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ゴルフのそのき  作者: 園木まさ


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19/19

第19話 渡りに舟 ~ゴルファーにクラブ~

 マサ(父) 35歳

 カズ(息子) 4歳10か月


 それは、何の前触れもなくやってきた。

「ついに90切った!88!」

「いや、いきなりきたね。急にどうした?」

 普段はあまりゴルフをしないマスイ先輩、それにいつものメンバークマダとシロタを加え、お遊びで訪れたサンレイクカントリークラブというゴルフ場。特に気合を入れて臨んだというわけでもないのだが、なぜか目標としていた90切りを達成した。最近はどちらかというと、初めての試合出場を決めたカズの試合に向けた準備のことばかり考えていたのに、まさか自分の目標が先に達成できるとは思わなかった。カズの初試合の会場は、「ムーンレイク」カントリークラブという名前だ。「月」と「日」で違うが、何となく「サンレイク」という名前のゴルフ場で目標達成できたのも縁起が良いように感じられる。まあ、何も因果関係はないのだけれど……

「何か変わったところあったっけ?」

「そういえば、5番アイアン使う機会が多くって。こいつのお陰かな」

 実は、つい最近5番アイアンだけ買っていたのだ。PINGのいわゆる「飛び系アイアン」で、元々試打用だった上にバラ売りだったためか激安で、2000円くらいで売っていたのを衝動買いしたものだ。どちらかと言うとウッド系は苦手なので、ユーティリティもアイアン型がいいかな、なんて悩んでいた時に見つけた。180ヤードくらいを比較的易しく打てるので、初投入した今日のラウンドで重宝した。

「やっぱゴルフはクラブで結構変わるよな。その5番アイアン結構高さも出てたし」

「うんうん。そう思う」

「いや、何使ってもそんな変わらんばってんね」

 クマダとクラブトークをしていると、マスイ先輩が異論を唱える。先輩の今日のスコアは123だ。

「先輩も100切ってくるくらいになるとクラブの違い、何となくわかりますよ」

「いや。おれはもう何でもよかもんね。『弘法は筆を選ばず』ってことよ」

「先輩。それは上手な人が言うやつですよ」

「ああ、そがんね。そういや、ソノキのところと坊ちゃんは試合出るんやろ?」

「ああ、はい」

「子どもってどんなの使うん?」

「クラブ5本しかないんですよ。ドライバーは前に買ったやつで、背が伸びて短くなってきたような気もするんですよね。それにもうちょっと番手増やしたいのもやまやまなんですが…」

「自分のばっかり買ってないで、新しいの買ってやったらどがんよ?」

「いや、それがなかなかないんですよ。ジュニア用。今使っているイグニオのやつは、次の長さのは長すぎまして」

 そう。ジュニア用のクラブは、長さの「間」が結構空いている。ジュニア用のイグニオセットは3段階くらいあるのだが、今使っている1番短い幼児用のセットの次になると、かなり長くなってしまう。ドライバーの長さでいうと、27インチから33インチと、6インチも長くなる。1インチは2.54センチメートルだから、15センチメートル以上も違うということだ。いきなりそんなに長くなっても、おそらくまともに振れないだろう。

「何か適当に買って、切るのはどがんね?」

「いや、それもちょっと考えたんですけど、大人用は重いんですよね。新品のジュニア用を買って切るのももったいないし、中古のジュニア用はなかなか売ってないし、難しいんですよね……」

「あ、そういえば……」

 今日も118とだいたいいつも通りのスコアだったシロタが思い出したように口を開く。

「うちの上司のところの息子さんが昔ゴルフやってたらしくてさ。今はもうやってなくて、ジュニア用のが余っているとかって言ってたな。どんなのか知らないけど、譲ってもらえるかもよ?」

「え、マジで!?頼むわ」

「おお。カズの試合デビューのため、ちょっと訊いてみるわ」

 以前カズと一緒に練習してくれたシロタは、何だかんだでカズの試合を楽しみにしてくれている。友人が我が子を応援してくれるのは、嬉しいものだ。

「子どもが試合出るなら、自分も会員権買って『競技ゴルファー』になってもいいんじゃない?いよいよ90も切ったわけだし」

 今日も84で回っている競技ゴルフ推奨派のクマダがすかさず口をはさんでくる。

「いや、まあ、それはそれ。これはこれよ」

 言われてみれば今日は途中までクマダとそれなりにいい勝負だった。確かにそうやって競い合うのは面白いということはわかっているのだが……


 後日、シロタから連絡が入る。シロタの上司のナカムタという方がジュニア用クラブを譲ってくれることになり、すでにクラブを職場に持ってきてくれているということだった。仕事終わりに、シロタの職場を訪れる。「失礼します」

「お、いらっしゃい。もう準備してくれているよ」

 シロタが出迎えてくれる。早速ナカムタさんがクラブを持ってきてくれた。

「おお。キミがソノキくんね。シロタがいつもお世話になっています」

「いえ、こちらこそお世話になっております。今日は突然のお願いでしたが、ありがとうございます」

「いやぁ、うちもずっと置いていても仕方なかったからね。はい。これ」

「本当に頂いちゃっていいんですか?」

「いいよいいよ。うちの子も最初は遊びで結構練習行ったりしてたんだけど、結局サッカーの方にいっちゃってね。全然やらなくなっちゃったから。自分で使うにも短すぎるし、売るにしてもジュニア用は全然値段つかないし、妻からは『邪魔だ』って言われるし……困ってたんだよ。もらってくれて、逆に助かるよ」

「ありがとうございます!それでは、遠慮なく使わせて頂きます!あの。これ、よかったらご家族で召し上がって下さい」

「ああ、悪いね。気を遣わせちゃって」

 急いでこしらえた菓子折りを手渡し、引き換えにキャディバッグごと、クラブを頂いた。少し昔のモデルみたいだが、キャロウェイのジュニア用だ。ドライバー、フェアウェイウッド、5番アイアン、7番アイアン、9番アイアン、ウェッジ、パターの全部で7本入っている。

「使えそうかな?」

「うーん。ちょっと長いので、切った方がいいかもしれません。頂いたもので、申し訳ないのですが……」

「いいよいいよ。もう使わないし、切ってもいいし、自由に使って」

「ありがとうございます!」

 思いがけず、ジュニア用のクラブが手に入った。長さは少し長いが、切ってもいいということだったので、ちょうどいい長さにして使うことができる。まさに「渡りに舟」。「ゴルファーにクラブ」だ。


 さらに後日、近所のゴルフショップで、頂いたキャロウェイのクラブを切ってもらうことにした。長さは、今使っているものより少しだけ長くすることにした。もちろん工賃はかかるわけだが、新しく買ってからインチカットすることを考えれば、だいぶ助かった。全部は使わないから、ドライバー、フェアウェイウッド、7番アイアン、9番アイアンをカズにちょうどいい長さに切って調整した。


「ジャーン!!」

「???」

「新しいクラブだよ。これで試合に向けて、武器もそろったね」

「おお!」

「早速打ってみようか」

「うん!」

 いつものTセントラル練習場で、完成したばかりのクラブを振ってみる。まずはドライバーからだ。


 カンッ!


「おお!」

「いつもより飛んでるね!」

 少しだけ長くなったドライバーの飛距離は、90ヤードを少し超えていた。

「やっぱり、ゴルフはクラブで変わるねぇ」

 新調したばかりのクラブで練習に熱が入るカズ。つい先日、自分が目標としていた90切りをついに達成したのだが、そんなことより、カズが90ヤード以上飛ばせるようになったことの方が、何だか妙に嬉しく感じられるのだった。世界ジュニア日本代表選抜大会に向けて、どうやら武器はそろったようだ。





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