【外伝15話】立会人
俺は伊出瑛太
今年デビューしたblue roseのメンバーでボーカルを担当している
blue roseはデビュー曲がオリコン1位になり、YouTubeの再生数も3000万回再生されている
期待の新人バンドとして世間から大注目される戦慄デビューに成功し
ここ1年間はほとんど休みもなく仕事ばかりでプライベートの時間はなかった
睡眠時間もほとんどない状態はかなりきついが今が頑張り時で稼ぎ時だ
blue roseがこれからも世間から愛され続けるバンドになるように死ぬ気で活動していた
そんな絶好調の真っ最中に
“やめたい”
とメンバーのアーマーが言い出した
アーマーはblue roseのギターと作曲をしていてバンドメンバーの要だ
それなのに…急にやめるだなんて冗談じゃない!!
やめる理由は大好きな嫁を大事にしたいからだそうだ
仕事量を減らすとか何でも対処法はある
やめるなんて絶対にダメだ
事務所で話をしているとどうやらアーマーの嫁のルナちゃんが家に不審者が侵入して危険だと言うので
話し合いは一旦中断し、ルナちゃんの様子をblue roseのメンバーとマネージャーで見に行くと
「すご…」
ギターを弾き語るルナちゃんがそこにはいた
一瞬でその曲と声に心を奪われた
パジャマ姿なのに恐ろしいほどのカリスマ性を感じる圧倒的なオーラ
愛の歌なのに悲しみを歌う歌声に魅了された
歌い終えるとルナちゃんは気絶するように眠り
アーマーとルナちゃんのバンドメンバーの男が言い争いを始めた
ルナちゃんは友人の女の子と男の子に連れて行かれた
残ったメンバーで部屋の掃除をしたが
「なんだよこれ…」
俺はそこでことの重大さを始めて認識した
寝室はルナちゃんが性的暴行をされたであろう証拠だらけだった
「瑛太は他の部屋掃除して。」
とマネージャーに言われ、他の部屋を掃除することになった
一応blue roseのメンバーでは最年少で、18才だから気遣ってくれたのだろう
俺はリビングの掃除を担当することになりリビングへも向かう
そこにはテーブルの上にルナちゃんが用意いたであろう料理が手付かずで並んでいた
捨てるのはもったいないので、俺は冷蔵庫に入れることにした
冷蔵庫を開けると誕生日ケーキも用意してあり胸が苦しくなる
あんなに大事に大事にしていたはずで惚気まくっていたのに…
なんでこんな仕打ちをルナちゃんに…
俺が知っているアーマーはこんなことをしない
何か理由があったに違いない
浮気が発覚して激昂したとか
きっとそうに違いない
こんな…ひどいこと…
料理を片付けながら気分が滅入ってくる俺は料理だけでこんな気持ちなるのに寝室を掃除しているメンバーはもっときついだろうな
部屋が片付き、俺達は話し合いを始める
アーマーは昔の男に嫉妬したからルナちゃん暴行したようだ
なんかもう…何もかもがショックすぎて言葉にならない
ルナちゃんのバンドメンバーが先に帰り
俺達だけが残された
「アーマーはしばらく謹慎させる。他のメンバーは事務所に帰りなさい。」
マネージャーに言われ俺達は事務所に帰った
何もかも忘れたくて仕事に打ち込んだ
事件から1カ月が経過した
アーマーはまだ謹慎中だ
このままアーマーはblue roseをやめてしまうのだろうか
…
正直複雑な気持ちだ
俺達の前では仕事に真摯に向き合う頼れる仲間だったのに
プライベートはあんな暴行野郎だったなんて…
信じられないが事実だった
また同じように仲間として活動できるかと問われたら
答えはノーであり
アーマーを頼れる仲間として接するのではなく、嫁に暴行する最低野郎としか見えなくなってしまった
だからといってやめるのは
それはそれで困る
このバンドはアーマーにおんぶに抱っこの状態だ
特に作曲をアーマーにしてもらっているのに
他の作曲家に頼むことになったら
全然違う曲調になり一気に人気が落ちることだって予想できる
それにバンドの1番人気だってアーマーだ
今は表向きは体調不良でアーマーは休養中になっている
この1カ月の間でさえ、アーマーがいない現場は上手くいかないことが多くあった
アーマーは最低な暴行野郎でもblue roseとしては最高のメンバーだったんだ
プライベートは最低でも、仕事だけは評価してやりたい
アーマーは確かに俺達の支えだったし
これからも続けて欲しいと思っている
マネージャーに事務所に呼び出されて俺は向かう
「今からアーマーとルナちゃんが話し合いをするから、瑛太にも立ち会って欲しい。」
と言われる
「えぇ…どうして俺なんですか?他のメンバーは?」
「瑛太が1番アーマーを慕っていたでしょう?」
「そうですけど…だからこそ1番ショックがでかいのも俺ですよ!他のメンバーに頼んでくださいよ!」
「特に何をする必要はないわ。ただ仲間としてアーマーの思いを聞いてあげて欲しい。私は瑛太が適任だと思っている。」
「そんな大役俺に務まりませんよ。」
「話を聞くだけでいい。頼んだからな。」
「え!?マネージャーも来ないんですか!?」
「俺は忙しいから。頼んだ。」
そう言われて俺はアーマーの家へとタクシーで連れ出された
まさか1人で立ち会うなんて…
不安しかないがこれまで一緒に頑張ってきたバンドメンバーが辞めるか続けるかの瀬戸際にあり
この話し合いは今後を左右する大事なターニングポイントだ
メンバーを代表してここに来たからには俺はしっかりと見届けなければいけない
意を決して俺はアーマーの高層マンションのインターホンを鳴らすと
「はい。」
と見知らぬ声がした
「あの…伊手瑛太と申します。blue roseのメンバーの…」
「話は聞いているよ。入って。」
そう言われて俺はアーマーの部屋に入る
「お忙しい中、来てくれてありがとう。俺はルナのバンド仲間の坂本翔だ。よろしく。」
と出迎えてくれた
「伊手瑛太です。よろしくお願いします。」
俺は坂本さんに案内してもらいリビングへと向かう
リビングにはアーマーとルナちゃんがもう既にいて、
俺が最後だったようだ
「さて。揃ったから早速話し合いをするよ。」
と坂本さんが言う
「わ…私は怒ってるんだからね!あんな酷いことして反省してるの!?」
とルナちゃんが緊張感のない口調で話している
俺がルナちゃんを見たのは焦燥している姿しかないので
元気そうな天真爛漫さがある姿に少しホッとした
事件を引きずることなく元気に回復してそうだ
「もう2度とやらないと誓う。本当に悪かった。」
「そんな口だけで許すと思わないで!罰を受けて貰わないと!許さないんだからね!!」
「許してくれるなら何でもする。」
「今話題の有名店の限定10個しかないプリンを買ってきたら許してあげる。」
「必ず手に入れる。本当に悪かった。」
…は?
あんなことされて?
プリンで許すの?
え?いいの?
プリンで平和に解決しそうな話し合いに俺は混乱する
俺は助けを求めてチラッと坂本さんの顔を見ると
坂本さんは修羅の顔をして2人の話し合いを見守っていた
怒りを抑えて口出ししないように
俺達はあくまで立会人であり、2人で解決しているのであれば口出しするべきではないのだろう
色々とツッコミたいところはあるが、2人がそれでいいのなら
俺達は見守るしかない
複雑な感情を抱えながらも俺は話し合いを見守ることを優先しよう
「それと!この機会だから言わせてもらうけど…アーマー浮気してるよね?」
「は?浮気なんてしていない!俺はルナ一筋だ!」
「嘘よ!私知ってるんだから!女優の林ほのかさんとか!モデルの中山遥香さんとか!!熱愛報道されてたの見たんだからね!!」
ええええ…
あんなインチキ報道信じているのか?
写真だって無理矢理腕を組まれたところを撮られただけなのに…
「あんなの嘘の記事だ!!」
「だって…ホ…ホテル街で!!腕組んで歩いてたって!!写真も撮られてたんだから!!」
「誤解だ!そう見えるように撮られただけだ!」
「信じられない…私より好きな人が出来て飽きたなら素直に言えばいいじゃん!!」
「他の女なんか知らない!俺はルナしか見ていない!!本当だ!!」
「あの…アーマーが言っていることは本当です。あれは嘘の記事です。そう見えるように悪意ある切り抜きをして捏造しているだけです。アーマーはずっとルナさんは一筋でしたよ。」
と俺は口出しする
「本当…?口裏合わせてるなんてないわよね?」
「はい。アーマーは寄ってくる女全然鬱陶しく感じていたので避けていましたから。」
「こんなに綺麗な人でも?」
「はい。誰も相手にしてなかったですよ。」
「そうなんだ…ごめんね、アーマー疑って。」
「いいんだ。ちゃんとルナに説明しておけばよかったな。まさかそんな嘘の記事を信じているなんて思わなかった…すまない。」
「じゃあ…浮気はしてないのね?」
「していない。」
「今後も絶対ダメだからね?」
「俺は生涯ルナしか愛さない。」
「あとは…全然家に帰ってこなくて寂しかった。仕事が忙しいのはわかるけど…浮気して私のことどうでも良くなっちゃったんだと思ってたし…」
「ありえない!今後は寂しくさせないようにblue roseもやめてルナとずっと一緒にいるって約束する!」
「blue roseをやめる?」
「ああ!もう寂しくさせない!」
「はあ?意味わかんない。なんで?」
「え…」
「blue roseはアーマーにとってそんなことでやめちゃうバンドなの?」
「そんなことって…俺の1番はいつだってルナだ。」
「そんな簡単にバンドやめるアーマーなんて嫌い。」
「え…」
「私が原因でやめるとかいうなら今ここで私と別れてよね。」
「ちょっと待て!何故そうなる!?」
「当たり前でしょう!?バンドメンバーのこととかどう思ってんの!?今からもっと活躍していこうと頑張ってたから家に帰らないほど忙しく働いていたんじゃないの!?」
「俺はルナの為に…」
「バンドメンバーを大事にしなち非情な男とは付き合いきれない。」
「わかった!やめないから!別れるなんて言うな!」
「ちゃんとblue roseも大事にするって約束して。」
「誓う!誓うから!!」
「わかった。じゃあ許す。」
「ルナ!!ありがとう!!」
2人は抱き合って仲直りをしている
感動的なシーンかもしれないが
「え…?いやいやいや!おかしいって!こんなので解決したつもりなの!?」
俺は思わず口走ってしまう
「プリンだけで暴行を許すの?今後はしませんって言葉だけでいいの?絶対ダメだって!!ルナちゃん別れた方がいいってこんな暴行野郎とは!!」
「いや…でも…もうしないって…」
「理性あるやつは1回目もしないから!嫉妬とかしたらまたやるに決まってる!!許しちゃダメだよ!絶対!!」
「プリン買うから…」
「プリンで許すな!!ダメに決まってるだろうが!おかしいって!!」
「でも私達仲直りしたいし…」
「わかった!じゃあこうしよう!ルナちゃんはアーマーを殴れ!」
「えぇ…」
「あんなに酷いことされたんだ!一発思いっきりぶん殴れ!!」
「そんなことしたくないけど…」
「やるんだ!!痛かった辛さを思い出して!!さぁ!!」
「うぅ…えい!!」
ルナちゃんはアーマーのお腹をぐーで殴った
アーマーは腹筋を鍛えているのかあまり痛くなさそうだった
「もっと思い切り!!」
「えぇ…もう無理だよお。」
「ビンタにしよう!ビンタ!!」
「えぇ…顔は商売道具なんじゃ…」
「そんなことは考えるな!酷いことをされた報いを受けさせるんだ!さぁ!やれ!!」
「うう…えい!!」
ルナちゃんはアーマーの頬を思いっきりビンタした
アーマーは流石に痛かったのか頬が赤く腫れている
「もっといけ!もっと!!」
「えい!えい!えーーーい!!」
ルナちゃんは往復ビンタをアーマーにする
アーマーは頬は酷く腫れてきた
「ふん!これぐらいで許すなんて優しいと思えよ!!次にルナちゃんに暴行したら去勢してやるからな!!」
「去勢って何ですか?」
とルナちゃんが言う
こんな純粋な女の子を許さねぇ…
「いいから言うんだ!次に暴行したら去勢するって!!」
「去勢してやるんだからね!!」
何故か俺がヒートアップして話し合いに参加してしまった
ただの立会人にならなければいけなかったはずなのに
本当にこれでよかったのか
全然わからないけれど
プリンよりはマシだと思うと正当化してみる




