第47話 蹄鉄の双剣
アレクが元気を取り戻すにはどうしたらいいか?ロペス爺さんとモリスはひとつの結論に達した。下手な慰めの言葉よりこれが一番だと二人は思った。
その計画を実行する為に、ロペス爺さんは厩舎近くの小屋に籠もった。
元々、その小屋は、馬の蹄鉄を打つ為の鍛冶小屋である。朝から晩まで、ロペス爺さんの鉄を打つ音が響いた。
何日経ってもロペス爺さんは鍛冶小屋から出てこない。
これまでもロペス爺さんが馬の蹄鉄を打つために鍛冶小屋にこもることはあったので、厩舎で働く者たちは最初こそ気にも留めていなかった。だが、さすがに今回は長い。次第に周囲も首を傾げ始めた。
普通の状態ならアレクも同じようにロペス爺さんの事を心配したはずだ。だが、今のアレクに他の者を思いやる心の余裕はなかったのだ。
朝の漁を全くしなくなったものの、グレイ伯爵家の厩舎の仕事や、週末の市場への運搬をアレクはこなした。
あのマークの暴言のせいで、アレクが市場への仕事を放り投げてしまうんじゃないかと思っていた村長をはじめ、一部の村人は、ホッと胸をなでおろした。
一週間後。
淡々と馬やマールの世話をしていたアレクが丁度、昼休憩に入るタイミングでモリスが厩舎に顔を出した。
「アレク、来い」
モリスの後ろをついて行ったアレクが連れて行かれたのは、鍛冶小屋だった。
扉を開けて入ると、ロペス爺さんが作業台に向かい、水を含んだ砥石で二本の剣を黙々と研ぎ上げているところだった。
シャーッ、シャーッ、と静かな小屋に規則正しい音が響く。
突然連れてこられたアレクが目をしばたたかせていると、ロペス爺さんは手を止め、汗を拭いながらちらりと二人を見た。
「最後の仕上げだ。これで終わる」
仕上げが終わると、ロペス爺さんはその双剣を手にした。
無骨だが、確かな重みを感じさせる一対の双剣。
「アレク…お前の剣だ。受け取れ!!」
モリスがそう言った。
アレクはモリスの顔を見て、ロペス爺さんの顔を見た。
そして震える手でロペス爺さんから受け取った双剣を胸に抱いた。
「馬の蹄鉄を再利用したものだから、多少重いがの。まぁお前さんはこれから先デカくなりそうだから、それくらい使いこなせるじゃろうて」
「おい爺さん。アレクがデカくならないと無理なのか?それじゃあ今使えない宣言か?」
「まぁ…子供には無理な重さじゃろうて…片手剣じゃないからな。アレク…デカくなれ!よく食べて、よく寝て、くよくよ悩まんこと。これが成長するコツじゃ!」
「まぁそうだな、うちの叔父さん並みの190センチまでになれとは言わないが、俺くらいにはなってもらいたいな。まぁ頑張れ」
それはロペス爺さんとモリスなりの励ましの言葉だった。
二人の優しさに触れ、アレクの表情から笑顔が戻った。




