表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は最適化される。だから俺は、全員を残す  作者:
最適化世界の観測記録
7/38


 『試行回数:残り1』


 その一行で、空気が変わる。


 教室。


 ざわついているはずなのに、遠い。


 「……あと一回」


 口に出すと、重くなる。


 ここまで来た。


 何度もやり直して。


 何度も削られて。


 それでも、残った。


 「……最後」


 指が、震える。


 選べば、消える。


 選ばなければ、削られる。


 逃げ道はない。



 「れん」


 声。


 振り向く。


 結衣。


 いつも通りの顔。


 でも、目だけが違う。


 「さっきの、できたね」


 「ああ」


 短く返す。


 「すごい」


 その言い方に、違和感がある。


 褒めてるのに、どこか“確認”している。


 「ねえ」


 少しだけ近づく。


 「次、どうするの?」


 「……使わない」


 即答。


 「最後の一回、使わない」


 結衣が、ほんの少しだけ目を細める。


 「使わなかったら?」


 「減る」


 短く。


 「勝手に削られる」


 沈黙。


 「じゃあ、使うしかないね」


 正論。


 でも。


 「違う」


 首を振る。


 「“選ぶ”のが間違ってる」


 言葉にする。


 形にする。


 今までの全部。


 一人を選ぶ。


 二人を同時に救う。


 全部、“枠の中”だ。


 だから、勝てない。


 「枠ごと外す」


 結衣の視線が、少しだけ変わる。


 「どうやって?」


 「……分からない」


 でも、やるしかない。



 夜。


 教室。


 誰もいない。


 黒板は白い。


 でも。


 “向こう側”がある。


 見ようとすれば、見える。


 『観測継続』


 浮かぶ文字。


 「……終わらせる」


 チョークを持つ。


 冷たい。


 ここで終わらせる。


 選ばない。


 削らせない。


 そのために。


 「お前を、止める」


 黒板に書く。


 『停止』


 反応はない。


 「なら」


 握り直す。


 「定義だ」


 ゆっくり書く。


 『最適化=彼女の生存』


 


 一瞬。


 


 『定義競合』


 


 来た。


 「上書きしろ」


 さらに書く。


 『ノイズ=彼女以外』


 


 黒板が揺れる。


 『危険』


 初めての言葉。


 「知ってる」


 答える。


 「でも、このままじゃ終わらない」


 もう一行。


 震える手で書く。


 


 『観測者=俺のみ』


 


 


 静寂。


 


 


 『再定義承認』


 


 通った。


 「……やれる」


 


 そのとき。


 


 「それ、だめだよ」


 


 声。


 


 振り向く。


 


 結衣がいる。


 静かに。


 「……見えてるのか」


 「うん」


 あっさり。


 「全部じゃないけど、だいたい」


 心臓が鳴る。


 「じゃあ、分かるだろ」


 黒板を指す。


 「これで終わる」


 結衣は少し考えて、首を振る。


 「終わらないよ」


 「なんで」


 


 一歩、近づく。


 


 「それ、“私しか残らない”って意味だから」


 


 理解が追いつく。


 「……全員、消える」


 「うん」


 当たり前みたいに。


 「それでいいの?」


 答えられない。


 「れん」


 やさしい声。


 でも、逃げられない。


 「それ、選ぶのと同じだよ」


 核心。


 「一人ずつじゃないだけで」


 沈黙。


 チョークが軋む。


 「……じゃあどうすればいい」


 結衣は、少しだけ笑う。


 


 「簡単だよ」


 


 

 一拍。


 


 

 「私も、ノイズにすればいい」


 


 世界が止まる。


 「……は?」


 「私も外すの」


 黒板を見る。


 それから、俺を見る。


 「そうすれば、“彼女”がいなくなる」


 理解する。


 「終わるよ」


 血の気が引く。


 「ふざけんな」


 声が出る。


 「それじゃ意味ねえだろ」


 結衣は、静かに笑う。


 「意味あるよ」


 


 少しだけ、首を傾ける。


 


 「誰も、減らない」


 


 「お前が消えるだろ」


 言葉が震える。


 結衣は、少しだけ黙る。


 それから。


 


 「うん」

 


 

 「だから?」


 


 一拍。


 


 風が、少しだけ強くなる。


 目を伏せて、それから、笑う。


 「……やっと、終われるね」


 声が少しだけ掠れる。


 「ずっと、変だったんだよ」


 視線を上げる。


 まっすぐ、こっちを見る。


 「毎日、ちょうどよくてさ」


 小さく、息を吐く。


 「誰も困らないように、誰かがいなくなってるみたいで」


 間。


 「……たぶん、もう何回もやってる」


 笑う。


 困ったみたいに。


 「覚えてないけど」


 


 一拍。


 


 「――体が、覚えてる」


 


 逃がさない目。


 「ここで、止めないとダメだって」


 一歩、近づく。


 「だから、いいよ」


 やさしい声。


 「私で終わるなら、それでいい」


 少しだけ、首を傾ける。


 「その代わりさ」


 いつもの調子に戻る。


 「ちゃんと選んでね」


 まっすぐ。


 「後悔しない方」


 少しだけ、笑う。


 「どうせまた迷うなら――」


 


 一瞬、言葉を切って。


 


 「今回は、終わらせて」


 


 


 静寂。


 


 


 黒板が、浮かぶ。


 


 

 『最終試行』


 


 


 逃げ場は、ない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ