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世界は最適化される。だから俺は、全員を残す  作者:
最適化世界の観測記録
2/37

見るな


 「――やっと、ここまで来たね」


 その一言が、耳の奥に残っている。


 「れん?大丈夫?」


 結衣が覗き込む。近い。いつもと同じ距離のはずなのに、妙に圧がある。


 「……平気」


 視線を外す。合わせたくなかった。理由は分からない。ただ、体がそうした。


 「変なの」


 結衣は笑う。ほんの一瞬だけ、その笑顔が遅れて追いついた気がした。


 見間違いだ、と切り捨てる。


 「行こ」


 背を向けて歩き出す結衣。校門へ向かう足取り。


 その光景に、頭の奥が軋む。


 ブレーキ。白い線。倒れる影。


 「……っ」


 足が止まる。予感じゃない。既に知っている形だ。


 同時に、あの文字が浮かぶ。


 『彼女を見るな』


 意味がはっきりする。


 見れば、起きる。


 「れん?」


 振り返る気配。視線が合う直前。


 外す。


 「……先、行ってて」


 「え?」


 「いいから」


 少し強めに言う。間が空く。


 「……うん」


 足音が遠ざかる。


 見ない。絶対に見ない。


 呼吸を整える。秒針の音がやけに大きい。


 来るはずの衝撃が、来ない。


 音もない。悲鳴もない。


 「……は?」


 顔を上げる。


 結衣は校門の向こうにいた。無事なまま、こちらに手を振っている。


 助かった――そう判断した瞬間。


 背後で、硬い音が落ちた。


 ガタンッ。


 振り向く。


 クラスメイトが一人、地面に崩れている。


 見覚えはある。顔も知っている。


 なのに、名前が出てこない。


 「……誰だっけ」


 口に出して、空白に気づく。


 周りも同じだった。誰も名を呼ばない。「大丈夫か」とだけ言う。


 その不自然さが、自然みたいに場に馴染んでいく。


 ――いい選択だ。


 頭の内側で声がする。


 黒板の映像。


 『一人分、空いた』


 理解が追いつく。


 見なかった。だから結衣は助かった。


 その代わりに――穴が一つ、埋まった。


 「……ふざけんな」


 喉が乾く。選んでいない。だが結果は固定されている。


 これは選択じゃない。


 選ばされている。


 「れん!」


 結衣が駆け寄る。息を切らして、いつもの顔で。


 「大丈夫?顔、やばいよ」


 覗き込まれる。その目に、わずかな違和感。


 ――どこまで、知っている?


 結衣は首を傾げる。


 「……ねえ」


 声が近い。


 表情が、ほんの一拍だけズレる。


 「今回も、それなんだ。」


 思考が止まる。


 “今回も”。


 問い返す前に、結衣は元に戻る。


 「あ、ごめん。なんかデジャブ。行こ?」


 手を引こうとする。いつも通りの仕草。


 だが、もう同じには見えない。


 やり直しじゃない。


 削っている。


 世界を。


 人を。


 欠けた分だけ、何かが合う。


 視界の端に、黒板が差し込まれる。


 『観測継続』

 『条件更新』


 息が詰まる。


 次の一行が、ゆっくり現れる。


 『――次は、意図的に選べ』


 意図的に。


 つまり、避けることはできない。


 「……誰を」


 声が、掠れる。


 黒板が、短く返す。


 『選べ』


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