第11話:羞恥
紫煙が立ち込める薄暗い地下室に、男たちの下劣な笑い声と熱狂が渦巻いていた。
「イカサマだ! 絶対にその女、どこかに『白』を隠し持ってやがる!」
「身ぐるみ剥いで調べろ!」
ペラペラの薄い生地で作られた、悪趣味なほど丈の短いコスプレ用のセーラー服。
必死に押さえていた短いプリーツスカートは、すでに敵の女たちの手によって無惨にも捲り上げられ、私の下着はギャラリーの男たちの目に晒されていた。
顔から火が出るほどの羞恥と、腹の底から湧き上がる怒り。
対面の席に座る厚化粧の女は、下劣な笑みを浮かべて私を指差した。
「まだよ。その下着の中も調べなさい!」
「っ……ふざけないで! 下着の中なんて、絶対に……!」
合気道の道場で鍛え上げた私の身体も、この暴力的なまでの同調圧力の前では無力だった。
ギャラリーの男たちが身を乗り出し、ゲスな野次がピークに達しようとした、その時。
「——それなら、下着の中のチェックは私が行います」
氷のように冷たく、一切の感情を排した声が響いた。
この地下麻雀の監視役である、深紅のチャイナドレス姿のトキだ。
彼女は無表情のまま、私の前へと歩み寄ってくる。
冷たい指先が、私の下着の端にかかる。
「動かないでください」
トキは私に低く囁くと、ギャラリーの視線や敵の女たちの視界をそのしなやかな身体で巧みに遮り、誰も直接手元を覗けない絶妙な角度を作った。
衆目の死角となったその僅かな隙間で、トキの手が私の下着の布地をスッと引き下ろす。
(見つかったら……終わりだっ……!)
心臓が破裂しそうなほど跳ねた、その瞬間——。
トキの細い指先が、布地の奥に潜ませていた牌を、かすかな衣擦れの音すら立てずに素早く摘み取った。
(……えっ?)
私が息を呑む間もなく、トキは手早く下着を元通りに戻すと、ほんの一瞬だけ私の目をじっと見つめ、何食わぬ顔で皆のところへと戻って行った。
彼女の手のひらの中には、先ほどまで私の下着の隙間に隠されていた、最後の1枚の「白」が握り込まれている。
「どうだったのよ、トキ!」
敵の女たちが食い気味に詰め寄る。 トキは微動だにせず、冷淡に言い放った。
「……牌は、ありませんでした」
「そんなはずないわ! じゃあ、なんであんなに嫌がってたのよ!」
「無毛でした。よっぽど、その身体を見られるのが恥ずかしかったのでしょう」
——え……!?
あまりにも唐突すぎるトキの言葉に、私は自分の耳を疑った。
(た、確かにそうだけど……っ! それをみんなの前で言わなくたっていいじゃない……っ!?)
血の気が一気に引き、今度は誰にも知られたくなかった秘密をあっさりと暴露された羞恥で、私の顔は爆発しそうなほど真っ赤に染まる。
たまらなくなって、私は両手で顔を覆い隠した。
その場にいた敵の女たちは、予期せぬ斜め上の暴露に「……は?」と完全にフリーズしている。
「なんだよ、ただの恥ずかしがり屋かよ!」
「いや、でもそれなら余計に見たかったな……!」
どよめく喧騒の中、トキは澄ました顔のまま、冷徹な声で宣言した。
「身体検査の結果、牌は見つかりませんでした。……したがって、イカサマの証拠はありません。この勝負、ツバメさんの勝ちとします」
「待ってよ、そんなの認めないわ!」
血相を変えた対面の女が、卓に身を乗り出して叫んだ。
「絶対にあるはずよ! あいつ、さっきの局で『国士無双13面待ち』で聴牌していたはずなんだから!」
叫んだ瞬間、女はハッと顔を引きつらせた。
しかし、時すでに遅い。トキは氷のような冷笑を浮かべ、その言葉を鋭く切り捨てた。
「……証拠がないのに、相手がそんな特殊な待ち方をしていたとなぜ断言できるのですか?」
「っ……それは……」
「証拠がないのにそこまで知っているということはすなわち、あなた自身が卓の仕掛けや配牌を最初から把握していた——『あなた側のイカサマの自白』と取りますが?」
「くっ……!」
女は言葉を失い、歯ぎしりをしながら自席へと崩れ落ちた。
そうだ。私が「白のない国士無双」でロンを宣言しただけで、それが「13面待ち聴牌」だったことなど、配牌を最初から仕組んでいた人間でなければ絶対に知り得ない情報なのだ。
ざわめくフロアの真ん中で、トキは静かに私の方を振り返った。
そのガラス玉のような瞳に、わずかな光が宿る。
「それではツバメさん。約束は守ります」
トキはギャラリーを制するように一歩前に出ると、冷ややかに言い放った。
「……ご自宅まで、お送りしましょう」




