第2話 救いたい
「次の人。」
リディアが声を掛ける。
怪我人が前へ出る。
腕がない。
足がない。
泣いている子供。
治療所は戦場より静かだった。
だから余計に苦しかった。
悲鳴が聞こえる。
すすり泣きが聞こえる。
助けを呼ぶ声が聞こえる。
終わらない。
何も終わらない。
「リディア!」
兵士が駆け込んでくる。
「西側に重傷者がいる!」
リディアが立ち上がる。
だが、
別の兵士が叫ぶ。
「待て!」
「東側の子供が先だ!」
「たった一人でも。」神代は黙っていた。遠くで境界が揺れる。空が軋む。世界が悲鳴を上げる。神代は知らない。この言葉が、未来の自分を壊すことになるなんて。リディアも知らない。
次の日は珍しく静かな日だった。
空は赤い。境界は割れている。
世界は相変わらず終わりに向かっている。
それでも今日は、悲鳴が少なかった。
「平和だな。」神代が言う。
リディアが笑う。
「戦争中に言う台詞じゃないよ。」
「比較の問題だ。」
「それはそう。」
二人は崩れた街を歩く。
生き残った住民へ物資を届けるためだった。
子供が走る。
老人が笑う。
誰かがパンを焼いている。
不思議だった。
世界が終わろうとしているのに、人は生きている。
「ねぇ。」リディアが空を見る。
「戦争が終わったらどうする?」神代は少し考える。
「寝る。」リディアが吹き出す。「夢がないなぁ。」
「三日くらい寝たい。」
「それは分かる。」
「私は海。」
神代が見る。
「海?」
「見たことないんだ。」
「本当に?」
「うん。」リディアは笑う。
「世界が終わる方が先だった。」
神代は空を見る。
割れた空。
崩れた雲。
赤い世界。
「終わらせよう。」
リディアは頷く。
「うん。」
壊れた世界。
それでもその瞬間だけは、戦争を忘れられた。
遠くで鐘が鳴る。
警報だった。
空気が変わる。
兵士が走る。
「第七門反応!」
「境界震度急上昇!」
「神代隊出撃命令!」
神代が立ち上がる。
戦士の顔になる。
剣を取る。
リディアは立ち上がる。
何かを言おうとして、やめた。
神代が振り返る。
「行ってくる。」
リディアは笑う。
「いってらっしゃい。」
神代は走る。
黒い背中が遠ざかる。
リディアはその姿を見つめる。
見えなくなるまで。
ずっと。
まだ誰も知らない。
この約束が、数千年後まで続くことを。
そして、あの日からずっと、彼が一度もその手を離していないことを。
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