社長よりも随分背が高く、スラっとしている。眼鏡をかけていて、ちょっと知的な印象だ。
「社長の息子さんもゴルフされるんですか?」
「いえ、あんまり。小さいころは結構遊んでましたけど、本格的に競技ゴルフとかはしてなかったですね」
Tセントラル練習場は、この地域では昔から営業している老舗の練習場だ。ゴルフ練習場の息子となると、練習し放題だし、結構どっぷりゴルフ漬だったのかと思いきや、そうでもなかったらしい。
「学校の友達も誰もゴルフなんてしてなかったですし。小さいころは遊んでいた気がしますけど、だんだんやらなくなっていきましたね」
「ああ、なるほど」
そうか。確かに、小学校に行くようになって、友達と遊ぶ時間が増えてくると、その子たちで一緒にできることを始めるはずだ。中学校でだって、「ゴルフ部」があるところなんてほとんどない。ゴルフの環境が近いからといって、そこにのめり込んでいくわけでもないわけか。
「今日は今、2組回っているだけですので、ゆっくり遊んで行かれてください」
そういう社長の表情は、ほんの少し昔を思い出して懐かしんでいるようにも感じられた。
さて、1番ホールのティーイングエリアにやってきた。40ヤードのちょっと打ち下ろしのパー3だ。
「よーし。まずパパが打つね」
昨年12月にこしらえたばかりの52°のウェッジで軽く打つ。冬の薄い芝で下りの坂道を転がり、グリーン奥のラフへ。ショートコースで短いからといって、そう簡単なわけではない。
「ほら。次、カズの番だよ」
「よーし」
カズはドライバーを持とうとしたが、さすがに通り過ぎてしまうような気がした。
「こっちの方がいいよ」
持たせたクラブは7番アイアン。私は52°、56°の2本のウェッジとパターだけだが、カズはドライバー、7番アイアン、ウェッジ、パターの4本総動員だ。
カンッ!
ティーアップして放たれたボールは……何とグリーンオン!
「ナイスオン!上手じゃん」
カズはなんだかよくわかっていないけど、まんざらでもない表情をしている。
私は奥のラフから寄らず入らずで4打!ボギーで終わった。
カズはというと…2パットで入れてパー発進!
「おお!やるじゃん!ナイスパー」
「パー???」
そういえば、カズは「パー」の意味がわかっていない。でも、何となく「ナイス」と言われ拍手をされて、やはりまんざらでもない表情をしている。
パー発進でスタートしたカズだったが、その後はそう簡単でもなかった。2番ホールは約50ヤードの距離だが、池越えとなっていて、カズの飛距離では池を超えられない。ドライバーで打ったボールは、もう少しで池を超えていけそうだったところ、ぎりぎろの土手に当たってコロコロと下の池へ。とりあえずルールも打数も無視して、適当な場所から打たせながら進むことにした。幸い、後ろからは誰も来ていない。グリーン横にボールを置いて、せっかくなのでウェッジで打たせてみる。打ちやすいように、ちょっとだけボールが浮く場所を探し、そこにボールを置いた。
「ほら、クリスマスプレゼントのウェッジだよ。打ってごらん」
シュッ
「お!」
ボールは、いつも使う先ほどの7番アイアンの軌道より、ほんの少し高くあがって、カップの上の方のグリーンに止まった。やはり子供用でもウェッジはウェッジで、ロフトがある分ボールは高く上がるらしい。というか、打ちやすいライを選んでいたとはいえ、一応ボールに当てられるだけで大したものだ。
「ちょっとボール高く上がったね。面白いね。次はパターだよ」
いわゆる下りのパットが残っていた。何も考えないでカズがパターで打ったボールは、冬の薄くて硬いグリーンの上を転がって、グリーンの外へ。当然だが「傾斜」なんて考えているわけもない。
「随分転がっちゃったねぇ」
「ハハハハハハッ」
ああ、そうか。カップに入れるより、ボールがいつもより早く転がるのが面白いのか。
「今度は上りだよ」
案の定、上りは全然届かない。子どもでも大人でも、下りのパットの後の上りのパットは難しい。一応入るまで打たせてみて、何とかカップイン。打数関係なく、何となく楽しんでいるようだ。
さて、カズのことはさておき、自分はというと……2番ホールは一応池超えに成功したものの、奥の傾斜へ…奥から打ってグリーンの下へ…寄らず入らずのダボ…500ヤード先のカップへ5打で入れることもあれば、わずか50ヤード先のカップに入れるのに5打かかることもある。不思議なものだ。
3番ホール以降もいまいちパッとすることはなく、いくつかパーを取れたものの、トリもあり、OBなどもあって9打を要したところなどもあり…9ホールパー27のところ46打もかかってしまった。18ホールに換算すると…パー54のところ92だ。ここでこのありさまでは、本コース18ホールパー72で90切りなんて夢のまた夢だ。
カズも本来のルールと違う処置をしていたが、一応9ホールを回りきった。
「どうでしたか?」
9ホール終わってクラブハウスに戻ってきたところ、社長に声を掛けられる。
「いや、グダグダでした…」
「そうですか。坊ちゃんの方も、何とか9ホール回れましたか」
「そうですね。スコアは数えていないしルールも関係なしですが、何だかんだでやり切りましたよ」
「そりゃ大したもんですね。うちのショートコースの最年少完走記録かもしれません」
「あれ?さっきの社長の息子さんじゃなくて?」
「うちの子はもう少し大きくなってからやっていたと思いますよ」
人知れず、誰も知ることのない小さな記録を打ち立てた勇者は、そうとは知らず、ちょっと疲れて眠そうな目をこすっているのだった。




