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ゴルフのそのき  作者: 園木まさ


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第5話 300ヤードと30ヤード

マサ(父) 34歳

カズ(息子) 3歳8か月


「いや、そろそろソノキも本格的にその気になってきたんだから、メンバーにならないといかんでしょ」

「いや、今時会員権て…そんなん金の無駄じゃない?」

 社会人になって子どももできると、何かしら友達と一緒にしようとしても都合がつかず先送りになることが多いのは誰もみなも同じ。随分先送りにされていた「100切り達成記念祝賀会」が静かに催されていた最中のやり取りだ。一番近いゴルフ場である「BSカントリー倶楽部」のメンバーで、公式ハンディキャップを持っている自称中級ゴルファーのクマダ曰く、100を切ったということは、そろそろ本格的なゴルファーとして周囲にも認められてきているはずであり、そうであるならば、どこかのゴルフ場の会員権を購入すべきだ、という主張だ。

「お前はまだ独身だからいいかもしれないけど、家族持ちには結構な出費よ」

 ゴルファーとして成長すべきという独身貴族クマダの主張は理解するが、ゴルフ会員権を買うとなると、ゴルフクラブを買うどころではない出費のため、反論する。

「まあ、それはそうだけどね。どこかのメンバーであるってことはゴルファーとしての『ステータス』でもあるわけよ。『ステータス』」

「そんなこと言うけど、メンバーですって言われて『何かすげぇ』とか思ったことはないけどなぁ」

 未だ「100切り」を達成していないシロタはどちらかというと反対派のようで、援護射撃をしてくれる。「ステータス」とやらはいったい何なのか。そんな見えもしないものに見栄を張るのもどうかと思ってしまう。

「あと、メンバーになったら公式ハンディキャップをもらえて、メンバー競技にも出られるわけよ。本格的な競技ゴルフは結構面白いぜ。要は『試合に出たいでしょ』ってことよ」

「いや、確かに試合ってのは興味あるけどね」

 確かにお金はかかるけれど、あの「100切り」の瞬間の達成感は、自分の中ではそれなりに嬉しいものであり、そういう熱い気持ちでやれるのであれば、一度青春時代の気持ちに戻って熱く燃えてみるのも悪くない。そういえば、部活でやっていたサッカーは、最後怪我などもあって、中途半端に終わってしまっていた。あの日燃やし尽くせなかった「何か」は、今も心のどこかで燻っているのだろうか……しかし、お金が……

 結局その日は、ああだこうだと議論を重ねた挙句、結論は先送りにすることとなった。やはり、数十万円もする思い切った買い物、しかもゴルフクラブのように何か現物を手にするものでもないので、そう簡単には決められない。

「そういやこないだ魚釣りに行った時さ……」

 その後は、他愛のない話に花を咲かせ、その日の「100切り達成記念祝賀会」は和やかに幕を閉じた。


 さて、初めて「100切り」を達成してから後も、当然ラウンドには行っているし、練習もしている。しかし、その後毎回100が切れているかというとそうでもない。どちらかというとまだ100を切れないことの方が多く、次に目標としている「90切り」にはまだまだ程遠いというのが現状だ。 そんなある日の練習にカズも連れていくこととなった。そもそもドライバーとアイアンは、持ち上げることしかできなかったため、パターで遊ぶこと以外にゴルフとは触れていなかったのだが、何となく「振れる」ようになってきた。どうせ自分で練習するなら、子どもも一緒に連れて行って面倒を見た方が何かと妻も楽ということだ。

 いつも自分が練習しているTセントラルゴルフ練習場にカズを連れてきた。

「おや、今日はお子さんも一緒ですか?」

「はい。3歳ですけど、いいですか?」

「ええ、もちろんもちろん。どうぞどうぞ。そんなちっちゃいうちから始めるなら、 将来はその気になれば、プロですかね(笑)」

「いや、どうでしょうかねぇ」

 練習場の社長は、常連客の息子を快く受け入れてくれた。

「いつも通り、2階のレッスン受けてきます」

 練習場では、決まった時間に2階でレッスンが行われている。レッスンのインストラクターは、カミシロさんという方だ。年齢はほぼ私と同じくらいだろうか。その昔体操選手をしていたけれど、今はゴルフを教えているというちょっと異色の経歴だ。体操で鍛えたパワーと柔軟性で、ドライバーは300ヤードくらい飛ばせるらしく、レッスン中にたまにインストラクター自ら手本ということで300ヤードの看板にぶち当てている。

「あ、今日はお子さんも一緒ですか?」

「はい。あの、まだ3歳なんですけど、ちょっとだけ一緒に練習してもいいですか?」

「お、いいですよ。ぼく、幼稚園でもスナッグゴルフとか教えていたことあるんで、お子さんもちょっとレッスンしましょうか?」

「あ、そうしていただけるとありがたいです」

 個人でレッスンしている方なので、何かと融通を効かせてくれる。

「ホラ、打ってみようか。まず構えからいくよ。『さかなつり~』」

 なるほど、アドレスの仕方を魚釣りに喩えながら身振り手振りで教えてくれる。幼稚園でも教えていたというだけあって、子ども慣れしているようだ。

 

 カンッ!


「お!飛んだねぇ。すごいね!」

 ドライバーを振って打ったボールが20ヤードくらい飛んでいる。


 カンッ!!


「お、また当たったねぇ」

 今度は30ヤードくらい飛んだだろうか。

 その後も、私が練習している傍ら、わんこそばのように自動で出てくるボールを次々と打ち始めたカズ。すると、カミシロインストラクターが驚いてこう言ってくれた。

「ソノキさん…この子、天才かもしれないですよ」

「ええ!?そうですか???」

「ぼくも幼稚園で教えたりしますけど、幼稚園の子たちですら、最初から全部当たらないですよ。この子、まだ幼稚園入園前でしょ?当てカンがいいんでしょうね」

「ええ、まあ……」

 そういえば、最初に100円ショップで買ったプラスチックのゴルフクラブでも、ほとんど空振りはしていなかった。よくよく考えれば、いかに子ども用とはいえ、3歳児にゴルフクラブなんて重すぎるに違いない。大人でいえば、数キロの長い棒を振り回しているようなものだろうか。ティーアップしているとはいえ、そんな重いもので空振りすることなく30ヤードも飛ばせるのは、大人の300ヤード飛ばすのに匹敵するくらいすごいことなのかもしれない。

 その日は、カズが飽きるまで30分くらい、親子そろってボールを打った。小気味よくドライバーだけ使ってポンポンポンポン30ヤード飛ばすカズは、何だか楽しそうだった。

 レッスンも終わり、帰りがけにカミシロさんがこう言ってくれた。

「また一緒に練習に来ますか? もしよかったら、しばらくこの子も一緒に練習見ますよ。もちろん、レッスン代は結構です!」

「え、そうですか!助かります!ありがとうございます!」

「また来てね!」

「バイバイ」

 どうやらカミシロコーチとの相性は良さそうだ。飛距離30ヤードの子を、その気になった飛距離300ヤードのインストラクターが教えてくれることになった。

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