第20話 仕上げのBSカンツリークラブ
マサ(父) 35歳
カズ(息子) 4歳11か月
いよいよ、目標とする「世界ジュニア日本代表選抜大会」が間近に迫った。今日はカズの仕上がり具合を確認するため、いつものBSカントリークラブで、試合前の最終ラウンドだ。試合に臨むためのセッティングもそろっている。
ドライバー(キャロウェイ) 90~100Yd フェアウェイウッド(キャロウェイ) 80~90Yd
ユーティリティ(オリマー)70~80Yd
7番アイアン(キャロウェイ) 50~60Yd
9番アイアン(キャロウェイ) 40~50Yd
ウェッジ(オリマー) 30Yd以内
パター(イグニオ)
全部で7本。誕生日やクリスマスのプレゼントでこさえたものに、先日ナカムタさんから頂いたクラブを切って調整したものが入り、思いがけずいい感じに距離の間も埋まっている。総距離2000Ydちょっとの試合を闘うには十分過ぎるセッティングだ。
そして、ジュニアの大会には特有の問題がひとつある。それは……親がキャディをしないといけないのだ!当然といえば当然か。6歳以下の子どもが、ひとりでラウンドなんてできるはずもない。そもそも打数を自分で数えられるかどうかも怪しい。いや、きっとひとりだとだいぶ間違えるに違いない。そもそも義務教育を受ける前だから「足し算」すら正式に学校では習っていない。今日のラウンドは、自分の「キャディ」の予行演習も兼ねている。
「よし。今日は試合前最後のラウンドだよ。どれくらいで回れるか、試してみよう」「おお!」
心なしかカズもちょっと気合が入っているように見える。とはいえ、まだまだ試合というのが何なのかもよくわかっていないはずだし、本人は、いつも通り楽しくやるだけだ。ひょっとしたら……試合本番では、子どもよりキャディを務める親の方が緊張するかもしれない。
「よろしくお願いします」
「よろしくおねがいします」
「試合本番でも、挨拶はきっちりやろうね」
試合に向けて、最初の1打目の時の挨拶もしっかり教える。マナーも大事だから、勝ち負けや結果に関わらず、ここだけはきちんとしておかなければならない。
BSカントリークラブ1番ホール。ほぼフラットのパー5だ。大会の時のヤーデージは、パー5でも200Ydを切るくらいだ。だいたいそれくらいのところを仮想ティーイングエリアとして設定する。どうやら試合本番でも、それくらいの位置に特設ティーが設けられるらしい。
カンッ!
「ナイスショット!」
ドライバーは一番練習している。やっぱりシンプルに遠くに飛ばせることは、子どもにとっても面白い。練習の3~4割くらいはドライバーじゃないかと思う。まだ飛距離もそうないので、曲がって変なところにいくということもあまりない。正直、1打目は安定している。「キャディ」としては、子どもが気分良くやれるように、とりあえず半分応援する感じで声をかけようと思っている。
2打目地点にやってくる。2打目はナカムタさんから頂いたフェアウェイウッドだ。まだ100Yd近く残っているので、おそらくグリーンに届くか届かないか、くらいだろう。本番でもこれくらいの距離が残ることが想定される。
カンッ!
2打目も割と上手く打つ。これも曲がることはないので、ほぼ真っすぐ。グリーンまで10Ydくらい残っただろうか。問題はここからだ。
「さあ、アプローチ。寄せてバーディ取りたいね」「うん」
「半端な距離だから、振り上げ過ぎないようにね」
「うん」
うーん。こんなのでアドバイスになっているのだろうか。距離の調整を何と言って伝えたらいいのかわからない。
カシュ
手前ピンを狙って打ったボールは、ピンのだいぶ奥へ。やっぱり、ここが一番難しい。練習でもやっぱりフルショットをやりたがる。カミシロコーチの秘策と「工作」でちょっとだけアプローチ練習をするようになって、的当て練習は好きになってきたものの、やはりまだまだ「グリーン向かって打つ」という練習が足りていない。どれくらい打てばどれくらい転がるか、といったところまで含めての距離感はまだまだ身についていない。かと言って、どれくらいどう振ればいいのか、伝えるのも難しい。
「ナイスパー!」
2パットで沈めてパーとなった。パー5は比較的パーが取りやすい。とりあえず普段の週末ゴルフ同様、パーが取れた時の「ナイスパー」だけはしっかり言うことにした。
続いて、2番ホール。本来ここは400Ydを超える比較的長い右ドッグレッグのミドルホールだ。自分でラウンドするときは、正直ここはボギーでいいと思っている。飛距離がないと、ちょうど右に折れ曲がるところあたりから2打目を打つこととなり、左右のバンカーも効いている。BSカントリークラブは高麗グリーンで、非常に硬い。大きな番手で打つと、グリーンに止めることも難しい。メンバーや自分は、手前に置いてアプローチ作戦で、「パーが取れるかどうかは寄せ次第」と考えるホールだ。
しかし、カズの試合のヤーデージだと、パー4は長くても120~130Ydとなっている。この距離だと「右ドッグレッグで右に曲がった後」なので、要するに真っすぐのホールとなる。
カンッ!
「ナイスショット!」
やっぱりティーショットは上手くいく。フェアウェイをキープ。2打目は9番アイアンで十分なようだ。ほぼフルショットの距離。
カシュ!
「ナイスオン!」
中途半端な距離より、フルショットの方がかえって安心できる。
「下りのパットだね。距離感大事だから、打ち過ぎないようにね」
「うん」
自分で言っていて思うのだが……パターの距離感なんて、4歳児にどうやってアドバイスすればいいんだ?こんなので伝わるのか?
コツッ
ちょっと強すぎたため、ボールはカップを3メートル程、通り過ぎた。
「今度は上りだよ。さっきより強めでいいよ」
「うん」
そうは言ったものの、ショート。スリーパットでボギーとなった。
「ドンマイ!次いこう」
そう声をかけたものの、当のカズ本人はボギーになったからとて、そんなに気にもしていない。「スコアを競う」のがゴルフなのだが、ふと思えば、そもそも「打つこと」が楽しいだけでやっているので、義務教育で足し算もまだ教わっていない4歳児にとって、スコアを足し算して競うということ自体の意味がわかっていないかもしれない。
3番ホールは池越えのパー3だ。池がグリーンに絡んでいるというわけでもなく、かなり手前にある池なので、そんなにプレッシャーになるわけではないのだが、自分も100切りする以前は、よくこの池にボールを入れたものだ。いや、今でもたまに池に入れるか……
とはいえ、カズの試合のヤーデージだと、パー3は50Ydもない。ちょうど池を越した先くらいから打つということなので、池は全く関係ない。とりあえず40Ydくらいのところから打たせてみる。
カシュ!
ちょっと打ち上げをウェッジで打ち、グリーンのやや手前。
「よし、アプローチだ。これもフルショットじゃないよ。振り幅は、腰くらいかな」
「うん」
ウェッジで打ったアプローチは、ちょっと下をくぐってショート。そこから2パットのボギーとなった。
こんな具合で、何となくボギーペースくらいで進んでいった。時折パーも取れるけれど、基本的にはボギーが多い。ティーショットはだいたい上手くいくのだが、フルショットじゃない距離が残ると距離感がなかなか合わせられない。パターの距離感も何となくなので、スリーパットも出る。 そんなこんなで、18ホールを終えると、93で上がっていた。一応100は切っているし、普段の自分のラウンドだったら「まあまあか」くらいのスコアだ。現時点の実力はこれくらいだろう。
これでどこまで通用するか……
アプローチやパターの距離感、どうやって伝えたらいいのかな……
キャディとしてできる作戦とかあるかな……
もうちょっとパターとアプローチ練習させないとな……
そんなことを考えていると……
「おはな」
「ん?」
「おはながあるよ」
「ああ、そうだね。お花キレイだね」
「とってくる」
「え、ああ」
春になり、ちょっと暖かくなってきたゴルフ場に咲いていた小さな花を見つけたカズ。試合のことにばかり考えて、大人の自分は、そんな花なんて目にも留まっていなかった。いや、そもそも試合なんか抜きにしたって、ゴルフ場で花を愛でたことなんて、一度もなかった。子どもにとっては、ゴルフ場も公園も、自分の感性を刺激してくれる場所ということで、さしたる違いもないのだろう。
「ママにもってかえる」
「ああ、そうだね。ママ、喜ぶね」
「あ、チョウチョ!」
今度はチョウチョを追いかけ始めるカズ。試合に向けた予行演習のつもりだったが、そう思っていたのは親である「キャディ」だけだったみたいだ。「選手」本人は、いつも通りただ目の前に広がり、起きる出来事を楽しんでいる。
試合まで残りわずか。今更じたばたしたって仕方がない。
「あとは行ってみてからのお楽しみ、かな」
暖かさと冷たさの入り混じる気まぐれな春の空気を感じながら、そんな気分に浸るのだった。




