第8話:監視役
「これは何かの間違いよ! 私は今日初めてここに来たのよ、それなのにこんな仕掛けができるわけないでしょ!」
私は引き出しから零れ落ちた無数の字牌を指差し、必死に声を張り上げた。
しかし、対面の女は小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「あんたがどう言おうと、ここにこうして証拠があるんだから仕方ないでしょ」
「それなら、もう一度だけ勝負させてください! 今度は私が何も仕込んでいないことを証明します!」
「白だけに『潔白』ってか? あーあ、寒気がして笑えないんだけど」
「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!」
「うざいねぇ。まだ状況がわかんないわけ? あんた、ハメられたのよ……ほら、そこのおチビちゃんにね」
女がフッとあごをしゃくった。 その視線の先——深紅のチャイナドレスを纏った監視役であるトキへと、全員の視線が一斉に集まった。
トキは静かに、感情の読めないガラス玉のような瞳でこちらを向いた。
その冷たい表情には、罪悪感も焦りもない。ただ淡々と、冷徹な事実を告げるように彼女は言った。
「……そんなに再戦したいなら、ご自由にどうぞ」
トキの言葉に追撃するかのように、対面の女が勝ち誇った顔で続ける。
「何回やっても、配牌も結果も同じよ。まあ、アンタの言う通りイカサマの証拠なんて、この卓の隠し引き出しにしか入ってないけどねぇ!」
(くっ……!)
悔しさと怒りで奥歯が砕けそうだった。
私が何も知らずにハメられたことの黒幕、あるいは共犯がこの女——トキなのだとしても、今の私にはこの屈辱を跳ね返すための手段がこれしか残されていない。
「再戦しますか」
無機質なトキの問いかけに、私は震える拳を強く握り締め、力強く返事をした。
「……します!」




