第46話 激昂するモリス
マークの暴言に傷ついたアレクは、次の日の朝、ベッドから起き上げる事ができなかった。
早朝の漁に出かける事もだが、その後のグレイ伯爵家の厩舎の仕事も放り出したのだ。
アレクの母は、食事をすることだけは言ったが、それ以上何も言わなかった。
次の日、漁には出なかったが、グレイ伯爵家の厩舎の仕事には出かけた。しかし、本当に厩舎の仕事をしただけである。
昼飯も殆ど手をつけず、剣の稽古もしない、会話すらも心にあらずだった。
前の日、アレクの母がアレクが体調不良で仕事を休む事をわざわざ、厩舎まで伝えに来たので、そのせいだと思っていたが、その翌日もアレクの様子がおかしいので、流石にロペス爺さんもモリスも異変に気付く。
アレクから事情を聞こうにも、会話を引き出すことができないので、ついにモリスがシオス村のアレクの家に行く事になった。
元々モリスは『真実など知ったところで何もならない』と言って、自分の出生の秘密についても、深く探ろうとはしない人間である。それが、師弟関係とはいえ他人であるアレクの為に、シオス村へと向かっていた。
理屈ではない。アレクの様子を見るのが、あまりにも切ないからだ。
そうしてシオス村から戻って来たモリスは、滅茶苦茶、機嫌が悪かった。あまりにも機嫌の悪さにロペス爺さんが思わず、
「モリス…顔が怖いぞ。男前が台無しだ」
と言ったくらいだ。
シオス村のアレクの家に行き、事情を尋ねたが、アレクの母は決してあの経緯を喋ったりはしなかった。「たいした事ではないです。多分無理をしすぎて少し疲れているだけです。ご迷惑をおかけします」と頭を下げた。
そう言われて、はいそうですかと納得出来ないモリスは、更にシオス村の村長の所にも行ったが、村長も口が堅かった。
ようやくモリスが事の成り行きを引き出したのは、浜で網の手入れをしている村人の一人からだった。
最初は「何も知らない」と口を閉ざしていた男だったが、モリスの指先から滑り落ちた金貨の鈍い光を見た瞬間、その目元が緩んだ。緩んだのは目元だけでなく、口もだ。
その後、モリスが質問をするまでもなく男は、洗いざらい喋ったのだ。
モリスの話を聞いたロペス爺さんは、ため息をついた。
「アレクには悪いことをしたのぅ。ただ単にマールの世話をするだけなら、こんな目に遭わずにすんだのに…村が閉鎖的で、そういう嫉妬があるのは、想像できた事だったのに」
アレクに賃金を払うだけでなく、最近、馬の世話まで任すようになって賃上げと昼飯まで出すように掛け合ったのはロペス爺さんだ。それが火種になったので、責任を感じていたのだ。
「何言ってるんだ!爺さん。アレクや爺さんが悪いわけじゃない!悪いのは勝手に嫉妬して、悪く言ってる奴だ!!クソっ!!」
怒り狂って言葉が悪くなるモリスを見て、ロペス爺さんが笑った。
「本当に、モリスお前は結構冷静な男なのに、そういうとこがルベルコルス一族の血じゃな。そっくりじゃ」
そう言われて、ふと、自分を産んだ事になっているアイラと叔父であるウォルフ、そしていとこのヴィクトリアの顔が浮かんだ。
3人ともルベルコルス一族の中でも気性も言葉遣いも荒い。自分はそうじゃないと思っていたが…案外そうなのかもしれなかった。




