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世界は最適化される。だから俺は、全員を残す  作者:
最適化世界の観測記録
6/37

重ねる


 『試行回数:残り少数』


 その一文が、頭から離れない。


 回数制限。


 つまり、やり直しにも限界がある。


 「……クソ」


 廊下を歩きながら、拳を握る。


 二人同時に救う。


 しかも“同一時点で確定”。


 今のやり方じゃ無理だ。


 時間を止めて、位置を変える。


 それでも“未来基準”で弾かれる。


 なら――


 「未来ごと、固定するしかない」


 言葉にしてみる。


 自分で言って、自分で分からなくなる。


 未来を固定するってなんだ。


 そんなこと、できるはずがない。



 昼休み、教室。


 黒板は白い。


 でも、見ようとすれば見える。


 “あっち側”の黒板が。


 「……なあ」


 チョークを手に取る。


 普通の、ただのチョーク。


 でも、あの時だけ“向こう”に触れる。


 「条件、追加できるか」


 書いてみる。


 『条件変更』


 何も起きない。


 少し待つ。


 黒板が、静かに返す。


 『権限不足』


 舌打ちする。


 「じゃあ、ヒントは出せるか」


 間。


 『観測者に限定』


 観測者。


 つまり――俺だけ。


 「……意味ねえ」


 呟く。


 そのとき。


 「れん」


 結衣の声。


 振り向く。


 いつもの距離。


 でも、視線が違う。


 「さっきから、何見てるの?」


 黒板は見えていないはずだ。


 なのに、位置が合っている。


 「……なんでもない」


 「ふーん」


 結衣は少しだけ近づく。


 黒板と、俺の間に入るみたいに。


 「ねえ」


 小さく言う。


 「それ、重ねてるでしょ」


 心臓が止まる。


 「……何を」


 「時間」


 即答だった。


 思考が、一瞬遅れる。


 「ズレてるもん」


 結衣は当たり前みたいに言う。


 「さっきから、同じ一瞬がちょっとだけ重なってる」


 理解が、追いつく。


 重なっている?


 つまり――


 「……同時に、じゃない」


 口が勝手に動く。


 結衣が、首を傾げる。


 「ん?」


 「同時にやるんじゃない」


 違う。


 今までのやり方は、“一回で二人”だった。


 だから弾かれる。


 なら――


 「二回を、同時にする」


 自分でも、言っている意味がギリギリだ。


 でも、感覚は合っている。


 時間を止める。


 その中で、別の選択を重ねる。


 一つの結果に対して、二つの操作を“重ねて確定させる”。


 「……できるか」


 やるしかない。



 放課後、同じ場所。


 校門前。


 結衣と、もう一人。


 位置も、タイミングも同じ。


 「れん?」


 結衣が不思議そうに見る。


 「少しだけ、じっとしててくれ」


 答えない。


 視線は前。


 来る。


 キィィィィィッ――!!


 音。


 同時に、チョーク。


 『止まれ』


 


 世界が止まる。


 


 息を吸う。


 ここからだ。


 まず、一人目。


 結衣を引く。


 位置を変える。


 ここまでは同じ。


 次に、もう一人。


 押す。


 外す。


 ここも同じ。


 でも――


 終わらせない。


 チョークを、もう一度握る。


 同じ場所に、重ねる。


 『止まれ』


 


 時間が、さらに沈む。


 


 二重に、止まる。


 


 視界が歪む。


 足元が揺れる。


 でも、動ける。


 「……いける」


 今、この瞬間は二つある。


 一つ目の停止。


 二つ目の停止。


 両方の中で、位置を微調整する。


 ほんの数センチ。


 未来の“当たり”を、完全に外す位置へ。


 「……これで」


 息が荒くなる。


 解除する。


 


 『解除』


 


 音が戻る。


 風が流れる。


 時間が、走る。


 キィィィィィッ――!!


 車が滑る。


 軌道が――


 外れる。


 誰にも当たらない。


 完全に、逸れる。


 通り過ぎる。


 止まる。


 静寂。


 「……は」


 誰も、倒れていない。


 結衣も。


 もう一人も。


 周りの人間も。


 全員、立っている。


 初めてだ。


 誰も消えていない。


 


 黒板が現れる。


 


 『判定:――』


 


 止まる。


 息が詰まる。


 


 『同時救出:成立』


 


 膝から力が抜ける。


 「……やった」


 声が漏れる。


 できた。


 初めて、全員を残した。


 黒板が、続ける。


 『最適化進行』


 嫌な言葉。


 でも、今はいい。


 結果が出た。


 そのとき。


 「れん」


 結衣の声。


 振り向く。


 無事だ。


 はっきりと。


 そこにいる。


 でも。


 表情が、少し違う。


 「今の、二回やったでしょ」


 呼吸が止まる。


 「……何が」


 「時間」


 また、即答。


 結衣は一歩近づく。


 目が、外れない。


 


 「ねえ、それ」


 


 少しだけ、笑う。


 


 「次は失敗するよ」


 


 一拍。


 言葉の意味が、遅れて刺さる。


 「……なんで」


 結衣は、首を傾げる。


 困ったみたいに。


 でも。


 どこかで分かっている顔で。


 「だって」


 


 小さく、言う。


 


 「回数、減ってるもん」


 


 黒板が、静かに現れる。


 新しい一行。


 


 『試行回数:残り1』


 


 心臓が、強く鳴る。


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