第12話嵐が吹き荒れる前編
シオス村を救った後、二人の男は東を目指していた。
次なる仕事先は、ロ―ゼリアン王国の貴族、ヴェストファール家。彼らが護衛としての人手を必要としているという噂を、酒場の主人から聞きつけたのだ。
この世界で傭兵とは、決して安定した職業ではない。
商人のようにギルドで保護されているわけでもなく、酒場に貼り出された薄汚れた紙や、酒場の主人から流れてくる情報の断片を頼りに、自ら仕事を取りに行くしかない。雇い主の元へ辿り着いたところで、気に入られなければ門前払い。それどころか、ただの汚れ仕事で使い潰されることさえある。
「……次は、ヴェストファール伯爵家ですが。親父様、本当に行かれるのですか?」
レニードが、少しだけ声を潜めて問いかける。
東のロ―ゼリアン王国。その地は赤髪の男にとって、かつて愛した女性が生きた場所だ。結婚も叶わず、引き裂かれた因縁の地。そこへ再び足を踏み入れることが、赤髪の男にとって何を意味するかを、レニードは痛いほど分かっていた。
「……なんだ、不服かレニード」
「いえ……不服というわけでは」
「仕事だ」
簡潔に告げたその言葉には、誰にも踏み込ませない、鋼のような意志が宿っていた。
それがただの仕事なのか、それともあの女性の面影を追い求めるための、彼なりに選んだ道なのか。レニードはそれ以上、何も言わなかった。
「……あいつらがいた頃は、もう少し酒が旨かったな」
かつて――七年戦争が始まる前、彼らは二人だけではなかった。
赤髪の男とレニードに加え、あと三人の仲間がいた。『暁の閃光』そう名乗っていた仲間と共に各地の酒場で囲んだ食卓は、いつも賑やかだった。
「オヤジ様、飲めもしないのに…旨いわけないですよね?それって世間で言う思い出は美しいというやつでは?」
レニーが呆れたように言うと、赤髪の男は無造作に髪をかき上げた。
「……うるせぇ。レニードごちゃごちゃ言うな!!」
赤髪の男はそう吐き捨てると、足早に歩き出した。
その後を、レニードが肩をすくめながら追いかける。
二人はまだ知る由もなかった。
これから先、東のローゼリアン王国で待ち受けている――巨大な嵐を。




