第31話 利用する者される者(前編)
マリア・ロゼは内心面白くなかった。
明日のお茶会は、ウォレスとヴィクトリアと自分の三人だけで、ささやかにやるつもりだった。
だがお茶会の事を知ったハワード大公夫人が、猛烈な勢いでやって来て、自分も参加させるように詰め寄って来たのだ。
その後、ベーカー侯爵夫人、ミラー伯爵夫人も同様だった。
東のローゼリアン王国の社交会を牛耳る三羽烏。無下にするわけにはいかず、彼女は渋々了承した。
本音では物凄く断りたかった。
せっかくヴィクトリアとゆっくり話ができると思っていたのに、これではいつもの社交と変わらない。
だが、宰相のジュールがそれを許さなかったのだ。
「明日のお茶会には、三夫人を参加させておくべきでしょう」
そう言われてしまえば、マリア・ロゼも強く拒否することはできなかった。
三夫人は王国の社交界において、強大な影響力を持っている。彼女たちを敵に回すことは、次期女王であるマリア・ロゼにとっても得策ではない。
それに――。
「ヴィクトリアがどういう反応をするのか、見ておくのも悪くないでしょう」
ジュールにそう言われたことも、マリア・ロゼの頭から離れなかった。
確かに、あの少女が三夫人を前にしてどのように振る舞うのか。それは少し気になるところではあった。
だが、それでも心のもやもやは晴れなかった。
「明日は、あの子とゆっくり話したかったのに……」
マリア・ロゼは小さく呟いた。
一方、ウォレスとヴィクトリアは王宮からすぐに宿屋へ戻った。
部屋に一人きりでいたヴィクトリアは、自分の思った通りに事が運んで、窓の外を眺めながら冷ややかな笑みを浮かべた。幼い顔立ちに似合わないその表情は、もし今ヴォルフが見たら「チビスケは女神の加護じゃなくて、怪物がついた魔物」と再び言い出しかねないものだった。
ルベライト商会は中央都市サントゥスと東のローゼリアン王国の国境沿いにある商会だ。名の知れた商会の多くは中央都市サントゥスか、それぞれの王国の近隣に商会を構えている。無名というのは、それだけで不利な事が多かった。
商売において信用は何よりも勝る。だが、どれほど帳簿の数字が完璧で、扱う品が良かろうとも、「国境の辺境にある名もなき商会」というレッテル一枚で、取引からはじき出されることが少なくなかった。
そのせいで商会で働く者達が幾度となく悔しい思いを抱えている事を知っていた。
自分の母であるルカ・クレセントを未だに溺愛している方々がいる。東のローゼリアン王国の次期女王マリア・ロゼ様を筆頭に、王国の社交会を牛耳っている三夫人、ハワード大公夫人、ベーカー侯爵夫人、ミラー伯爵夫人。
この方々を足がかりにして、ルベライト商会を上に押し上げる手立てはないものか。そう思案していた矢先に舞い込んできたのが、東のローゼリアン王国からの召集だったのだ。
自分の身元への詮議、あの場でルカ・クレセントの娘であることをアピールすることもできたが、彼女はあえてそれをしなかった。その沈黙こそが、彼女の戦略だった。自分がルカの娘かどうか、必ず確かめたいと思う人間がいるはずだ。
その思惑通りに、マリア・ロゼからのお茶会の招待が舞い込んだ。なんとしてもこれを利用したかった。
ルベライト商会を、ここからさらに上へ押し上げるために、明日の茶会で、ヴィクトリアはマリア・ロゼの心を掴むつもりだった。
だが、利用する者は、いつか利用される。
因果応報という残酷な運命の歯車に、自分もまた巻き込まれることになるとは、この時の彼女はまだ知る由もなかった。




