表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GATEKeePer−世界にその価値はあるのか−  作者: 大福


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/29

第9話 異血との巡り合わせ

夜。


悠真は歩いていた。

帰る場所はない。眠る場所もない。

頭から離れない、見えていたもの。消えた傷。


「俺は何なんだろうな。」


その時だった。


いた。

電柱の上。屋上。信号機。黒い影。

一つ。二つ。三つ。増えている。全部、悠真を見ている。


悠真は走る。怪異も動く。速い。逃げ切れない。

囲まれる。怪異が飛びかかる。避ける。間に合わない。


その瞬間。

一閃。怪異が消える。


悠真。

「……え?」


飛びかかる次の怪異。二閃。消える。三体目。一歩。終わる。

戦闘ですらなかった。


「遅い。」


女の声。街灯の上。


そこにいたのは、あまりに場違いな少女だった。


夜闇に揺れる、鮮やかな金髪。

オーバーサイズの黒いパーカーに、アクティブなショートパンツ。

戦いとはおよそ無縁にしか見えない、外国人のような可憐な美少女。

だがその両手には、冷たく煌めく双短剣が握られている。


少女は怪異を見る。ため息。

「さっきから見ていたけど低級相手に何してるの?」


悠真。

「俺、死にかけたんだけど……。」


少女は改めて悠真を見る。そして止まる。

「アイツ等視えてるよね?。」


悠真。

「見えてる。」


少女。

「英雄の血筋?それとも異血?」


悠真。

「分からない。記憶がないんだ。名前しか覚えてない。」


沈黙。少女は悠真を見る。

怪異が視える。低級相手に苦戦する。それなのに、何も知らない。


少女。

「……あなた何者?」


悠真。

「それを探してる。」


少女。

「名前は?」


悠真。

「悠真。」


少女。

「私はエレナ。エレナ・クロノス。あなたほっとくと近い内に殺されるわ。それが嫌ならついて来る?」


悠真。

「……いいのか?」


エレナ。

「別に。寝覚めが悪いだけ。」


夜風が吹く。

悠真は初めて知る。自分以外にも、同じものが視える人がいることを。


---


エレナの後ろを歩く悠真。


悠真。

「さっきのあれ、幽霊みたいなものか?」


エレナ。

「少し違うわね。死んだ人間もいる。最初から人間じゃないものもいる。全部まとめて怪異。見える方が珍しいの。」


悠真。

「……俺、普通じゃないってことなのかな。」


エレナは少し考える。

黒いパーカーのフードを軽く直しながら、悠真を盗み見る。


「傷がすぐ治る。怪異が視える。低級相手に死にかける。少なくとも普通の人間ではないわね。」


悠真。

「低級って何だ?」


エレナ。

「怪異の強さの区分。さっきのは一番下。正直、子供でも倒せる。」


悠真。

「俺、本当に死にかけたんだけどな。」


エレナ。

「ええ。だから驚いてる。視えているのに戦い方を知らない。かなり珍しい。」


歩く。


悠真。

「なぁ、エレナは英雄なの? それとも異血?」


エレナ。

「私は英雄。世界のバグを直す側。」


歩く。やがて古びた神社が見えてくる。


エレナ。

「今日の寝床。怪異はこういう場所を嫌う。」


境内へ入る。悠真は空を見上げる。怪異はない。静かな夜。


悠真。

「エレナ。助けてくれてありがとう。」


エレナ。

「なに?」


悠真。

「助けてくれてありがとう。」


エレナは少しだけ空を見る。

「お礼は生き残ってからでいい。まだ始まったばかりだから。」


自分と同じものが視える誰かと、初めて同じ夜を過ごした。


---


朝。


悠真が目を覚ます。エレナは既に起きていた。

石段に座り、昨日の服装のまま、双短剣の手入れをしている。


悠真。

「おはよう。昨日は助かったよ。」


エレナ。

「おはよう。仕事だから。」


少し間。


悠真。

「……仕事、か。」


神社を後にする二人。


悠真。

「これからどうするんだ?」


エレナ。

「封印を見に行く。怪異が現世に出てくる穴。放っておくと低級が溢れる。」


悠真。

「じゃあ英雄って、世界の修理屋みたいなもんか。」


エレナ。

少し笑う。

「そんな感じ。」


山道。


悠真。

「なぁ、俺は結局なんなんだろうな。英雄の血筋なのかな。それとも異血なのか。」


エレナ。

少し考える.

「分からない。でも、どっちだったとしても、昨日までのあなたと今日のあなたが別人になる訳じゃない。」


悠真。

少し笑う。

「違いないね。」


エレナが足を止める。


悠真。

「どうしたんだ?」


エレナ。

周囲を見る。

「……静かすぎる。」


鳥の声がない。風の音もない。虫の音もない。


エレナ。

「低級がいない。逃げてる。」


悠真。

「何から?」


その瞬間。

胸を掴まれたような圧迫感。呼吸が浅くなる。全身の毛が逆立つ。

重く、冷たく、それでいて圧倒的に神聖な、剥き出しの魔力の波長が大気を完全に支配していた。

そして理解する。


逃げろ。

理性じゃない。本能が叫んでいる。


悠真。

「……逃げよう。」


エレナ。

短剣を抜く。しかし動かない。

「無理。本能が逃げろって言ってるのに……身体が動かない。」


森の奥。何かがいる。まだ見えない。

それなのに分かる。見られている。空間そのものが、その存在の重みに耐えかねて軋んでいるかのような錯覚。


悠真。

「……こっちを見てる。」


エレナ。

「うん。最初から。」


木々が揺れる。

それは音もなく、影すら落とさず、ただ世界の密度が爆発的に跳ね上がる感覚だった。

圧倒的な沈黙。


次の瞬間、木々の間から一人の女性が姿を現す。

黒髪。穏やかな表情。どこにでもいそうな女性。

なのに、あの全身を圧し潰すような威圧感だけは消えない。


エレナ。

短剣を構える。

「……異血。」


女性は軽く会釈する。

「初めまして。八岐の大蛇と申します。」


悠真。

「八岐……大蛇……?」


女性は少し困ったように笑う。

「安心してください。今日は戦いに来た訳ではありません。少し、お二人の様子を見に来ただけです。」


エレナ。

「……私達を知ってるの?」


女性。

「ええ。あなたのことは知っています。封印の管理を任されているのでしょう?」


エレナ。

「……なんでそれを?」


女性は少しだけ微笑む。

「少し長く生きていますから。」


視線が悠真へ向く。


「そして、あなたは悠真さん。」


悠真。

「……俺を知ってるのか?」


一瞬の沈黙。


「有名なんですよ。怪異が見えるだけの人間は、あまりいませんから。」


嘘ではない。

だけど、本当でもない。


大蛇はただ、悠真を見つめていた。

どこか、遠い先だけを見るような目で。


沈黙。


世界の終わりを告げる秒針が、静かに動き始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ