第17話 キラキラアプローチ練習 ~動く「的」が心を動かす~
マサ(父) 35歳
カズ(息子) 4歳8か月
「今度試合に出ることにしました」
「いよいよ試合ですか!なんの試合ですか?」
「世界ジュニアの日本代表選抜大会ですね」
「世界ジュニア?え、ソノキさんじゃなくて、カズの方ですか?」
ダンロップフェニックストーナメント観戦を経て、世界ジュニアに向けて挑戦することをカミシロコーチに伝える。
「こんな小さい年齢で出られる試合なんてあるんですね!知りませんでした!でも、試合に出るのはいいことですね」
「そうですね。探しても、これくらいしか出場できそうな大会がなかったです」
「試合はどこであるんですか?」
「千葉県市原市ですね。『ムーンレイクカントリークラブ鶴舞コース』ってところでした。ご存知ですか?」
「いや、さすがに関東の方のコースまでは……」
「そうですよね……」
「試合の前に色々仕上げないといけませんね!」
「はい。引き続きよろしくお願いいたします」
「試合ともなると、アプローチをやっておく必要がありそうですね」
「そう思うんですけど、アプローチはなかなか練習してくれないんですよね……」
そう。打席に来るとどうしてもフルスイングをしてしまいたくなるのは子どもも一緒なようで、なかなかアプローチのような地味な練習をしたがらない。スコアメイクのためにそこが大事だということは、自分も最近ようやく理解できたところだ。自分の方は、アプローチの練習に注力するようになってから、比較的安定して100前後、いいときは90台前半くらいでラウンドできるようになってきた。ベストスコアは91にまで達し、目標の90切りまで、何となくいけそうな気がしてきている。
自分が理解すると、子どもにもそうなって欲しいとついつい願ってしまうのが親心だ。しかし、
「スコアをまとめるには、アプローチが大事なんだぜ」
なんて、子どもに理屈で説明したところでわかるはずもない。一応言葉では伝えてはいるものの…… カミシロコーチから教われば、少しはやる気になるだろうか。
「よし。カズ!今日はアプローチやってみようか!」
「うん」
返事はよく、少し期待が持てる。
「よし。じゃあ、まずはいつも通り『さかなつり』からいこう。アプローチは、ちょっとふり幅を小さくするけど、右からボールを見るのは一緒だよ」
何となく言われたとおり、10ヤードくらいを打つ。
「よーし、その調子で頑張ってごらん」
カミシロコーチのレッスンは、だいたい4~6名くらいのレッスン生が並んで練習している。ワンポイントアドバイスをしたら次の生徒さんの指導へ移っていく。カミシロコーチが離れていくと、カズはいつも通りフルショットを始めていた。
「カズ、今日はアプローチしっかりやろうぜ」
「うん」
返事とは相反して、やっぱり飛ばないのは面白くないらしい。すぐにユーティリティやドライバーに持ち替える。
カンッ
小気味よくボールを飛ばして満足そうな顔をしている。でも、父としては、試合で闘うため、そこではないところを磨いてほしいのだが……
「カズ。試合で闘うには、アプローチが大事なんだぜ。ほら、パパもやるから、一緒にやってみようよ」「うん」
やはり返事はいい。でも行動は……相変わらずフルスイングだ。
そうこうしていると、カミシロコーチが戻ってきた。
「やっぱり、なかなか短い距離の練習は長く続きませんね」
「まあ、子どもですからねぇ。よし!カズ、さっきみたいに短いのやろうか」
「うん」
やはり返事に反して、長続きしないし、集中力もいまいちだ。その日の練習は、色々と中途半端なまま終わってしまった。
「うーん。なかなか思い通り練習してくれませんね」
「そりゃまだ4歳ですからね。ぼくにちょっと考えがありますので、次までに準備しておきます。ぼく、こう見えて結構『工作』好きなんですよ」
「『工作』? 練習グッズを作るっていうことですか?」
「はい。次までに作っておきますね」
一体どのような秘策があるのだろうか?
後日、再びカミシロコーチのレッスンに訪れる。すると、40~50センチ四方くらいの大きさの白いかごのようなものに、電飾が取り付けられている。
「ジャーン!カズ!これにボールをぶつけてみよう」
カミシロコーチがそのかごのようなものを10ヤードくらい先に置く。
「へえ。当てるとどうなるのかな。よし、パパもやるから、競争だ!」
「うん!」
そうだった。ダンロップフェニックストーナメントで気づいたんだった。カズは戦闘民族サイヤ人気質がある。競争という形にすればモチベーションが上がるに違いない。親子ふたりで10ヤード先のかごを狙い打つ。
カシュ
カシュ!
カシュ!!
なかなか当たらない。でも、アプローチの練習になっている。おそらくカズは「アプローチの練習をしている」という感覚はない。あの時のスナッグゴルフと一緒だ。ただただ、「先にあのかごに当ててやろう」としているだけだ。
そうして打っていると……
カンッ!
「あたったぁ!」
カズの打ったボールが白いかごを捉えた。すると…
「おお、光ってる」
取り付けられた電飾がピカピカと光り始めた。そういえば、もうすぐクリスマスじゃないか。季節的にも、子どもにはぴったりな練習方法だ。電飾の光は、数秒すると消えた。何ともよくできている。
「カミシロさん、器用ですね」
「『工作』は趣味的に色々やってます。まだちょっと改良できるかなぁ」
ゴルフのインストラクターでもあるが、妙に職人的な気質も持っているようだ。そういえば、プロゴルファーの中には、色々な練習器具を自ら開発している人もいるらしい。実際各メーカーから販売されている練習器具も色々とユニークだ。こうしたアイデアマンによって、様々な練習器具が世に生み出されていくのだろう。
その後、イルミネーションを光らせるべく、親子でひたすらアプローチの練習を続けた。前回とは打って変わって、的を狙い続けるカズ。
すると……
カッ!
少々トップ気味に当たったボールが、再びかごに当たった。しかし、今度は光らない。
「ちゃんと上からふわっとあてないと、光りませんよぉ」
カミシロコーチがしてやったりの顔をしている。なるほど、トップしたミスショットが当たっても、電飾は光らないらしい。ちゃんとふわっとしたボールで、上から当てないと光らないようにできているようだ。
「よくできてますね!」
「よーし!今日は、ぜひ、みなさんあの的を狙ってください」
自らの「発明」に自信を深めた開発者は、他のレッスン生にも的宛て練習を勧めている。今日はレッスン生全体的にアプローチ練習がはかどったようだ。
後日、再びレッスンを訪れると…「さらに改良しましたよ!どうでしょう」
カミシロコーチは、なぜかラジコンのコントローラーを持っている。
「ほら。動くよ!」
「おおお!!」
先日「開発」された電飾付きの白い的が……なんとラジコンの上に乗っている!
「よし。今日は動く的をねらってみよう」
「よっしゃあ!」
前回にもさらに増して気合が入るカズ。実際ゴルフで「動く的」を狙うことはないはずだが、的が「動く」というだけでカズにとっては面白さ100倍だ。
「ほらほら、逃げるよぉ」
時折「的」を動かすと、カズは楽しそうにそれを狙って打ち続けた。
人が行動するには、色々と理由がある。大人になれば、頭で考えて「理屈」で自分を動かすこともできるはずだ。でも、本来人が行動するのは「心」が動いたからだ。「心」が動かなければ、誰も行動はできない。「心」がともなわずに身体だけ動いていると、いつか人は止まってしまう。
「こうすべき」という導き方だけでなく「こうしたい」という導き方もあるのだな、と、せわしなく動く「的」を見ながら思うのだった。
世界ジュニア日本代表選抜大会まで、あと3か月半だ。




