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ゴルフのそのき  作者: 園木まさ


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11/21

第11話 ワイは猿や!木製ドライバーは時代を超えて

マサ(父) 34歳

カズ(息子) 4歳1か月


「ワイは猿や!プロゴルファー、猿や!」

「……」

 熱心にテレビアニメを見つめるカズ。今時の作品ではなく、もう30年以上も昔の作品だ。ゴルフ好きなら知る人ぞ知る「プロゴルファー猿」。藤子不二雄さんの作品で、子どものころ自分でもテレビアニメを観ていた。30歳を過ぎて再び始めたゴルフだが、元々は、幼少期にこの番組を観て、プラスチックのゴルフクラブを振り回して遊んでいたんだ。

 そんな記憶があるもので、もしかしたらカズも興味を持つかと思い、登録しているアニメ番組のサブスクの中で見つけて一緒に視聴することにした。まあ、どちらかというと自分が久しぶりに観てみたかったという動機の方が大きいのだけれど…

 主人公の猿谷猿丸は、田舎で暮らす猿みたいな少年。近くのゴルフ場でロストボールを見つけては、売りさばいてちょっと小銭を稼いでいるが、木を削って自ら作り上げたドライバー一本で闘う自称プロゴルファーでもある。「旗包み」や「モズ落とし」や「岩返し」といった数々の必殺ショットで、ミスターXの放つ刺客、闇のゴルファーとの死闘を戦い抜く!という物語。今観てみると、昭和の香りぷんぷんで、絵や画質も今時のものに比べると見劣りしてしまうけれど、逆に大人の自分からするとそれが魅力にも思える。意外にも、カズも夢中になって観ている。

 テレビアニメを観ると、その主人公になった気分になるというのが子ども心であろう。自分も幼かったころ、プラスチックのクラブを振りながら、「いつか猿みたいに木のクラブを振ってみたい」なんて思っていた。いや、空想の世界では、そのプラスチックのドライバーは、猿が使っている木製のそれに、すでになっていたのかもしれない。

「そういえば、今日はお父さんのところに行くんだよね」

「ああ、ちょっとね」

「なんか、家に古いゴルフクラブがあるらしいから、あげるって」

「え、そうなの?」

 今日は妻の実家にカズを連れて遊びに行くことになっている。お義父さんも昔ゴルフをしていたことがあったらしく、最近熱心に練習している私にゴルフクラブをくれるということだった。

「古いやつって、どんなもんかな?」

「さあ? 私は全然わかんないから。見たこともないし」

「家に置いてあったなら、見たことないの?」

「全然記憶にない」

 やはり、妻はあまりゴルフに興味がない。人間興味がないものは、仮に視界に入っていたとしても大して記憶していないのは、誰しもそうであろう。


「こんにちは」

「ああ、よく来てくれたね」

「じぃじ」

「おお、カズもよく来てくれたね」

 カズはお義父さんのことがとても好きだ。妻の実家を訪れたときは、いつも一緒に遊んでくれる。そういえば、自分がプラスチックのゴルフクラブを振って遊んでいたのも、おじいちゃんの家だった。頭の中で思い出す情景は、おじいちゃんの家であることが多い。おじいちゃんの家の玄関に置かれていた「靴ベラ」は、なぜか靴とかかとに合わせる方の反対の持ち手側の先がアイアンヘッドの形をしていた。私のおじいちゃん、カズのひいじいちゃんもゴルフが好きだったのだろうか。おじいちゃんは、私が11歳のころに亡くなってしまって、今ではもう確かめようはないけれど、優しい時間の想い出は、今も自分の中で息づいている。今目の前で広がっている光景も、カズの中で息づき、いつかそういう時間として想い出されるのかもしれない。

 挨拶をして、ちょっとゆっくりすると、早速お義父さんから切り出してくれた。

「そういえば、マサくんとカズはゴルフしてるんだって?」

「ええ、最近一緒に練習してて、カズも結構ちゃんと打ちますよ」

「昔使ってたゴルフクラブ、よかったら持って行ってよ」

「はい。どんなものか、ちょっと見てみたいです」

「ああ、ずっと外の倉庫に入れっぱなしでホコリかぶってたけど、出しておいたよ」

 お義父さんに連れられて庭に行くと、ずいぶん古めかしいキャディバッグが置かれていた。かなり長期間放置されていたことは見た目からもよくわかるもので、正直、今使えるものではなさそうなことが中身を見る前から知れてしまった。

「ずいぶん年期が入っていますね」

「うん。もう30年くらい前のやつかな。最後に使ったのはいつだったかな」

「そんな昔の、よく残してましたね」

「いつかまたやるかなぁと思ってたら、30年くらい経っちゃってたよ。はっはっは」

 お義父さんは、いわゆる「捨てられない」タイプの人だ。

「あ、でも、中身は意外と…」

 使えるものではなさそうだったが、せっかくなので、中身を見てみる。今の物に比べると随分と小ぶりなカバーが被されたドライバーと、アイアンが入っている。

「あ、これ、『パーシモン』てやつですか?」

「ああ、そうだね。昔はこんなだったよ」

 今時の金属製のドライバーヘッドではなく、木でできたヘッド。ドライバーヘッドは今時のフェアウェイウッドくらいの大きさだ。シャフトは…カーボンシャフトではなく、スチールシャフトだ。

「お義父さん、どれくらいのスコアでラウンドしていたんですか?」

「うーん。110とか120くらいだったかな。100切ったことなんてなかったよ。最近マサくんは100切ったんだって?すごいじゃないか」

「あ、いえ、まあ、切ったり切れなかったりですが…」

 アイアンも見てみる。随分と薄っぺらい。

「うわぁ。昔のアイアンって、こんなにペラペラだったんですね」

「そうだね。もうあんまり覚えてないけど」

「これは…打てる気がしませんよ」

ペラペラで難しそうというのもあったが、それ以前に錆びだらけで、とても使えそうなものではなかった。中古ショップに持ち込んでも、買取はおそらく拒否されるであろう。

「どうだろう?もっていく?」

「ええっと…そうですね…」

 正直、持って帰ってもすぐさまゴミになってしまうことは容易に想像できた。でも、お義父さんのご厚意もあるし、パーシモンのドライバーだけは、ちょっと打ってみたい気がした。

「ドライバーだけ、いいですか」

「ああ、いいよ」

 お義父さんには申し訳なかったけれど、パーシモンのドライバーだけありがたく頂戴し、持ち帰ることとした。


 後日、Tセントラル練習場を訪れる。

「こんなん手に入りましたよ」

「ああ、パーシモンですか。懐かしいですね」

 社長に見せてみると、懐かしかったようで、ちょっと興味を持ってくれた。

「どんなもんか。試してみたくて」

「全然飛ばないし、球は上がらないですよぉ」

「そりゃ楽しみですね」

 正直、このドライバーで飛ばそうとは思っていない。性能に期待しているわけではなく、本当に「遊び」で打ってみたかっただけだ。もしかしたら、30年前そう思っていた「猿の木のドライバーを打ってみたい」という願望が、まだ残っていたのだろうか。

「うお、これは…」

 実際に構えてみると、いつも使っているドライバーより幾分短い。ヘッドも小さいし、シャフトもスチールで、重い。

「カズ、見てごらん。プロゴルファー猿みたいでしょ」

「ほんとだぁ」

 今時のドライバーは金属製だし、シャフトもカーボンで、カズのジュニア用ドライバーも当然そうなっている。「プロゴルファー猿」の世界で観た「木のドライバー」を見るのは初めてだ。偶然にも、あの時代の道具を手に入れ、使えるというのも珍しい体験だ。

「よし、打ってみよう」


 カッ!


「飛ばなッ!重ッ!」 

 いつもの弾道よりだいぶ低く、だいぶ飛ばない。打った時の音も全然違う。200ヤードいくかいかないか、くらいだろうか。その後も何球か打ってみるが、やっぱり全然球が上がらないし、飛ばない。社長の言っていたとおりだ。

「これは無理だわ」

 10球くらい打ってみて、昔の道具がどんなものかよくわかった。今でこそ、300ヤード以上飛ばすプロはたくさんいて、アマチュアの中にもその飛距離に到達する者がたくさんいる時代だ。しかし、「プロゴルファー猿」の放送当時は、「300ヤード」と言えば、本当の飛ばし屋でしかたどり着けない領域で、劇中でもそのように語られている。今時のクラブで100切りを達成した自分だが、30年前だったら、100切りなんて、たどり着けていなかったかもしれない。お義父さんはスコア110から120くらいだったと言っていたが、自分もそれくらいで終わっていたのではないだろうか。

 そんなことを考えていると、カズが声をかけてくる。

「うってみたい」

「え、カズにはちょっと無理だよ」

「やりたい!」

「ああ、うん。じゃあ、やってごらん」

 

 ドンッ

 ドンッ!


 案の定、振り上げることすらできない。重すぎるし、長すぎるのだ。何回か挑戦すると、すぐに飽きてしまった。でも、何となくわかる。もしかしたら、いや、きっと頭の中では「プロゴルファー猿」になれた気分でいたんだろうな…

 ふと、アイデアが湧く。


 練習を終えて、帰り際、社長に声をかける。

「これ、これくらいに切ってもらうことってできますか?」

「え、これ、切っちゃうんですか?」

「ええ、もう試して遊べたので。スコアアップの武器にはなりそうもないし」

「いいですよ。ちょっとお待ちくださいね。本当にいいですね」

「はい。いいですよ」

 さらに帰り際。100円ショップに立ち寄った。

「ええっと、これがあれば…」

 買ったのは、木の模様になっているシールだ。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「カズ。ちょっと待っててね」

「うん?」

「ちょっと、『図工』かな」

「???」


 お義父さんからもらったパーシモンのドライバー。シャフトを切って、カズのドライバーくらいの長さにしている。スチールシャフト部分に先ほど100円ショップで買ってきた木の柄のシールを巻き付けていく。そして、さらにその上からテーピングをぐるぐる巻きにして、グリップ部分を作る。本当はスチールシャフトだけど、見た目は「木のドライバー」っぽいのが出来上がった。

「ほら、できたよ」

「おお!」

「『プロゴルファー猿』のドライバー!練習行くとき使ってごらん」

 約30年前、空想の中で思い描いて使っていたクラブ。シャフトの中身はスチールだし、本当の木のクラブではない。でも、あの日思い描いていた「猿のドライバー」を、気分だけでも手にさせてやることができただろうか。

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