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第27話最大の獲物狩り

ヴォルフが喚いた。

東のローゼリアン王国からの馬車が到着して、荷物を馬車に詰め込んで、いざ出発しようとした矢先に、自分もついて行くと言い出したのだ。

王宮に招待されたのはウォレスとヴィクトリアである。ヴォルフは呼ばれていない。


「ヴォルフ……王宮にまでついてくる気かね?」

ウォレスは呆れたように言った。東のローゼリアン王国でのシニストラの一件があるのだ。ヴォルフは事実上の出禁に近い状態にある。


「いや……王宮にはいらないが……その途中まで」

「ダメよ、おっちゃんは留守番」

ヴィクトリアが遮った。それでもヴォルフはなおも食い下がる。

「治安が悪い! 襲われたりした時にどうするんだ! やっぱりワシが行かないと話にならん!」

「だからそのために王宮の迎えを頼んだんじゃない! 王宮の馬車を襲う馬鹿はいないって言ったでしょ?」


ヴォルフはヴィクトリアの前に立ち塞がり、大男の体躯で彼女の行く手を完全に遮った。だがヴィクトリアは、呆れたように小さく息をつくと、馬車の屋根にまでぎっしりと積み込まれた荷物を指差した。


「それに馬車の荷物を見て! 中もだけど、隙間なく詰め込んでいるの。おっちゃんみたいな大男が乗り込んだら重量オーバーだから」

「なっ……だったら荷物をどければいいだろ!」

「何言ってるの! あの荷物は大事なの! 私とウォレスのおじちゃんの旅支度に、商会の売り物も全部詰め込んでいるのよ」

ヴィクトリアは少しも動じず、冷徹に言い放った。

「正直言っておっちゃんは要らない」

トドメを刺された。


ヴォルフは膝から崩れ落ちそうになりながら、ただ立ち尽くすしかなかった。190センチの巨躯が、まるで小さな子供の言葉に吹き飛ばされたかのように硬直している。


ウォレスは手早く荷物の最終確認を終えると、ヴォルフの肩をポンと叩き、「それじゃあ行ってくる」と短く言った。


そして視線を商会の入り口へと向けた。そこには、今回の門出を見送るために集まった商会の職人たちの姿がある。

「お前たち、留守の間は頼んだぞ……レニード」

「はい」

不意に名前を呼ばれたレニードが、きびきびとした動作で歩み出る。ウォレスは低く、しかし厳かに命じた。

「ヴォルフのお守りを頼む。しっかり見守ってやってくれ。私たちがいない間、何をしでかすか分からないからな」

「なっ! 誰が何をしでかすんだ!」

ヴォルフが顔を真っ赤にして反論しようとすると、ヴィクトリアが追い打ちをかけるように付け加える。

「そうそう、おっちゃんが後を追いかけてくるかもしれないから、ちゃんと見張っておいてね。お願いよ、レニード」

ヴィクトリアは心底楽しげに、残酷な笑顔でレニードに念を押した。


ウォレスが馬車に乗り込み、最後にヴィクトリアが続く。重い扉が閉まり、馬車はゆっくりと商会の前を離れ、王宮へと続く街道を走り出した。


窓から外を見たヴィクトリアは、呆然と見送るヴォルフの姿を一瞥した。父の情けない姿に、微かに笑みがこぼれる。だがそれも一瞬のことで、彼女はすぐに表情を引き締め、これから始まる交渉に意識を切り替えた。


「ところでヴィクトリア。あの座席の下に厳重に詰め込まれた木箱は何だ?」

馬車が走り出してしばらく経った頃、向かいに座るウォレスが訝しげに尋ねた。

実はウォレスも、箱の中身を正確には把握していなかった。王宮から招待状が届いたその日から、ヴィクトリアが商会の職人たちに直接指示を出し、急ピッチで準備させた品物だったからだ。


「琥珀の砂糖菓子(コンフィ)と焼き菓子。それに特製のお茶。ほかには頭飾りと、彫金を施した飾りボタンよ」

ヴィクトリアは、まるで当たり前のことのように淡々と答えた。ウォレスは目を丸くする。

「……どうするんだね、それを。まさか東の王国で売るつもりかね?! 私らは商売をしに行くわけではないぞ。王宮に呼ばれただけだ」

「そうね。でも、これは千載一遇のチャンスだわ」

ヴィクトリアは窓の外、遠ざかる商会の景色を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた。


「王宮の地に住む大貴族にルベライトの品物を紹介できる機会を逃したくないわ、ウォレスのおじちゃん」

ウォレスは苦笑した。そこで初めて、ヴィクトリアの真意を悟った。

治安を理由に王宮の迎えを求めたのは、自分たちの身だけでなく、この荷も守るためだったのか。あの時点で、ここまで読んでいたとは。


ヴィクトリアの瞳には、商売人としての貪欲なまでの輝きがあった。

揺れる馬車の中で、ヴィクトリアはただ静かに、目的地を見据えていた。

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