2話 始まりと継承
前回のあらすじ
主人公は異世界に転生したものの、
自分の体を持たない存在として目覚めた。
見知らぬ村で、ひとりの少年の中に宿る形で
世界を見つめることになるが――。
あれから俺(少年)たちは、父親の言いつけ通り家の中にいた。
「ねぇねぇ、母さん何かあったの?」
少年の声は震えている。
「ううん、何にもないのよ?きっといつもの馬鹿騒ぎよ。すぐに落ち着くからね。」
母親はそう言いながらも、抱き寄せる手が少し震えていた。
守ろうとする覚悟と、隠せない緊張感。
表面上は平静を装っても、その目がすべてを物語っている。
我が子を守ろうとするため抱き寄せている様子。
俺は少年の視点を通して、母親の姿を見てただ事ではないことを感じ取った。
馬鹿騒ぎと伝えているが、明らかに別のことが外で起きている。
俺も助けたい気持ちはあるが何もできない。
そんな自分の状態を忌まわしく思う。
ーー遠くから、鈍く重い崩壊音が響く。
続いて、大きな悲鳴が空気を引き裂いた。
少年と母親の様子がその音を聞いて雰囲気が一変する。
「母さん!なんなの今の音?遠くからだったけど何もないよね?」
震えながら聞いてくる我が子を強く抱き寄せながら答える。
「大丈夫よ。家の中にあれば安心だから。耳を塞いで何も聞かないようにしててね。大丈夫。大丈夫。」
母親も先ほどの外の様子が今までの騒ぎとは別格のものだと察知したようで、より一層緊張感が張り詰めていく。
そして、騒ぎの原因であろう“それ”は激しい音を出しながらドンドン近付いていた。
「何なんだ!あれは、こんなの知らない!!助けてくれー!」
“それ”を見たであろう人が助けを呼ぶ。
「誰か!誰か手伝って!この下に家族が下敷きになってるの!!」
何かが崩れて下敷きになった家族を助けようとする声。
「みんな!逃げてくれ!うわぁぁぁ、、、」
周りに逃げるよう促す声。
逃げてる最中にやられて叫ぶ声。
村の人たちが叫び合う。騒ぎが騒ぎを呼び混乱を巻き起こす。
……
……
俺(少年)と母親を含め、奇跡的に無事だった。
だが、先ほどまでの騒乱は、数分後に突如として止む。
静寂。あまりにも異質で、身の毛もよだつほどの沈黙。
急な静けさを前に俺の中の何かが危険だと判断している。
「ーー寒気がする。」
俺は意識だけのはずなのに、これから何が起きるかが分かってしまった。
やがて、少年が口を開く。
「母さん、音がしなくなったけど、大丈夫なの?」
家の中は無事でも、外の惨状は消えない。
だが、それを覆すほどの出来事が外では起きている。
それが分かるからこその問いなんだと理解した。
そして、母親は落ち着きながらゆっくりと答える。
「大きな声を出してはダメよ。まだ、終わってない。」
まるで、この状況がなんなのか分かっているかのように伝える。
その声は、
守らないといけない覚悟。
外にいるであろう“それ”に襲われるかもしれない不安。
それらを感じさせるには十分だった。
そして、母親は我が子に伝える。
「聞いてね。今から母さんね外の様子をちょっと見てみるから、私がいいよ。って言うまで絶対に出てきたらダメよ。分かった?」
決意した表情を見せ、心配させまいと進んだ行動する母親の姿に少年も静かに頷く。
ーーだが、まだダメだ。そう判断し俺は声をかける。
しかし、声は届くことはなく、行動を止めることができなかった。
母親は背中をこちらに向けて外へと向かう。
俺は必死に伝えた。
「だめだ、、それ以上行ったら、まだ、、、、」
俺の声は届かず、ドアが閉まる。
外へと出ていってしまった。
……
……
その後、母親は戻ってこなかった。
孤独になった少年が小さくつぶやく。
「母さん、いつになったら帰ってくるの?」
母親が出て数十分経ち、1人孤独だった少年はポツリと呟く。
そして決断したように、自分に語りかけた。
「今からでも追いかけるべきだよね、、、」
不安と恐怖でいっぱいになっているであろう少年は手や足が震えていた。
近くにある木剣を手に取り、母親の元へ向かうために一歩、また一歩と少年もまた、家を出る。
その目に映ったものはまさに悲劇としか表現できない、ただの殺戮だった。
周りを見渡す限り、崩れた家やえぐれた道。
倒れたままピクリとも動かない人々たち。
その中には少年の両親だった人もいた。
少年の感情がいっきに溢れ出す。
目の前の急な出来事に絶望し、後悔し、涙する。
「え?なんで、どうして、みんな、、、」
今の惨状を受け入れることができない。
それゆえにいろんな感情を露わにする。
絶望と後悔、涙と混乱が少年の胸を締めつける。
「みんな、どうしたの?しっかりしてよ。ねぇ、」
少年の感情が流れてくる。
俺は過去に変えられなかった現実と理不尽を照らし合わせ、どうすることもできない非力な自分を恨んだ。
感情に整理をつける時間、
一瞬とも思える時間、
その場にいなかったはずの“それ”はいた。
俺の視点とは別に、空気を震わせる異質な存在――
黒い毛並みに鋭い眼光を持つ魔物――
俺(少年)を見下ろしていた。
シュッ――!
いきなり横から大きい何かが勢いよく飛んできた。
気付くと少年はその場から弾かれ壁に叩きつけられてきた。
口から血を吐き、その場に倒れる。
息が何度も上がる。脈を打つ度に全身が痛む。
「ヒュー、ヒュー、、、なに?、なにが、、、くっ、、」
吐こうとする血を喉元で鳴らしながら視点を上げてその何かを確認する。
少年は薄れゆく意識の中で確かに見た。
犬に似た獣の姿だが、あまりに巨大で、人間よりも圧倒的な存在感を放っていた。
大きい“それ”は俺の知識で言うところの魔物と呼ばれるものに近い存在だった。
だが、少年の視点を通して思うのは、“ 野生で生きた獣”よりも“ 獣っぽい”。
自我が無い?、、、そんな気がした。
そして、やることを全て終えたかのようにその魔物はその場からいなくなった。
生き残った者はいない。
目の前の村は一瞬で地獄と化した。
瓦礫と血の匂い、叫び声の残響――生き残る者はいなかった。
俺は今までの平和な日常から絶望へと変わった今の状況を見て、思った。
「……転生しても、不平等はどこにでもあるんだな」
そんな中、か細い声が確かに聞こえた。
「僕が……もっと強かったら……みんな、助かったのに……」
後悔の言葉を残し、傷だらけのその子の体から力が抜けていく。
「……まだ子どもなのに、前世の俺と似たようなことを考えてたんだな」
少し経ち、俺は決心した。
「……お前の強くなって守りたかった願い。俺の平和で平等な世界を作りたい願い。」
「今の俺は弱い、目の前のことに触れることすらできず手を差し伸べることすらできない。」
「体もなければ知識も無い。“俺だけ”だとなにもできない。ーー限界がある。」
「だから……俺に力を貸してくれ!」
守る力、平和で平等な世の中を作る力が俺には必要だ。
心から強くそう願った。
すると、俺の声に反応したように、少年ははわずかに頷いたように見えた。
そして、静かに息を引き取る。
ーーー「承諾しました」
「怒りと願いに加え、人の魂(50)を養分とし、スキルの進化を始めます」
聞いたことのない声が頭に響く。
機械的な話し方に女性のような声。
しかし、俺はその声を疑問に思うことなく受け入れていた。
「Nスキル(持ち運び)の進化を開始します・・・」
「・・・進化を終えました。Nスキル(持ち運び)はRスキル(管理)へと進化しました」
「これにより新たな機能が追加されました。」
「Nスキル(持ち運び)の機能に加えて、回収。蓄積。付与。改善。を取得しました。」
「これにより進化を終えます」
......進化を終えたらしい。
次の瞬間、俺の意識が溶けるように広がり、
その少年の小さな体に重なっていく。
……
……
俺が再び目を覚ますとすぐに違和感に気付いた。
少年の茶色がかった髪や目は黒く染まり、
視界が、世界が、はっきりと形を持つ。
鼓動が聞こえる。
温度がある。
重さがある。
――体だ。
もう、その子はいない。
だが、俺はここにいる。
「……俺は、少年の願いと、俺の願いを糧に
体と、知識と、技術を手に入れたんだ」
少年の記憶が胸の奥を巡る。
家族と過ごした日々。
知恵をつけ、剣を振り続けた努力。
短くて、かけがえのない十年。
照らし合わせるように、前世で支えだった母の姿が脳裏に浮かんだ。
魔物の襲撃さえなければ、
この先には、穏やかな未来があったはずだ。
「……そんな世界、間違ってる」
その刹那胸の奥に、静かな炎が灯る。
俺たちの願いを決して無駄にはしない。
「ありがとうな」
少年に対し感謝と決意を胸にポツリと呟く。
そうして、近くに落ちていた木剣を拾い、
使えそうな物を手当たり次第スキルで集めていく。
頬を伝うものに気づき、
俺はそれを乱暴に拭った。
――まずは、ここからだ。
最後まで見ていただきありがとうございます!
前作から続けて見ていただいてる方、今回初の方、いろんな方に見ていただき嬉しい限りです!
少しストックに余裕が出てきたので、2月の間は投稿頻度をさらに上げていこうと思います。
3月からは投稿間隔が空くのでご理解よろしくおねがいします。
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次回3話もよろしくお願いします!




