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初手の代償

音が消える。


 視界が、落ちる。


 次に開いたとき。


 「……外か」


 道路。


 夕方。


 見覚えがある。


 「この場所……」


 結衣が小さく言う。


 「ああ」


 即答。


 5話と同じ。


 事故の場所。


 でも。


 違う。


 空気が重い。


 「……来るぞ」


 低く言う。


 キィィィィィッ――!!


 ブレーキ音。


 車。


 滑る。


 軌道が読めない。


 「結衣、こっち!」


 手を引く。


 同時に、周りを見る。


 人が多い。


 前より多い。


 「……増えてる」


 呟く。


 そのとき。


 


 『対象数:5』


 


 黒板が割り込む。


 「……は?」


 五人。


 結衣を含めて。


 「ふざけんなよ」


 条件が、跳ね上がる。


 「れん!」


 結衣の声。


 思考を戻す。


 「どうする」


 即座に聞く。


 時間がない。


 「……全員動かす」


 答える。


 それしかない。


 「位置をズラす!」


 走る。


 近くの一人。


 腕を掴む。


 引く。


 次。


 もう一人。


 押す。


 でも。


 間に合わない。


 「……くそ!」


 


 『制限:同時操作不可』


 


 黒板。


 最悪の一行。


 「……は?」


 一人ずつしか動かせない。


 五人いるのに。


 「終わってんだろ」


 歯を食いしばる。


 時間が足りない。


 「れん」


 結衣の声。


 近い。


 「分けよう」


 短く。


 はっきり。


 「私も動く」


 一瞬。


 止まる。


 「……できるのか」


 「分かんない」


 即答。


 でも。


 「やるしかないでしょ」


 目が、揺れていない。


 「……分かった」


 うなずく。


 「二人で分担する」


 決める。


 「俺が三人」


 「私が二人」


 「行くよ」


 同時に動く。


 分かれる。


 時間がない。



 走る。


 一人。


 引く。


 二人目。


 押す。


 三人目。


 間に合うか。


 「……足りねえ」


 時間が足りない。


 そのとき。


 


 『観測者:補助可能』


 


 黒板。


 意味が分からない。


 「……は?」


 その瞬間。


 声。


 「使えば?」


 横。


 あいつ。


 観測者。


 立っている。


 動いていない。


 ただ見てる。


 「一人分、貸してあげるよ」


 軽く言う。


 笑ってる。


 「代わりにさ」


 一拍。


 「一人、消すけど」


 思考が止まる。


 「……ふざけんな」


 吐き捨てる。


 でも。


 時間がない。


 残り、一人。


 間に合わない。


 結衣の方を見る。


 二人、動かしている。


 でも。


 ギリギリ。


 「……間に合わねえ」


 分かる。


 確実に一人、落ちる。


 観測者が笑う。


 「ほら」


 軽く。


 「楽になるよ」


 選べと。


 言っている。


 「……」


 歯を食いしばる。


 考える。


 一瞬で。


 「……使わねえ」


 答える。


 即答。


 「全員残すって言っただろ」


 視線を上げる。


 観測者を見る。


 「お前のルールは使わない」


 言い切る。


 観測者は一瞬、止まる。


 それから。


 「へえ」


 少しだけ楽しそうに笑う。


 「いいね」


 でも。


 動かない。


 助けない。



 残り一人。


 距離が遠い。


 間に合わない。


 「……くそ!」


 走る。


 全力。


 でも。


 届かない。


 「れん!」


 結衣の声。


 振り向く。


 結衣が、走っている。


 本来の位置を離れて。


 「そっち行くな!」


 叫ぶ。


 でも。


 止まらない。


 「間に合うから!」


 言い切る。


 残り一人へ。


 手を伸ばす。


 届く。


 引く。


 その瞬間。


 


 キィィィィィッ――!!


 


 軌道が、変わる。


 ありえない角度で。


 「……っ!」


 見える。


 今度は――


 


 結衣に向かっている。


 


 「やめろ」


 声が出る。


 間に合わない。


 「れん!」


 結衣が叫ぶ。


 でも。


 笑ってる。


 ほんの少しだけ。


 「大丈夫」


 その一言。


 でも。


 大丈夫じゃない。


 確実に、当たる。


 「……ふざけんな」


 足が止まらない。


 でも。


 距離がある。


 届かない。


 その瞬間。


 


 ドンッ。


 


 衝撃。


 


 視界が揺れる。


 


 音が、遅れてくる。


 


 「……は」


 


 倒れている影。


 


 息が止まる。


 


 「……結衣?」


 


 違う。


 


 結衣は立っている。


 


 無事。


 


 その前に。


 


 一人。


 


 知らないやつが、倒れている。


 


 「……なんで」


 


 理解が追いつかない。


 


 結衣を見る。


 


 震えている。


 


 「……動いたの」


 


 小さく言う。


 


 「勝手に」


 


 背筋が冷える。


 


 黒板が出る。


 


 『判定:部分成立』


 


 「……部分?」


 


 下に、続く。


 


 『代替消去:1』


 


 やっぱりだ。


 


 「……ふざけんなよ」


 


 拳が震える。


 


 結衣も、残りも。


 


 全員、生きてる。


 


 なのに。


 


 また、誰かが消えた。


 


 観測者が拍手する。


 


 軽く。


 


 「惜しいね」


 


 笑う。


 


 「かなり良かったよ」


 


 その顔が。


 


 ムカつく。


 


 「……次だ」


 


 低く言う。


 


 まだ終わってない。


 


 「次で、全部通す」


 


 言い切る。


 


 観測者は少しだけ目を細める。


 


 「いいね」


 


 楽しそうに。


 


 「じゃあ次は、もっと難しくしよう」


 


 黒板が揺れる。


 


 『次試行:難易度上昇』


 


 空気が、落ちる。


 


 でも。


 


 折れない。


 


 「……何回でもやる」


 


 小さく言う。


 


 「全部、残すまで」


 


 結衣が隣に来る。


 


 距離が近い。


 


 「うん」


 


 短く。


 


 それだけ。


 


 でも。


 


 十分だ。


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