第9話:準備
全自動卓が重い駆動音を立て、私たちの手元にあった牌を中央の穴へと吸い込んでいく。
ジャラジャラと激しくかき混ぜられる音。
——いや、さっきと同じ配牌が繰り返されるというのなら、「あらかじめプログラムされた通りに再配列されている」と言った方が正しいのかもしれない。
思考の端で、私は先ほどの一件を反芻していた。
(それにしても……あのトキという少女は、いったい何者なの?)
あの子は敵なのだろうか、それとも味方なのだろうか。
麻雀のルールを一から教えてくれたり、あの地下施設が「狂っている」とわざわざ忠告してくれたりもした。
けれど、私をこの逃げ場のない地獄に引きずり込んだ張本人であることに変わりはない。
じゃあ、あの女の言った通り——私は最初から、トキにハメられていたというわけ……?
混乱と不信感が胸の内で渦巻く。
しかし、そんな迷いを断ち切るようにガチャリと乾いた音が響き、再び私たちの手元へ真新しい配牌がせり上がってきた。
「待って!」
私は卓に手をかけ、鋭い声を上げた。
「今回は、イカサマなんて言わせません。……先に、この卓の引き出しを改めさせてください」
さっきのような悪質な濡れ衣を着せられるのはもうごめんだ。
私の要求に、対面の女は「はぁ?」と鼻白んだ表情を浮かべたが、周囲のギャラリーから「いいぞ、調べさせてやれ」「どうせ結果は変わんねえよ」と野次が飛ぶと、面白がるように肩をすくめた。
「どうぞどうぞ、お好きにどーぞ。どうせ無駄なあがきだけどね」
私は立ち上がり、卓の側面にある隠し引き出しを力任せに引き抜いた。
案の定、中には先ほどと同じように無数の「字牌」がみっちりと詰め込まれている。
「やっぱり……!」
私はその引き出しを掴んでひっくり返し、中に入っていたおびただしい数の字牌を、床へとジャラジャラと乱暴にばら撒いた。
これで引き出しの中身は完全に空っぽになり、仕掛けの余地などどこにもなくなった。
「これでいいですよね。もう、隠し引き出しなんてありません」
「ふん……。ま、何をどうあがこうと、白が5枚出たらそれがイカサマの動かぬ証拠になるでしょうに。ご苦労なこと」
女はせせら笑いながら、手元の牌を整え始めた。
確かに女の言う通りだ。
これであの引き出しの仕込みという証拠は消し去ったけれど、「白が5枚出現する」という絶対に覆らない矛盾の事実は消えていない。
(でも……!)
私は配られた自分の手牌に視線を落とし、心の中で静かに笑った。
手元に並ぶのは、先ほどと全く同じ——『国士無双』の13面待ち聴牌。
「……見てなさいよ」
私は牙を剥くように呟き、再び勝負の卓へと身を乗り出した。




