表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GATEKeePer−世界にその価値はあるのか−  作者: 大福


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/29

第12話  異血の村と黒い刀

 こうして、悠真、エレナ、八岐の大蛇の、各地の封印を周る奇妙な三人旅が始まった。

山道を歩く彼らの足元を、木漏れ日が斑に照らしている。


悠真

「そういえば、異血って何人くらいいるんですか?」


エレナ

「知らない。横の繋がりが薄いから。」


大蛇

「異血は組織というより、共同体に近いんですよ。英雄でもない、怪異でもない、ただそれぞれのやり方で世界を守っている者達です。」


悠真

「思ったよりちゃんとしてるんですね。もっとこう、秘密結社みたいなのを想像してました。」


エレナ

「そういうの想像してたの? 好きそう。」


悠真

「好きだな。」


エレナ

「知ってた。」


黒いパーカーのフードの奥で、エレナがほんの少しだけ呆れたように息を吐く。

しばらく、乾いた土を踏みしめる音だけを響かせて歩く。


やがて視界が広がり、鬱蒼とした森が唐突に開けた。

そこには、山肌に寄り添うような小さな集落があった。黄金色の夕光の中、子供達が声を上げて走り回っている。瑞々しい生活の景色だった。


悠真

「・・・普通だな。もっとこう、怪しいローブとか。」


エレナ

「まだ言うんだ。夢がない。」


大蛇はそれを見て、口元を袖で隠しながら小さく笑う。

三人が木々の境界を跨ぐと、一人の若い男性が穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。


「大蛇様、お帰りなさい。」


大蛇

「ただいま戻りました。」


男性の視線が、大蛇の後ろに立つ悠真へと静かに向く。「こちらの方は?」

大蛇は、微塵も迷わなかった。


大蛇

「仲間ですよ。」


悠真

「・・・仲間。」


その言葉の響きを、不思議と嫌な気はしなかった。


---


夜。


香ばしい薪の匂いと、大皿に盛られた料理の湯気が部屋を満たしている。

悠真は静かにその賑やかな周囲を見渡していた。


悠真

「悪くないな。こういうの。」


エレナ

「・・・そう。」


黒いパーカーの影に隠れた横顔が微かに緩む。少しだけ、エレナが笑った気がした。


深夜、大蛇は一人、誰もいなくなった静まり返る外へ出た。

月は雲に隠れ、ただ冷たい夜風の音だけが、遠くの森を波立たせている。


大蛇

「静かすぎますね・・・。」


ぽつりと呟く大蛇の表情だけが、酷く冷たく硬かった。


---


朝。


鳥の賑やかな声で目を覚ます。

悠真は見慣れない木目の天井を、ぼんやりと見上げた。


悠真

「・・・そうか。異血の集落だったな。」


窓の外からは、昨日と変わらない賑やかな日常の声が聞こえてくる。

悠真が家屋の外へ出ると、よく通る幼い声が響いた。


「おかえりー!」

「遅かったー!」


二人の少女が、歩いてきた大蛇へと勢いよく飛びついていた。


悠真

「・・・。」


大蛇

「おはようございます。」


悠真

「いや、おはようございますじゃなくて。誰ですか?」


大蛇

「娘達ですよ。双子です。」


悠真

「双子!? 大蛇さん、双子のお母さんなんですか!?」


大蛇

「母ですが? 輝和、輝夜。挨拶は?」


二人は小さな身体をぴっと緊張させる。


輝和

「初めまして! 輝和きわです! 七歳です!」

輝夜

「・・・輝夜かぐやです。七歳です。」

輝和

「お母さんがお世話になってます!」

輝夜

「・・・お世話になってます。」


大蛇

「悠真さん達も。」


悠真

「あ、そうか。悠真です。よろしく。」

エレナ

「エレナです。よろしくね。」


輝和

「エレナお姉ちゃん!」

輝夜

「・・・エレナお姉ちゃん。」


金髪を夕風に揺らし、エレナの表情が微かに和らぐ。


悠真

「俺は?」

輝和

「悠真お兄ちゃん!」

輝夜

「・・・悠真お兄ちゃん。」


悠真

「よし。」

エレナ

「単純。」

悠真

「うるさい。」


---


朝食の準備が始まり、大蛇が台所へ立って手際よく料理を作っていく。

片付けが一段落した頃、大蛇が二人を振り返った。


大蛇

「そういえば、エレナ。短剣も傷んでいましたね。」


エレナ

「うん。そろそろ替えようと思ってた。」


大蛇

「では、武器庫へ行きましょうか。使い手を失った武器もありますが、今でも手入れは続けています。」


集落の外れ、緑に埋もれるように佇む石造りの小さな建物。

槍、弓、斧、大剣が整然と並ぶ中、エレナは迷わずに棚の前で足を止め、刃の厚みを確かめる。


エレナ

「これにする。」


少女が手にしたのは、今まで使っていた物と酷くよく似た、飾りのない双短剣だった。


悠真

「武器にも好みとかあるんだな。」

エレナ

「あるよ。かなり変わる。」


その時、悠真の足が止まった。一番不自然な部屋の隅。

黒い鞘。酷く古い、一本の刀。目立つ訳でもないのに、なぜか目が離せなかった。


悠真

「・・・なんでだろ。気になるんです。」


惹きつけられるように手を伸ばし、刀を握る。親指で鍔を押し、静かな音を立てて抜く。

初めて握るはずなのに、指の引っかかり一つすら違和感がない。長く使っていた相棒を持ち直したような感覚。


悠真

「初めて持った気がしないんだよね。そんな訳ないんだけどな。」

エレナ

「・・・自然だった。初めてには見えなかった。」


大蛇

「以前も言いましたが、日本刀は悠真さんに合っていると思いますよ。足運びと間合いです。」


悠真はもう一度刀を見る。手放したくない、そんな気がした。


大蛇

「持って行きますか? 武器は使われてこそですから。」

悠真

「・・・じゃあ。」


刀を静かに鞘へと収め、腰に差す。初めてのはずなのに、そこにあるのが世界の当たり前のような気がした。


---


昼。


陽光が降り注ぐ集落の広場。


輝和

「悠真お兄ちゃーん! 遊ぼう!」

悠真

「またか。」

輝夜

「・・・逃げる?」

悠真

「逃げないよ。」

エレナ

「昨日も逃げてた。」

悠真

「味方いないな、ここ。」


二人の小さな身体が走り出し、悠真も苦笑しながらそれを追いかける。

だがその時、大蛇とエレナの表情が、同時に戦慄へと跳ね上がった。


エレナ

「・・・来る。」


大蛇もまた森の深奥へと視線を向け、鋭く呟いた。「妙ですね。」

森の奥から、歪んだ黒い影が現れる。大気がにわかに冷え、肌を刺すような緊張感が走る。

結界に守られた集落の近くまで怪異が来ること自体が異常だった。それなのに、現れた怪異は一切の迷いなく、一直線に進んできた。

怪異の濁った視線が、明確に悠真をロックする。


悠真

「・・・俺?」


異様な威圧感に怯えたのか、悠真のすぐ近くにいた輝夜が、彼を庇うように一歩前へ出た。小さな背中。

怪異が、容赦なく地を蹴って輝夜めがけて跳ぶ。


「っ!」

大蛇が鋭く息を呑む。だが、その足元には輝和がしがみついており、最古の母といえども咄嗟の一歩が出遅れた。

エレナが双短剣に手を伸ばし、地面を蹴ろうとする。


だが。

誰の反応よりも速く、悠真の身体が爆発的に動いていた。


今さっき、腰に差したばかりの刀。

抜刀の仕方も、戦い方も、頭では何も覚えていないはずだった。

それなのに、肉体は考えるよりも先に、最適な最短の軌道を選択していた。


危ない、と叫ぶ暇すらなかった。

鋭く半歩踏み込み、閃光のごとき速度で、大気を裂いて刀を振る。


一閃。


エレナが動きを止める。怪異が輝夜に触れる寸前、その首が綺麗に宙を舞った。

数秒後、怪異の巨躯は黒い霧となって霧散していく。あとには、ただ静かな風の音だけが残る。


悠真

「・・・え? 俺にも分からないんだ。」


今手に入れたばかりの刀を握りしめ、悠真自身が己の手に呆然としていた。

エレナが驚愕の目で見つめる中、大蛇がゆっくりと歩み寄り、悠真の前に深く頭を下げた。


大蛇

「ありがとうございました。娘を守っていただきました。母として、お礼を言わせてください。」

悠真

「俺も、なんか勝手に身体が動いただけですから。」

大蛇

「守りたいと思った、それだけで十分です。理由は後から付いてくるものです。本当に大切なものの前では、人は考えるより先に動くものですよ。」


悠真は、自らの手にある黒い刀の柄を見つめる。

さっきまで、ただの鉄の塊に過ぎなかった武器。でも、今は違う。


悠真

「守りたい・・・か。」


エレナ

「・・・変だった。」

大蛇

「ええ。まるで、誰かを探していたようでした。」


あの怪異の、底知れない冷たい視線。

間違いなく、まっすぐに自分だけを見ていた。その不気味な感触が、悠真の肌をいつまでも刺し続けていた。


読んでいただいている皆様、本当にありがとうございます。

登場人物の画像も載せていきますので合わせてご覧ください。

また励みになりますのでブックマークや感想等もお聞かせいただければと重ねてお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ