第5話:選択肢
「……もし、負けてしまったら?」
震える声で尋ねた私に、トキは一切の感情を交えない、淡々とした声で答えた。
「その時は、GGGの奴隷となり、生涯かけて借金を返していくことになります」
「そんなの……イヤッ!」
思わず叫んでいた。
一生、あのチンピラたちの言いなりになって、光の当たらない場所で搾取され続けるなんて、絶対に嫌だ。
だが、トキのガラス玉のような瞳は、冷徹な現実だけを映し出していた。
「あなたに選択肢は多くありません。人生を棒に振って法的機関に相談するか、今すぐに慰謝料を全額払うか。……それとも、一か八かの賭けに出るか」
トキ自身も、あの慰謝料が法外な脅しであることは百も承知なのだろう。
確かに、警察や弁護士に駆け込めば、数百万円という不当な請求そのものは無効にできるかもしれない。
けれど、あの巧妙に捏造された『暴行の自白動画』がある限り、私には傷害事件の加害者というレッテルが貼られる。
学校は退学か、良くて停学。
由緒ある道場の看板を汚し、父や祖父の顔に泥を塗ることになる。
そして何より、私の生きがいである合気道の試合には、もう二度と出ることはできない。
かと言って、高校生の私にポンと払えるような金額ではなかった。
逃げ道は、最初から塞がれているのだ。
(……やるしかない)
私はギリッと奥歯を噛み締め、トキの目を真っ直ぐに見据えた。
「行きます」
「……覚悟は決まりましたか」
「はい」
私の決意を聞き届けると、トキは足元に置いてあった見慣れない紙袋を持ち上げ、こちらへと差し出した。
「なら、これを着てください」
「え……?」
促されるままに紙袋を受け取り、中身を引き出してみた私は、目を疑った。
それはセーラー服だった。
だが、当然うちの学校の制服ではない。
丈が極端に短く、着ればおへそが完全に丸見えになるトップス。
そして、膝上15センチはあるだろう、ペラペラで極端に短いプリーツスカート。
どう見ても、深夜アニメに出てくるような安っぽいコスプレ衣装だ。
「あの、これは……?」
戸惑いながら尋ねる私に、トキはほんの少しだけ眉をひそめ、冷徹な声で言った。
「……この施設は、ギャラリーの余興を兼ねています。参加者には指定の衣装を着る義務があります。不条理ですが、拒否権はありません」
嫌悪感で腕に鳥肌が立った。
借金でがんじがらめにした若い女の子にこんな服を着せ、見世物にして楽しむ大人たちがいる場所。
それが、これから私の向かう「戦場」なのだ。
トキの言っていた『狂っている』という言葉の意味が、少しだけわかった気がした。
「……着替えてきます」
布地の少ない、ひどく心許ないコスプレ衣装を握りしめ、私は道場の更衣室へと向かった。
こうして私は、常識も倫理も通用しない、地下の麻雀施設へと足を踏み入れることになったのだった。




