第10話 八岐と封印
エレナは短剣を構えたまま動かない。
エレナ
「異血が何をしに来たの?」
女性は困ったように微笑む。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。今日は戦いに来た訳ではありません。」
エレナ
「……なら目的は?」
女性。
「封印の様子を見に来ました。」
悠真
「封印?」
女性は頷く。
「封印が壊れれば困るのは人間だけではありません。私達も同じです。」
エレナ
「異血も封印を守ってるの?」
女性。
「守っているというより……壊れると困るんです。」
少し沈黙。
悠真
「じゃあ……八岐大蛇って人を襲う怪物じゃないのか?」
女性は少し考える。
「人間から見ればそうだったのでしょうね。ですが、人間と異血では見ていた景色が違います。」
悠真
「景色?」
女性。
「同じ出来事でも、立場が変われば見えるものも変わります。」
悠真は黙る。女性の視線が悠真へ向く。
「あなたは優しいんですね。」
悠真
「え?」
女性。
「見ていました。怪異からあの男性を助けた時も。」
悠真
「……見てたのか。」
女性。
「ええ。だから少し安心しました。あなたなら大丈夫そうです。」
悠真
「……何が?」
女性は少しだけ目を伏せる。
「いえ。独り言です。」
エレナ
「……あなた、悠真のことを何か知ってるの?」
女性。
「知っていますよ。ですが、それを話すのは私の役目ではありません。いつか分かります。嫌でも。」
沈黙。女性は話題を変えるように微笑む。
「もしよろしければ、一緒に来ませんか?封印を見に。少し嫌な予感がするんです。」
エレナは大蛇を見る。
大蛇は穏やかに微笑んでいる。けれど、その目だけは笑っていない。
エレナ
「……分かった。」
女性。
「ありがとうございます。」
こうして、悠真、エレナ、八岐の大蛇の奇妙な三人旅が始まった。
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三人は山道を歩いていた。しばらく沈黙が続く。
悠真
「そういえば……なんで八岐の大蛇なんですか?」
八岐の大蛇は少し考える。
「昔の人が勝手につけた名前ですよ。」
悠真
「八つの頭があったとか?」
八岐の大蛇は小さく笑う。
「頭ではありません。能力です。」
悠真
「能力?」
八岐の大蛇
「炎。雷。毒。圧力。防御。癒し。支援。そして、もう一つ。」
悠真
「八つ……。」
エレナ
「だから八岐。」
八岐の大蛇
「昔の人には八つの頭に見えたのでしょうね。」
悠真
「じゃあ、英雄に討伐されたって話は?」
八岐の大蛇は少し空を見上げる。
「事実ですよ。」
悠真
「え?でも、生きてますよね?」
八岐の大蛇
「死にましたよ。一度は。」
エレナ
「……どういうこと?」
八岐の大蛇
「長く生きていると色々あるんです。女性には秘密も必要なんですよ。」
悠真
「それ答えになってませんよ。」
八岐の大蛇
「ふふっ。」
少し空気が和らぐ。
悠真
「じゃあ、なんで英雄と協力してるんですか?」
八岐の大蛇
「世界が壊れると困りますから。異血も英雄も、結局は同じ世界に住んでいます。」
悠真
「異血って組織があるんですか?」
八岐の大蛇
「ありますよ。ですが、私はどこにも属していません。強いて言うなら中立ですね。」
エレナ
「……なら、なんで来たの?」
八岐の大蛇は少しだけ笑う。
「頼まれたんですよ。昔の友人に。」
エレナ
「友人?」
八岐の大蛇
「ええ。少し頑固で、不器用な人です。」
やがて三人は目的地へ辿り着く。
古びた鳥居。地面に刻まれた紋様。
空気が少しだけ冷たい。
エレナが封印へ手を伸ばす。淡い光が広がる。
悠真
「……綺麗だ。」
エレナ
「補強完了。」
八岐の大蛇は静かに封印を見つめる。
「美しいでしょう?誰かが守ってきたものには意味があります。」
悠真
「世界を守ってるんですね。」
エレナ
「仕事だから。」
八岐の大蛇は少し笑う。
「英雄らしい答えですね。」
三人は再び歩き始める。
その背中を、封印の光だけが静かに照らしていた。




