第10話 それいけユーティリティ!
マサ(父) 34歳
カズ(息子) 4歳0か月
「えっと、一番短いフェアウェイウッドは…」
河川敷のラウンドを経て、曲がることなく真っすぐ真っすぐ打ち続けることができたカズのため、新たなセッティングとしてフェアウェイウッドを探している。今回もネットでだ。何度も自分のクラブ選びで近所のゴルフショップの店頭に行っていたので、そこに4歳児が使えるフェアウェイウッドがないことはわかっていた。今の時代、店頭で探すよりもネットで探す方が探し物や欲しい物は見つかりやすい。
「イグニオのは…、これだとドライバーより長くなっちゃうんだよね」
イグニオのセットは、今使っている一番小さいセットのもうひとつ上の大きさのにすれば、フェアウェイウッドもあるようだが、それだとさすがに長すぎる。
「やっぱり『オリマー』のこれか…」
クリスマスにウェッジを買った際に見つけた「オリマー」というブランド。これだと2000円台で長さもちょうどいい。しかし、フェアウェイウッドではなく、ユーティリティだった。
「まあ、カミシロさんも『フェアウェイウッドの練習よりまずはユーティリティから』って言ってたから、これにするか!」
クラブの長さ、重さ、自分自身の”現在地”なども総合的に考えた結果、ユーティリティを選ぶことにした。「何でもかんでもすぐ買い与えるのは教育上どうなのだろうか」という思いもあった半面「これを使わせたらどうなるだろうか」という気持ちも強かった。それに、もうすぐカズの4歳の誕生日ということもあり、「誕生日プレゼント」という大義名分があることも購入を後押しした。
「ハッピーバースデイ トゥ ユー
ハッピーバースディ トゥ ユー
ハッピーバースディ ディア カズ
ハッピーバースディ トゥ ユー!
カズ、誕生日おめでとう!」
カズの4歳の誕生日。いつも通り誕生日ケーキでお祝いをして、プレゼントを渡す。
「プレゼントだよ。カズ。ほら、ジャーン!ユーティリティ!すごいでしょ!これで40ヤードくらい飛ぶかもよ」
「わあ…」
正直、例によって反応はいまいち…まあ、そんなもんか。
「もうひとつプレゼントあるよ。お外に行ってみようか」
「おそと???」
そう。あれこれ考えて準備したユーティリティは、クリスマスのときと同様、自分のエゴでこさえた「おまけ」のプレゼントだ。本命はもうひとつ別のものを用意している。
「ジャーン。自転車だよ」
「おおお!!!」
やっぱり、本命の方に大きなリアクションを示すカズ。「自転車」というけれど、幼児用で、ペダルはついていない。脚で蹴って進む「ストライダー」というものだ。「キックバイク」なんて呼び方もされるらしい。自分が小さかったころは使った記憶がないのだが、ストライダーの大会なんてのも開催されているらしく、今時は結構ポピュラーなアイテムなんだとか。一応取付用のペダルもセットで付属しているので、装着すれば「自転車」にも早変わりする。そういう意味では実用的で、成長に合わせて「ユーティティ」な活躍をしてくれるということだ。
「のりたい」
「うん。そうだよね。ケーキ食べ終わったら、公園に行ってみようか」
早速家の近くの公園に行き、ストライダーで遊ばせてみる。脚で蹴って進む。乗った瞬間からすぐにできた。どうやらそんなに難しいものではなさそうで、早くも楽しそうに遊んでいる。タイヤもそうだが、男の子は乗り物が大好きなことが多い。本能的にそういうものか、とも思うが、よく考えると大概の「乗り物」は自然界にあるものではない。どうしてなのだろう。「あ、カズ。あれ、すごくない?」
急に妻が声をかける。
「ん?何が?」
タッタッタッタッ……
ツーー…
ツー……???
ついさっき初めて使ったストライダー。何回か足で蹴って進んだ後、両足を地面から離して進んでいる。「両足を地面から離す」ということは、それなりにバランス感覚が必要なはずなのだが…
「もしかして、もうペダル付けていいのかな」
「つけてみようか」
その日は「ランバイク」のまま遊ばせて、後日、ストライダーにペダルを取り付け、再び同じ公園にやってきた。もうこれは立派な「自転車」なのだが、補助輪は付いていない。
「ほら、今度はこのペダルをこいでみたら進むよ」
「おお!」
最初は何となくてこずるカズ。でも、足で蹴って進んだり、ペダルをこいだり、色々して、30分くらいも経つと…
「もう乗ってる…」
自分の記憶では、自転車には最初「補助輪」を付けていて、補助輪をはずしてこげるようになるまで、それなりの「特訓」を要した。それこそ、最初は自転車の後ろを父や母に支えてもらい、一緒に走ってもらったりして、試行錯誤の果てに乗れるようになったことを覚えている。「自転車に補助輪なしで乗る」ことが、多くの子たちにとって、人生で初めての「特訓」というケースは少なくないように思う。そうやって「特訓」を経てから乗れるようになったので、それなりの達成感があったものだが…
「『補助輪期間』なしでいきなり乗れるようになっちゃったよ」
「すごいのかもね」
「運動神経いいのかな?」
「ふたりともそうでもなかったのにね。誰の影響だろう?おばあちゃんかな?」
我が子に思いがけない「センス」や「天才」を発見したとき、それがどこの誰の血統から来たものか、ついつい探ってしまうのは、どこの家庭でもあることなのだろう。
さらに後日、いつも通り「天才」を連れてTセントラル練習場を訪れた。「お、今日も来ましたね!」
「今日は新しいクラブも持ってきましたよ」
「おお!ユーティリティですね!子ども用のこんなのあるんですね!」
「ネットで探すの苦労しましたよ。そういえば、先週の河川敷では、フェアウェイウッドあまり使わない作戦で、ハーフ43で回りました」
「おお!よかったですね!それじゃあ、今日は親子でユーティリティの練習を中心にしましょう!これができたらフェアウェイウッドも打てるようになってきますよ」
「わかりました」
フェアウェイウッドを使いこなすことを目指し、ユーティリティの練習に励む父。その横で、初お披露目のユーティリティも特に苦労することなくポンポンと使いこなして40ヤード程飛ばす息子。人生で初めて自転車を乗りこなすまでに要した道のりが、そのまま映し出されたかのような練習風景だった。




