第4話 想い出コロコロ
マサ(父) 33歳
カズ(息子) 3歳3か月
「うーん、やっぱりこの形がいいかな」
「いや、どうかな。それよりもうちょっとヘッドが大きい方が打ちやすいぜ」
例によって同僚のクマダとゴルフショップに来ている。今回は「100切り達成」を記念して新しいパターを買うつもりなのだ。約1年前に中古で購入した「目指せ100切りセット」の中で、パターだけは未だに借り物だった。今回は目標達成を自分で祝すため「新品」を始めて買ってみようと思っている。
「パターっていうと、この形のイメージあるな」
「ああ、『ピンタイプ』ね。確かにプロでも使っている人多いね。何だかんだタイガー・ウッズのイメージあるよね」
「うんうん。これがいい」
「でもね、それって結構難しいやつだから、こういう『マレットタイプ』ってやつの方が割と真っすぐ打ちやすいよ」
「でも、何かそれ『ボテッ』って感じがして嫌なんだよね」
「いや、見た目より性能でしょ」
そういうと、クマダはパターのウンチクを語り始めた。
「それにピンタイプはちょっと弧を描くみたいに動かす人向きなんよ。ソノキはどっちかというと真っすぐ引いて真っすぐ打ち出すような感じだから、マレットの方がいいんよ」
そう言うと、クマダは両手の指先にパターのシャフトを地面に平行に乗せて見せた。
「こうやって、フェイスが真上を向くのがいわゆる『ストレートタイプ』ってやつで、真っすぐ引いて真っすぐ打つのに合ってるらしい」
「へえ」
「で、ヘッドが垂れ下がっちゃうやつがいわゆる『アークタイプ』ってやつで、弧を描くようにストロークするタイプのやつね」
「ふぅん。じゃあ、『ピンタイプ』で『ストレートタイプ』ってのを選べばいいじゃないの?」
「いや、そんなのないんだって」
「そうなの?」
確かに『ピンタイプ』と言われるパターをクマダと同じように指先で持ってみたが…、いずれもヘッドがタランと垂れ下がる。これがいわゆる「アークタイプ」というやつらしい。
「まあまあ高い買い物になるから、見た目より性能で選んだほうがいいぜ」
「むむ……」
確かに、正論だ。しかし、見た目というのもスポーツにおいてはイメージを作る上で重要な気もする。そう思って悩んでいると、ヘッドがカッパー色っぽいピンタイプのパターが目に留まった。これはどうだろうと思い、例の持ち方をしてみると……
「あれ、これ真っすぐじゃん」
「え!?嘘!?そんなんあったの?ピンタイプでストレートって、珍しいね」
「これにするわ!」
ちょっとギアオタクのクマダも驚いている。思いのほか珍しいものらしい。値段は3万円弱。PINGの「アンサー5」というパターだった。その他クラブは中古だったので、全部合わせて10万円弱だったことを考えると、パターだけ新品で、不釣り合いに高価なものになるが、まあいいだろう。何せ「100切り達成祝い」なのだから。
「いや、それはちょっといいわ。おれも欲しいわ」
クマダもちょっとうらやましそうにしていた。
「いい買い物ができた。これでパター上手くなったらもうちょっとスコア減らせるかな。次の目標は90切りだぜ」
満足のいく買い物ができて、意気揚々とさらなる目標達成に向け、その気になって帰路に着いた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりぃ」
家に帰ると、妻とカズが出迎えていくれる。
「今日はいい買い物できたよ。たまたま結構珍しいパターが手に入ってさ」
「ふぅん」
相変わらず妻はゴルフに特段興味がない。
「今度の休みの日にカズを連れてパターゴルフ場に遊びに行ってみようと思うんだ。O森中央公園にあるらしいよ」
「いいんじゃない」
要は買ったばかりの自分のパターを使いたかっただけということはおそらく見透かされていたであろうが、妻は快く承諾してくれた。公園だから、パター以外にもできそうなことはあるからね。
その日の週末、約束通りO森中央公園に向かった。パターゴルフ場と言っても、そんなに長いものではなく、1ホールだいたい数メートルから、長くても10メートルくらいまでだ。打ち過ぎてもボールがはみ出ていかないように、各コースは壁で囲まれている。これなら子どもでも遊べる。
「よーし、カズ、ここでパターしてみよう。パター」
「いいよぉ」
カズの誕生日に買ったゴルフクラブセット、実はほとんどまだ使ったことがなかった。どうしてかって?シンプルに、意外と重くて、ドライバーもアイアンも振ることができなかったからだ。でも、パターならコツンと当てるだけなので、何とかコロコロ転がせる。
「お、そうそう。そうやって転がすんだよ。上手じゃん」
「おお!」
何だかんだでボールを転がすのが楽しそうだ。車や電車のタイヤに興味を持つように、何かしら「転がるもの」にはどうやら興味を示すらしい。打った回数なんてどうでもいいパターゴルフが始まった。
コツンッ!
コン!
コン!!
壁にぶつけて跳ね返すのが楽しいらしい。
「ほら、次はパパが打つよ」
カズにとってはどうでもいい打数だが、私にとっては大事な「新入り」の初打ちだ。結構真剣に打ってみる。
「お、打ちやすい」
芝生のグリーンと違い、テニスのハードコートみたいに、地面はコンクリートだった。思いの外高速グリーンだったため、ボールはカップをコロコロと通り過ぎてその先の壁にぶつかって跳ね返った。本当のグリーンだったら、アプローチになって、そこから寄らず入らずダボ、みたいなところだろうか…
「ハハハハハハッ!」
相変わらずカズはボールが壁で跳ね返るのが面白いらしい。そういえば、自分も昔父親と旅行に行った先でパターゴルフ場があれば、一緒に遊んでいた。そこにパターゴルフ場があるとわかっている場所に行くとわかっていたら、結構楽しみにしていた覚えがある。何だかんだで、かなり以前からゴルフを面白いと思っていたのだろうか。父も、私がパターゴルフで遊んでいるのを見て、今自分が感じているほほえましいような、何とも言えない感情を抱いていたのだろうか。実は、父とはずいぶん昔に喧嘩をして、それ以来ずっと会っていないし連絡もしていない……父は、カズが産まれたことを知ってはいるだろうが、まだ会わせたことはない。いつかカズが「おじいちゃん」と対面する日は来るのだろうか……
そんな感傷に浸りつつ、一応カップに入れるところまでボールを転がして……ま、今日は打数はどうでもいいか。ただ何となくボールをコロコロ転がして、何となく18回カップにボールを入れて、その日の18ホールは終わりを迎えた。
最終ホールが終わると、そこにはなぜか1位から3位までの表彰台があった。
「あ、カズ!1番ってやってみ!1番!」
「??? 1ばーん!」
何だかよくわからないままその気になって、無心で突き上げられた人差し指は、雲一つない穏やかな晴天の空へと向かっていた。




