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ゴルフのそのき  作者: 園木まさ


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7/21

第7話 サンタクロースとアプローチ

マサ(父) 34歳

カズ(息子) 3歳9か月


「うーん、どれがいいかな」 

 例によってゴルフショップに来て迷っている。

「いよいよ”A”とか”S”は卒業ってわけだね。最初は”52°”と”56°”じゃないか?」

 いつも通り、同僚のクマダがアドバイスをくれる。次の目標「90切り」に向けては、グリーン周りでのアプローチこそ肝心というわけで、いよいよ本腰を入れるため、中古のウェッジを探している。今までは「目指せ100切りセット」として購入した際に含まれていた“A”と”S”のウェッジを使っていたが、どうやら上級者はロフト角度の記載されている通称「〇度」のウェッジを使うらしい。だいたい48°~60°くらいの中から2本、多い人は3本であったり4本、この「〇度」のウェッジをセッティングに入れているのだそうだ。

「なんか、今まで使っていたやつより『薄い』ような気がするね」

「そりゃあ、今までソノキが使っていたのは初心者用だからね。ちゃんとしたウェッジは、こんな形なんよ」

 “ちゃんとした”ウェッジと比べると、今まで使っていた”A”と”S”は、何だかちょっと厚ぼったい感じがする。

「ウェッジを選ぶときは、ロフトだけじゃなくて『バウンス』も大事なんだけどね」

「バウンス?何それ?」

「ウェッジのこの部分よ。ここ」

 そう言うと、クマダはウェッジのフェイスの反対面の丸みを帯びた部分を摩っている。

「ここがそれなりに厚いやつの方が、打ちやすいと思うぜ。バウンス12°とか、14°くらいが最初はちょうどいいんじゃないかな」

「ふぅん」

 はっきり言って、それが違うと何が違うのかよくわからなかったが、何でも最初はいわゆるオーソドックスなやつが正解であろう。そこからもし色々わかってきたら、自分で探せばいい。

「なんかこれがいい気がするな。フェイスに細かいギザギザが入っているし」

「お、なかなかお目が高いね。クリーブランド!松山英樹が使っているやつだよ。それなら割とオーソドックスだからいいんじゃないか」

「オッケー、じゃ、これにするわ」

 お目が高いと言われてその気になり、クリーブランドの52°と56°のウェッジを購入した。もちろん「それなりに状態のいい中古」だが、12月ということもあり、90切りを目指す自分へのクリスマスプレゼントだ。


 後日、早速新調したウェッジを持っていつものTセントラル練習場に訪れる。いつもは真っ先に打席に行くのだが、今回は練習場の横にあるアプローチ練習場に足を向けた。ゴルファーあるあるだと思うが、打席で気持ちよくかっ飛ばすのに比べ、アプローチ練習というのはどうにも地味だ。コツンコツン球を打っても、あまり上達した気がしない。でも、それこそ多くの人が陥りやすい罠であって、スコア向上を目指すなら、こういう地味な練習こそ大事なのだ。 アプローチ練習場は、練習場に併設されているショートコース9番ホールの横にあり、長くても30ヤード打てるくらいだろうか。早速構えてアプローチを試みる。新調したウェッジは、改めて構えてみるとだいぶ薄っぺらく感じられる。

「さて、これでどうなるのかな」

 

 コツン!

 ザクッ!!


 いつものクラブと全然違うからだろうか、全くうまく当たらない。いわゆるトップとザックリの連続だ。

「これ、買った意味あるんかいな」

 冬の少し寒い季節になって、芝も薄くなってきている。ますます難しい…

 いや、しかし、これができないということが正に90切りに向けた課題ということなのだろう。

「カズもやってごらんよ」

 今日は練習にカズも連れてきている。アプローチ練習場は、思ったより人がおらず、というか、私たち親子以外は誰もいない。寒空の下で地味な練習をわざわざしようという人は、案外少ないようだ。 カズも私を見ながらボールを打ち始めた。カズにとっては、20~30ヤードはほとんどフルショットだ。

「いいねぇ。芝生の上から打てて」

 そう思っていたら、カズはトコトコと走っていった。向かった先は…バンカー??

「え、そこでやるの?」

「うん」

 ボールをバンカーの中に散らかして、7番アイアンで打ち始めた。3歳児の背丈よりもアゴは高いバンカーだったので、当然ボールは出ない。

「アハハハハハハ!」

「何が面白いの(笑)」

 どうやらバンカーの中でボールを打って、あごを超えられずボールが戻って来るのが面白いらしい。なるほど、3歳児にとっては、バンカーは「出さなければならないハザード」ではなく、ただの遊び場ということのようだ。ま、要は「お砂場」だもんね。人も来ないし、とりあえず遊ばせておくことにした。

 しばらく練習して、気が付くと、カズがボールを打つ音が聞こえなくなっていた。何をしているかと「お砂場」をのぞき込んでみると、山を作ってそこに木の枝を刺して遊んでいた。

「お山を作るのは公園でもできるぜ。ここではボール打ってみようよ」

 そんな大人の理屈は通用するはずもない。カズにとって、ここは練習する場所でもなんでもないのだから。試しに打って見せてみたら興味出るかな?そういえば新調した56°をまだ使っていなかった。これはサンドウェッジになるやつだから、試しにバンカー練習もしてみるか。

「バンカーはこうやって打つんだよ。パパもまだ上手くいかないことも多いけど…」

 そう言って、バンカーから一発だけ打ってみた。砂を「バーン」とやって、いわゆるエクスプロージョンだ。

「お、上手いことでた!」 

 カズの反応は……さして興味もなさそうだったけど……

「バーン!」

 砂がたくさん飛び散るのだけは、ちょっと面白かったらしい。


 練習を終えて家に帰ると、おもむろにパソコンを開いている自分がいた。

「ウェッジがあったら、アプローチもちょっと興味持つかなぁ」

 ようやく自分が本格的にアプローチ練習をやってみようと思った矢先。子どもにもそうなってほしいと何となく思っている自分がいた。ネットで探してみると「オリマー」というブランドが2000円くらいの短いウェッジを販売していた。長さは今カズが使っている7番アイアンと同じくらいだ。ちょうど自分が卒業した”A”とか”S”と似たようなもので、”W”と記載されていた。

「お、これくらいなら。クリスマスプレゼントにしてみるか」

 

 クリスマスを迎えた。当日を迎えるまで隠していたウェッジと、カズが好きな車のおもちゃ。車の方はサンタさんからのプレゼントだ。ふたつのプレゼントが並べられているのを見つけて、喜ぶカズ。

「おおお!」

 興奮して手に取ったのは……もちろん車の方だ。

「よかったねぇ。カズ。サンタさん来てくれて」

「ほら、カズ!ウェッジもあるぜ!パパからのプレゼントだよ」

「わぁー…」

 言うまでもなく、車に比べて反応は薄い…

「ま、そんなもんか…」

 親のエゴでこさえたプレゼント。その日は、特に存在感を見せることもなかった……後日、車のおもちゃ以上に大いに役立つ日が来るのだが、それはもう少し先のことだった。


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