第30話 ルカお姉様の娘ですもの!
王宮の私室に早々と戻って来たハワード大公夫人は、お付きの侍女達を奥から払って、ソファの上でクッションを抱え身悶えていた。
「もうなんなの、なんなの、なんなの」
憧れのお姉様の娘のヴィクトリアが可愛すぎた。
あの可愛さに悶絶した等、周囲に知られるわけにはいかなかったので、さも気分が悪い振りをして、退室したのだ。本人いたって元気である。
しばらくするとドアがノックされ、ハワード大公夫人は佇まいを正した。
入ってきたのはベーカー侯爵夫人、ミラー伯爵夫人だ。
「ハワード大公夫人、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですわ」
「それより、どうなりましたの?結局、あの娘はルカお姉様の娘ですの?」
ベーカー侯爵夫人とミラー伯爵夫人はお互いに顔を見合わせた。
「それが…はっきりしないのですわ」
「はっきりしないとは?」
「国王陛下直々お尋ねになったのですが…うまく躱されてしまったのですわ」
「まぁ!流石はルカお姉様の娘ですわ」
とハワード大公夫人は感嘆した。
「ハワード大公夫人、ルカお姉様の娘かどうかは?まだ…」
とミラー伯爵夫人が言いかけたのを遮ってハワード大公夫人は、
「何を言ってらっしゃるの!!あのお顔立ち、まさにお姉様にそっくりだったではありませんか!!国王陛下を相手に躱したと言うその豪胆さ、お姉様の娘に違いありません!!他に誰がそんな事できますか」
と熱っぽくまくし立てた。
ハワード大公夫人がこれほど肯定してしまっては、ベーカー侯爵夫人もミラー伯爵夫人も否定する事はできなかった。確かにあれだけ似ている上に、国王陛下相手に一歩も引かない豪胆さはルカ・クレセントそのものだった。
「ルベライト商会は国境沿いのルルベルの町にありましたよね。あそこまで馬車で1週間。おいそれとは行くわけにはいかない距離だと言うのが口惜しい。あぁ何故?私は、あの子をうちに招待しなかったのか?痛恨のミスだわ!…うちに招待すればなんとでも言って滞在を引き延ばせたのに…きっともう帰ってしまったわね。本当なんて言うことでしょう、キャサリンの馬鹿馬鹿馬鹿」
誰に聞かせるわけでもなくハワード大公夫人は独りごちた。
そんな彼女を見かねて、ベーカー侯爵夫人がおずおずと口を挟んだ。
「ハワード大公夫人、あの、…帰られてないと思います」
「明日、マリア・ロゼ様がご自分の私室でお茶会をやられるそうで、その招待をあの場でして、すぐに了承したので」
「なんですって!!」
ハワード大公夫人は美しいドレスの裾を翻し、お付きの者たちが止める間もなく部屋を飛び出していった。
彼女の頭の中にあるのは、ただ一つ。
――明日、ヴィクトリアちゃんを誰よりも早く愛でること。
そのためなら、大公夫人の威厳などどこへやら、向かう先は、マリア・ロゼ様の私室だった。
お茶会の正確な時間を聞き出し、自分も同席させてもらえるよう交渉し、そして何より「ルカお姉様の娘を至近距離で愛でる権利」を根回しする。それだけを頭に、ハワード大公夫人は猛然と王宮の廊下を駆けていくのだった。




