第18話 いざBSカントリークラブへ!!~本コースデビュー!!~
マサ(父) 35歳
カズ(息子) 4歳9か月
「アプローチの練習もずいぶんやるようになりましたね」
「いや、コーチの『発明』のお陰ですよ」
今日もTセントラル練習場のカミシロコーチのレッスンを親子で受けている。カミシロコーチ制作の「キラキラ電飾動く的」のお陰で、アプローチの練習も楽しみながらやるようになってきている。最近は自分の練習よりも、世界ジュニアに向けて挑戦すると決めたカズの練習の方にばかり注力してしまう。
「アプローチの次は、やっぱりパターですよね」
「そうですね。パターはスコアメイクでは必須ですよ。カズのパターはどんな感じですか?」
「パターは…そうですね。河川敷でラウンドしたときもスリーパット以上が多いですね。ちゃんと数えてないですが、半分か、それくらいはスリーパット以上かもしれません」
「それはまずいですね」
「どこかパターの練習できるところないでしょうかね」
「パター練習はやっぱりグリーン上でやるのが一番ですね。ここだとショートパットしかできないですからね」
確かにそうだ。パター練習は、グリーンの上でやるのが一番だ。こればっかりは、いかにカミシロコーチであったとしても「手作り」で何とかできる話ではない。
「ここからだと、BSカントリークラブが一番近いですから、練習グリーン使わせてもらえるようお願いしてもいいんじゃないですか?」
「え、練習グリーンを?」
「意外とOKしてくれるかもしれませんよ」
「そうですか。それじゃあ、今度BSカントリークラブに尋ねてみます」
「それに、そろそろ河川敷だけじゃなく、本コースもラウンドしておいた方がいいですね。やっぱり、本コースは傾斜とかラフとか、色々ありますから」
「確かにそうですね」
カズとラウンドしている河川敷は、基本的にほぼフラットで、傾斜がない。試合会場となるムーンレイクカントリークラブ鶴舞コースも、インターネット上の写真や動画を見た限りかなりフラットなようだけれど、それでも河川敷ほどではないだろう。
「子どもがラウンドするのに、いくらくらいかかるんでしょうね…?河川敷は子供料金でしたが…」
「小学生は、小学生料金みたいのがあったはずですよ。メンバー料金か、それよりも安いくらいで回れたはずです」
「あ、そうなんですか?」
「はい。そうですよ。あ、いや、でも、幼稚園は……どうなんでしょうね」
「これも尋ねてみないとわからないですね……」
レッスンを終えて、自宅に戻り、早速自宅から一番近くにあるBSカントリークラブに電話をする。
「あの、ソノキと申します。いつもお世話になっております。〇月〇日、ラウンドの予約を取りたいんですけれど」
「はい。ソノキ様。いつもありがとうございます。何名様でしょうか」
BSカントリークラブは、自宅から一番近く、何度もラウンドしているなじみのゴルフ場だ。受付の方も私のことを覚えてくれている。いわゆる常連ってやつだ。非常にいいゴルフ場で、スタッフの方たちもとても人柄がよく、気さくでありながらも礼儀正しい。居心地がいいゴルフ場であることは間違いなく、メンバーになるかどうかは……未だに検討中だ。
「えっと、大人ひとりと、ジュニアひとりです。とりあえず薄暮で9ホールお願いしたいです」
「はい。ジュニアの方は、JGAの会員証はお持ちですか?」
「え、何ですか?それ?」
「日本ジュニアゴルフ協会の会員証です。これをお持ちですとジュニア料金になります」
「あ、そうなんですか。持ってないです。あと、ジュニアは、うちの子で4歳なんですけれども……」
「……よ、4歳ですか?少々お待ちください」
「はい。一応もう河川敷ではラウンドしているので……」
さすがに、4歳児がゴルフ場でラウンドするなんて、前例がなかったのだろうか。
「……」
随分と待たされる。BSカントリークラブの電話保留中に流れる音楽は「ジュピター」だ。我々の世代だと平原綾香さんがカバーしたことで馴染みのある曲だ。ジュピターのサビの部分が何度か流れた後、ようやく再度繋がった。
「お待たせいたしました。ええっと、JGAの会員になれるのは小学生からで、4歳だと料金設定が本来ございません」
「あ、そうなんですか……それじゃあ、通常料金ですか?」
さすがに通常料金だと金額的に厳しいなと思いつつ、それでも行くつもりではあった。何せ、世界に向けて挑戦するつもりなのだから。
「いえ、でも、ソノキ様にはいつもご利用いただいておりますし、JGAのジュニア会員価格で構わないと支配人が申しております」
「ほ、ほんとですか!ありがとうございます」
助かった。やっぱり良心的で、いいゴルフ場だ。
後日、予約していたBSカントリーにカズとふたりでやってきた。顔なじみの支配人に声をかける。支配人は、背が高く、清潔感があり、スラっとしていて、いわゆる「イケオジ」ってやつだ。一緒にラウンドしたことはないが、野球が上手で、ゴルフも上手らしい。
「この度は、ご配慮いただき、ありがとうございます」
「いえいえ。小学生はだいたいJGAの会員でジュニア料金なのに、そのさらに年下に大人の通常料金かかるのはおかしいですから。それに、うちは結構幼稚園児とか小学校低学年の子たちのスナッグゴルフのイベントで利用してもらったりもしているんですよ」
「あ、そうなんですか」
「はい。お子さん4歳ということですけど、スナッグゴルフじゃなくて、普通のゴルフできるんですか?」
「はい。河川敷では、100切ったりしてますよ。もちろんティーはずいぶん前からですけれど」
「え、すごいですね」
「それに、今度6歳以下の大会に出場させたいと思ってまして。本コースも体験させたかったもので」
「6歳以下の大会なんてあるんですか」
「はい。それで、パター練習もさせたいんですけれど……ラウンドしない時でもパター練習だけで来たりしてもいいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。うちはジュニアの子たちがたくさん練習に来てますから」
「ホントですか!ありがとうございます!」
BSカントリークラブは、近隣でも名門コースと名高いゴルフ場だ。勝手な先入観で「御堅い」イメージだったのだが、思いの外、門戸が開かれていた。特に、ジュニア育成という面では寛大なゴルフ場だ。
早速1番ホールから薄暮9ホールラウンドだ。カズにとっては、初めての本コース。河川敷とはまた雰囲気が違う。河川敷にはない松の木が美しく立ち並ぶ。しかし、その美しさに反して、この松林は、時としてゴルファーを苦しめるハザードとして牙をむく。
「ほら、いよいよ本コースデビューだね。楽しんでいこう」
カズは、世界ジュニア日本代表選抜大会を想定した位置からティーショットさせることにした。今日はカズが本番に向けてどれくらいできるのか、現時点での実力を知るためのラウンドでもある。どちらかといえば、自分はおまけみたいなものだ。
1番ホールパー5は、だいたいグリーンまで200ヤードくらいのところからスタートした。BSカントリークラブは、アウトコースはかなりフラットで、試合会場となるムーンレイクカントリークラブ鶴舞コースに少し似ている。半面、インコースは距離が短く、アップダウンや傾斜が激しい。アウトコースとインコースで、かなり印象が違うゴルフ場だ。
「よーし、いってみよう!」
カンッ!
カズの第1打。河川敷であろうと本コースであろうと、あまり変わらない。真っすぐに飛んだボールは、だいたい80ヤードくらい飛んだだろうか。
「おお!ナイスショット!」
2打目はユーティリティで無難に打ち、残りは50ヤードくらい。今度は7番アイアンでナイスオン。
「おお!やるじゃん。カズ!」
しかし、パターは相変わらずスリーパットでボギー。ここは高麗グリーンだから、いつもの河川敷とまたちょっと違う曲がり方をする。順芽か逆芽かしっかり見極めないと、タッチも合わない。まあ、カズはそんなことを伝えてもまだ理解できないだろうけれど……
思った通り「グリーン周り」まではそれなりに上手くたどり着くことができる。
2番ホールパー4。ここはレギュラーティーからだと、420ヤードと本来比較的長めのパー4で、右ドッグレックだが、カズの試合本番に近い残り120ヤードくらいのところからスタートする。ちょうどコースがドッグレックする曲がりの後の場所なので、ほぼストレートのコースとなる。だいたい試合本番でもこういう感じになって、ドッグレックなんかはなくなるのであろう。真っすぐのコースで真っすぐ打てるのだから、何となく戦えそうな気がしてくる。 ティーショットは上手くいって、2打目のユーティリティ。ちょっと右に逸れて、グリーン右サイドのガードバンカーにつかまった。いつも遊びに行っていた河川敷のコースには、グラスバンカーはあったけれど、砂のバンカーはなかった。コースでのバンカーは、初めての経験だ。
「あちゃあ。バンカーだね。出せるかな?」
「だせるよ」
なぜか妙に自信満々だ。
バフッ!
“W”と刻まれたオリマーのウェッジで放たれたボールは、見事バンカーから脱出した。
「ナイスアウト!」
でも、ピンに寄っているとまでは言えず、そこから2パットのボギー。
「ねえねえ。バンカーから打つ時、どうしてるの?」
「てまえのすなのところをうつんだよ」
「え、打ち方合ってるじゃん。何で知ってるの?」
「だってそうじゃん」
「え、ああ、うん」
つまり「ダフらせる」ということを説明しているのだが、カズは「ダフる」という言葉を知らない。そもそもバンカーの打ち方を教えた覚えはない。もちろん、カミシロさんのレッスンでも、バンカーはまだ教わっていない。いつもの「お砂場」遊びで勝手に学んだのだろうか。河川敷でのスーパーショットのときもそうだったが、カズには色々と驚かされる。
9番ホールまで、展開としては似たような形が多くなる。「グリーン周り」まではだいたいいいペースでやってくる。あとはそこからのアプローチとパターが多いか少ないかでパーだったり、ボギーだったり、ダブルボギーだったり、という展開だ。結局この日は、トータル52だった。
「おお。もうすぐでハーフ50切れそうじゃん。やるねカズ」
「うん」
そう言いながらも、おそらくカズはハーフ50がどうとか、そもそもスコアなんて、大して気にしていない。ゴルフがスコアの数字を競うスポーツであるということもまだあまり意識していない。
「パパは50だったから、もうちょっとで負けちゃうかもしれないなぁ」
カズの方ばかり気になって、自分のゴルフはイマイチだ。普段の自分のラウンドだったら「ああ、今日もイマイチだ」なんて打ちひしがれているのだろうが不思議と「なんだかやれそうじゃん」という期待と希望の方が大きく感じられるのだった。




