四回目
また同じ朝が来た。新しい朝は来なかった。希望の朝はいつやって来るのだろうか。
有利は出かける時に前回までと同じ服を着ようとしたが、
(そうだ)
思いついて、クローゼットに置いてある部屋着入りのボックスから、もう流行っていないという理由で部屋着に降格させた黒のジョガーパンツを取り出した。ペラペラの生地がダサいかもしれないが、このペラペラが涼しいながらも肌に張り付かないテクスチャーで快適なのだ。むしろ最初から部屋着にすべきだったと後悔する程の快適さだ。更に、黒の薄手のロンTも出した。冬にニットの下に着ている物だが、これもペラペラなので、残暑と言うにはまだまだ酷暑の九月始めの気候にぴったりだ。
それらを着てから、念のために浴室の縦長の鏡でチェックしてみると、そこには美少女のコスプレ未満のフツメンが映っていた。つまり、ペラペラの黒の上下を着たただのダサい人だ。
(うん、なかなかいい)
しかし、有利は満足した。何となくののファッションに通じるものがあるが、そこまで真似している感もない。全く同じにしてしまうと気持ち悪いかもしれないが、そこそこのところで踏み留まった事できもさが軽減している。というか、きもい事は頭では理解しているのだが、やってみたくなったのだ。
ただし、有利は帽子を持っていないし、カバンも私服用は黒のナイロン製リュックとでかいスポーツバッグとスーツケースしか持っていない。スニーカーは一足しかなく、全体の色は黒だが白いラインが入っている。という訳で、普通にリュックを背負い、普通にスニーカーを履いて外へ出た。
外へ出たのはいいが、前回は用意したマイボトルを忘れた事に途中で気づいた。コスプレに夢中になり過ぎだ。
(それなら、もうこれしかないな)
中途半端なコスプレイヤー有利は決心してファミコへ行き、冷凍コーナーのチョコミントフラッペを取り出してからレジに並んだ。
会計が済むと、掲示してある通りの手順でマシンを使い、フラッペを完成させた。コーヒーと共通のマシンなので上手くいくか心配だったが、出来上がった物はしっかりチョコミントフラッペになっていた。初めてにしては上出来だ。というか、初めてでも何でも、誰にでも上手にできるように設計され尽くしたマシンなのだろう。さすがはチョコミントフラッペを開発するだけの事はある。
区役所への道すがら、有利は出来立てチョコミントフラッペを堪能した。
(やっぱり出来立ては違うな。めちゃうま過ぎて泣きそう。勇気出して買ってよかった)
そのめちゃうまに感動しながら歩みを進め、区役所へ辿り着いた。
今回もそれ程待たずに戸籍謄本と印鑑証明を受け取れた。区役所を出る時にクレーマー老夫婦を見かけたが、有利にはどうする事もできない。老夫婦に対しても、職員に対しても、できる事は一つもない。起こる事を知っていても、できない事はできないのだ。
オーライで買い物をした後、有利は自宅への道を歩いた。暑い。これも知っていてもどうにもできない事だ。暑さをどうにかできる人がいるとすれば、それは人ではないはずだ。
マンションに到着するまで、とうとうののには会わなかった。これは今回の巻き戻りでは初めての事だが、有利も「ファミコの中へ入る」というこれまでとは異なる行動を取った訳なので、ののもまた同様に違う事をしたのだろう。
(残念だけど、もう三回も遭遇した上、前回は話をして、チョコミントフラッペまでご馳走になったんだ。贅沢に慣れたら駄目だ。この先、もっともっと贅沢したくなっちゃうからな)
ののにとっては「なかった事」であろう前回までの遭遇は、有利にとっては「贅沢な思い出」となった。それもまた、巻き戻りを感じる事ができる有利特有の思い出なのだ。
有利は自宅へ戻ってからは熱中症に注意しながら過ごし、二十三時半には寝た。




