第10話:ハク
「何企んでるか知らないけど、アガるのは不可能よ。誰かが字牌をカンして嶺上牌をツモった時点で、国士無双の条件なんて崩れるんだから」
対面の女が、せせら笑いながら私の手元を睨みつける。
「そんなこと、わかってるわよ」
私は冷たく言い返し、全自動卓からせり上がってきた最初のツモ牌に手を伸ばした。
引いたのは『5筒』。
——さっきと同じだ。
私はそれを一度手牌に滑り込ませ、不要な牌を弾き出す流れるような手つきで、河へと叩きつけた。
続く南家の女性の番。
彼女は不敵な笑みを浮かべながら、先ほどと全く同じように手牌から4枚の牌を晒して宣言した。
「——カン」
忌々しい「白」の暗槓。
しかし、違うのはここからだ。私は呼吸を整え、卓を鋭く見据えて声を張り上げた。
「——ロン」
私は、相手が伏せた白の暗槓に対して、真っ直ぐにロンを宣言した。
「なんだって……!?」
「聞こえなかったんですか? ロンって言ったのよ。その嶺上牌をツモる必要なんかないわ」
通常の麻雀ルールでは、相手が行った暗槓に対してロン(槍槓)をすることはできない。
だが、役が「国士無双」である場合に限っては、特別に暗槓に対してもアガリが認められるという例外規定が存在する。
トキから叩き込まれた地下麻雀の死角を突くルールが、今ここで完璧に牙を剥いた。
「バカね……!」
対面の女が顔色を変えて叫ぶ。
「ロンができたからって、そんなの屁理屈よ! そもそも、あなたの手牌は『国士無双13面待ち』なんでしょ? さっきみたいに白が5枚あったら、結局イカサマの証拠が消えたわけじゃないじゃない!」
女の必死な野次を、私は冷徹な視線で一蹴した。
「——国士無双」
ガシャリ、と手牌を卓の上に倒す。
そこに現れたのは、東が2枚、白が1枚も入っていない、そして残り11種類のヤオ九牌が美しく揃い踏みした、白単騎待ちの「国士無双」の形だった。
「ば、バカな……!?」
「ウソよ! 白がないなんて、そんなのあり得ない!」
「この女、どこかに白を隠し持っているはずよ! さっきの引き出し以外に、まだ仕掛けがあるんだわ!」
血相を変えた女たちが、ガタッと卓を押しやって立ち上がる。
しかし、私が直前にひっくり返した隠し引き出しは、今も完全に空っぽのまま晒されている。
仕掛けの余地などどこにもない。
「証拠がないなら、私の勝ちよね?」
「ふざけんんじゃないわよ……!」
ギャラリーの男たちまでもが騒然とし始める中、対面の女は歪んだ笑みを浮かべて私の肩を掴んだ。
「身体検査よ。……この女、絶対にまだどこかに『白』を隠し持っているはずだわ!」
女の叫びに同調するように、他の女たちも私の両腕を容赦なく掴みにかかる。
床を見れば、さっき私がばら撒いた無数の字牌が散らばっている。
もし本当に私がどこかに牌を隠し持っていて、この土壇場で落としたりでもすれば、カチャリと結構な音が響いてすぐにバレてしまうはずだ。
(そんなもの、最初からないわよ……!)
そう叫ぼうとした私の意思を無視して、彼女たちは容赦なく私の制服へと手を伸ばした。
「動くなよ、イカサマ野郎!」
「全部剥ぎ取って、その下まで丸裸にしてやる!」
おへそを露出させた安っぽいセーラー服の襟元に、冷酷な手がかけられる。
引き出しを空にしてもなお疑いを晴らさず、とうとう暴力的なまでの「身体検査」という名の屈辱が、私に強制されようとしていた。




