第20話 永遠の誓い
土を被せたばかりの小さな丘に、夕闇が静かに降りてくる。
埋葬の手伝いをしていた村人たちは、先に帰っていった。
他の者もこれで帰ろうとした時だった。
「司祭様……お願いがございます」
振り返った慈悲深い瞳に、ヴォルフは震える声で告げる。
「彼女を――ルカを、自分の妻として認めてはいただけないでしょうか。……今ここで、死の縁ではなく、永遠の契りの儀式を執り行っていただきたいのです」
その願いは、傍らで聞いていたレニードすら息を呑むような、あまりに重く、そして美しい決意だった。
その言葉の意味を理解した瞬間、さすがのグレゴリウス14世も即答はせず、深く沈黙した。彼はヴォルフの瞳をじっと見つめ、その奥底にある深い執着と、それ以上に静かな絶望を測りにかけるように思案を巡らせる。
長い沈黙の後、教皇は静かに口を開いた。
「……わかりました。執り行いましょう」
その言葉に、最も激しく反応したのは側近のニコラだった。
「お待ちください、グレゴリウス様! それは前例がありません。神の法にも、教団の掟にも背く冒涜です!」
「ニコラ。前例がないのなら、前例を我々が作ればよいのです」
淡々とした、しかし有無を言わせぬ力強い言葉。
それに抗うように、アイラがたまらず前に出た。
「司祭様! お願いです、どうかお聞き入れにならないでください。ヴォルフは今、気が動転しているだけなんです」
姉としての切実な叫び。だが、グレゴリウス14世は穏やかに首を振った。
「……私たち神に仕える者は、救いを求めるものの心を救うためにあります。人の世の理がどうあれ、ヴォルフの心がそれで救われると言うなら……それでよいのではないでしょうか」
グレゴリウス14世が歩み寄ると、ヴォルフの膝に力なく置かれていた拳が、かすかに震えた。
教会という絶対的な権威が、ヴォルフの「狂気」を「愛」として肯定した瞬間だった。
夕闇が迫る墓地で、教皇グレゴリウス14世が手を広げ、祈りの体勢をとった。その慈愛に満ちた声が、静寂を震わせる。
「……今日ここに、死の淵を超えて愛を誓う魂がある。この契約は、人の理ではなく、天の慈悲によって記録されるであろう」
ヴォルフは一歩前に出ると、ルカの眠る土の上に立てられた簡素な墓標の前に立った。彼はそこに、まるで彼女の頬に触れるかのように、静かに、そして固く手を添えた。
木標から伝わる冷たさが、彼女がもうこの世にはいないという事実を突きつけてくる。
だが、ヴォルフは目を閉じ、震える声で誓いを紡ぎ始めた。
「……私の生涯のすべてをかけて、あなたを愛することを誓います」
ヴォルフは言葉を切り、鼻の奥を鳴らして俯いた。誰に聞かせるでもなく、ただルカの魂に届くように、彼は続ける。
「健やかなるときも、病めるときも……そして、あなたがこの世から去ってしまった今も。私はあなたを妻として敬い、あなたの名と共に生きることをここに誓います」
ヴォルフの声は、最初は細く震えていたが、後半は確かな響きを帯びていた。
姉のアイラとマイラは、その姿を見て声を上げて泣き崩れた。他の者は奇妙な感動が入り混じった表情で、その光景を見守っている。
グレゴリウス14世は、そっとヴォルフの肩に手を置いた。
「誓いは届いた。……ルカよ、この男の愛を、その身に受け入れよ」
儀式が終わった瞬間、不思議なほど冷え込んで墓地に暖かい風が吹き抜けた。
その風は、まるで祝福のようにヴォルフの頬を撫でていった。




