十回目
とうとう十回目だ。グリーンスムージーでも巻き戻りは解決できなかったらしい。名称にあからさまに「グリーン」とか付いていても駄目だったらしい。
がっかりの有利がベッドから起き上がり、いつものようにスマホを起動すると、LiNKのメッセージの受信通知が来た。
(のの?)
それはののからのメッセージが届いている事を知らせるものだった。
「教えて欲しい事があるの」
メッセージは通知画面にも表示されていたそれのみで、送信時刻は「今日0:15」だ。
(あー、これ、本当に「今日」を一日分繰り返してるんだ)
毎回七時に目を覚ます有利は知り得なかった情報を得た。
それは収獲と言えばそうかもしれないが、ののを六時間四十五分も待たせてしまったようだ。それに気づいたので、
「おはよう
今起きた
教えて欲しい事って何?」
慌ててそれだけを返信してみると、すぐに返事があった。今時の美少女のスマホ依存が心配だ。
「おはよう
有利が一周目にやったことを送って」
意図は不明だが、画面にはそう書かれている。
不明でも何でも、それが必要な事ならと、有利は一回目の大体のタイムテーブルを送信した。結構な長文だが、一人の社会人の一日の予定をつらつらと列挙すればこうもなるだろう。
「少なくともこれで人一人分の本来の予定が手に入った
参考になる」
それがどんな参考になるのかも不明だが、素人には分からない事なのかもしれない。
朝食を終えた有利は、予定を送信したからか、自然と一回目と同じ服を着ていた。それについて、
(もしかしたら、これだと駄目なのかな?)
そんな考えが浮かんだので、
「俺はさっき送った予定通りに行動していいの?
それとも違う事をした方がいいの?」
プロに判断を仰ぐ事にした。LiNKは便利だ。今この場にはいないプロに相談する事だってできる。
しばらくしてののから返信があった。今回は即レスではなかった。スマホ依存ではないようだ。
「もしやってもらえるなら
区役所とスーパーに行った後は電車に乗って欲しい
一駅でもいい
駅前を歩いた後はそのまま帰って構わない
いい緑の飲み物があったらLiNKしてもらえたらありがたい」
それに何の意味があるのかは分からないが、
「り」
有利は了承の返事をした。
服はそのままで、有利は早速区役所へ向かった。
(一回目はここでののを見かけたんだったな)
体感だと九日前のはずなのだが、これが不思議なもので、まるで昨日の事のように感じられる。それでも、あれは「今日」で、今も「今日」なのだ。
区役所に到着すると、案内係に声をかけ、手続きした。この時間ならクレーマー老夫婦はまだいない。それとは関係なく、一回目と同じように滞りなく書類を受け取った。
メインミッションが完了すると、帰宅した有利は書類が挟んであるクリアファイルを仕事用のカバンに入れ、オーライで買った物を冷蔵庫にしまってから、新たなミッション遂行のために準備をした。浄水器の水を飲んでから、減っていたマイボトルにも水を補充だ。
マイボトルをリュックのサイドポケットに収納してから、マンションを出て駅前まで歩いた。この時間帯に有利が駅前にいる事を知っているはずのののはいない。予定は送ったが、だからと言って見張ったり、まさか、同行するなんて事はないのだろう。
有利は本当に一駅分の区間の切符を買った。
(上りと下り、どっちに乗ろう? どっちもあんまり行った事ないんだよな。普段から寄り道とか新規開拓とか冒険とかしないもんなぁ)
迷ったが、結果として、早く来た方の下りに乗った。
電車から降り、改札を抜けた有利はちょっと後悔した。
(店がない)
自宅の最寄り駅は結構栄えているが、ここは「寂れている」という程ではないにしても、飲食店はない。あるのかもしれないが、目視で確認できる範囲にはない。古びた店構えのパン屋はあるが、外から見える冷蔵庫の中の飲み物はブリックパックのみのようなので、「いい緑の飲み物を探す」という目的には適していないようだ。
しかし、コンビニならあった。おにぎりとスイーツが美味しいと評判のオーソンだ。社長の妻は「冷凍食品が結構いい」と話していたが、有利は買った事はない。
そこで、「ついでに冷凍食品も見てみっかな」くらいの気持ちで店に入り、冷凍室を眺めた。そこにはスーパーにはなかなか置いていないような一食分の、しかも珍しい料理を美味しく凍らせた物がたくさんあった。
(意外と安いんだな。まあ、作ったらいいっちゃあいいんだけど、「こういうもんが食べたい!」って思った時にそれだけ食べるとなると、一人前なら作るよりコスパいいかもってやつが結構ある。一回作ると続くからな)
そんな「一人暮らしの自炊あるある」を頭に浮かべつつ、扉を開ける事もしないまま、次は冷蔵コーナーに目を遣った。
「おー……」
思わず声に出してしまったのは緑のチルド飲料が充実していたからだ。ただ、その中には、パッケージが緑なだけで中身は緑かどうか怪しいドリンクタイプのヨーグルトも含まれている。だから、手に取ってよく観察してから、
「グリーンスムージーが二種類ある
普通に緑茶とかもあるけど」
有利はこっそりスマホで写真を撮り、それを添付してののにLiNKした。
それから、ぐるっとレジの方へ回り、傍のコーヒーマシンを見ると、そこに「宇治抹茶ラテ」と書いてある緑の飲み物の写真が貼ってあった。
(え、こんなのあったっけ?)
その瞬間、パンツのポケットのスマホが振動したので確認すると、
「そっちか
宇治抹茶ラテかと思った」
何と、オーソンの宇治抹茶ラテらしき緑の飲み物入りのカップを持った美少女の自撮り画像が送られてきた。ただし、それは美少女の自撮りにあるまじき写真だった。よくある斜め上からのキメ顔ではなく、首元のカップを中心とした煽り気味のアングルで、目と口が半開きだ。適当に撮ったのだろう。フィルターも使っていなさそうだ。それでも、美少女が美少女である事がよく分かる不思議な画像に仕上がっている。
(美少女はどこをどう切り取っても美少女にしかならないという世界の真理を表現してるのか)
そんな美少女フォトグラファーの腕前についてはさて置き、
(保存……しないからな!)
有利は強い意志をもってLiNKを終了し、スマホをポケットに戻した。
意志の強い有利はそのまま周辺を散策する事にした。ののからの指令には「駅前を歩く」とあった。「散策」まではしなくていいのかもしれないが、どうせこれから昼食まで暇だ。暑いので、マイボトルの水を飲みながらてくてく歩いた。
駅からすぐの場所に商店街を見つけた。アーケードが日差しを遮っているので薄暗い。と言うか、薄暗いのは店がほとんど閉まっているからでもある。水曜日が定休日の所もあるようだが、ほぼ空き店舗で、今開いているのは学校の体操服を扱っているような洋品店や小さな文房具店、あとは蕎麦屋くらいのものだ。ちなみに、蕎麦屋には「準備中」の札が掛かっている。
その商店街の一番端に喫茶店を見つけた。「カフェ」ではなく「喫茶店」だ。昭和レトロな店構えで、庇と看板の店名に使われているフォントが違うのに違和感があり、逆に目を引いた。その庇の方の字はところどころ剥げている。
(こういう所が逆に美味しい物を提供してくれそうって思うな。だって、このシャッター街で生き残ってる訳だし。きっと地元民に愛されてる、愛され過ぎてる名店なんだ)
有利はそう確信した。
継ぎ目の金属の錆が目立つ、少し黄ばんでいる小さめのガラスケースに並んでいるサンプルを眺めていると、コーヒーの隣のメロンソーダと目が合った。かなりの緑具合だ。こういう店ならクリームソーダもありそうな気がするが、それはこのサンプルの中にはない。
「んー……」
有利はガラスケースの位置に合わせるためにしゃがみ、手にしているスマホでメロンソーダの写真を撮った。フツメン社会人フォトグラファー渾身の作品は中心のメロンソーダにしっかりとピントが合っていて、「作品名:メロンソーダ」としか言いようのない物に仕上がった。仕上がると、
「駅前の商店街の喫茶店にメロンソーダがある」
ののにその作品を添付したメッセージを送った。
写真を送信し終えた有利が商店街のアーケードが途切れた向こう側の日差しを見つめていると、手に握ったままのスマホが振動した。
「持ち帰りできそう?」
やっぱりと言うか、ののからの返信だ。
(こんな昭和な店で持ち帰りってできるのかな? あ、そうだ。持ち帰りできるかどうかって食品衛生法とかで決まってるんじゃなかったっけ?)
そこで、それを確認するために、
「こんにちはー」
意を決して、有利は店のドアを開けた。
カランコロンという軽いような鈍いようなドアのベルの音が鳴った後、
「いらっしゃいませー」
想像通りの茶色を基調とした薄暗いオレンジ色の照明の店内の、これまた想像通りのごちゃっとしたカウンターから、やっぱり想像通りのエプロンにキツめのパーマのショートカットのおばさんが挨拶を返してくれた。奥にはおばさんとお揃いのエプロンを着けた小柄なおじさんもいる。ドアを開けた事によって空気の流れが起こったのか、中からもわっとタバコの臭いが襲ってきた。絵に描いたような昭和だ。平成生まれの有利はこの昭和に謎の安心感と安定感を覚えつつも、
「あの、メロンソーダって持ち帰りできますか?」
目的を果たすために質問してみた。すると、おばさんとおじさんだけではなく、三人いる客たちも含めて全員から「え?」の顔をされた上、
「うちはそういうのやってないね。ごめんね」
おばさんに苦笑混じりに謝罪された。
「そうですよね、ごめんなさい。今度、また来ますね」
これも想像通りではあったので、有利は自分も苦笑しながら謝罪を返した。
店外へ出るや否や、
「持ち帰りできないって言われた」
有利はののに報告した。アーケードの向こうの日差しは、薄暗いオレンジ色の照明を見た後だからか、先程よりも強くなっているような気がする。
商店街を抜けると、マンションと団地が並んでいるのが見えてきた。
ここで有利のマイボトルの水が尽きた。しかし、慌てる必要はない。住宅地ではあるのだが、すぐ傍にオーソンがあるし、一キロくらい向こうにもオーソンの水色の看板らしき物が見える。この辺りはオーソンの天下なのだろう。きっとこの住宅地の住民たちはあの思っていたよりコスパが良さげな冷凍食品を買ったりするのだろう。非常に便利な立地だ。
オーソンに入った有利は、駅前の店舗よりも若干広めの店内を見回した後、ペットボトルの水を買った。
ここからは、ブラブラしつつも自宅を目指す事にした。
(三十分も歩いたら着くな)
そんな事を考えていると、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。有利にとっては「パトカーと言えばアレ」だ。
(おっさんか? もうそんな時間か? むしろ遅い?)
音の方へ進むとあの大通りに出た。もちろん現場はここではないのだが、あの場所に繋がってはいる。つまり、ここを歩いていけば自宅へ帰れるという事だ。
大通りなので、ファミレスや回転寿司店のような大型の店舗がちらほらあるようだ。駐車場完備だが、有利は車を持っていないので関係ない。原付免許は学生時代のバイト代から捻出して取得できたが、普通自動車免許の方は手が届かなくて諦めた。たとえ免許を持っていたとしても、大都会東京は電車も地下鉄も充実しているので、わざわざ高い買い物をしなくても快適に暮らせるので不要だ。
(そういや、原付の試験中に三回巻き戻ったんだった。俺は自分には関係ないから、とにかく同じようにマークする事を心がけたな)
そんな懐かしい思い出が蘇ると、次には、
(今思えば、あんな二十分程度の巻き戻りだったら逆に対処が難しそうだな。あれもののが解決してくれたのかな? それとも、あの時点ではまだののは拉致られる前で、他の人たちが解決したのかな? どっちにしても心強過ぎる。誰かが巻き戻りを直してくれてるって思うだけで、俺はほっとする)
あの時は知らなかった人たちについて思いを馳せた。
有利はそのまま大通りを歩いた。
(駅前は落ち着いた感じなのに、ちょっと歩いたらこういう良さそうな店があるんだな)
住宅地に近いからなのか、大きなスーパーやドラッグストアもある。
試しにサウラン系列の大手スーパー、ヨシカワニッカドーへ入ってみると、オーライよりは割高ではあるが、もちろんコンビニよりは安い物ばかりだった。
(ってか、こっちで水買えば安かったな)
後悔しつつ、有利は色々見た。野菜も肉も綺麗だし、珍しい物が置いてあったりして、「ちょっとしたご褒美」にぴったりだ。
ここでも緑の飲み物を物色した。
「ニッカドーってスーパーは品揃えが豊富だよ
野菜ジュースとかいっぱいあるよ」
そこで撮った写真を添付し、メッセージを送ってみると、
「1リットルっぽい野菜ジュースは重そうだね
でも視野に入れないといけない気もする
重そうだけど」
ニッカドーを出る直前、ののから返信があった。確かに、あの細腕に740グラムのペットボトルは似合わない。ダンベルの如しだ。
ニッカドーを出てからも歩いていると、小さな会社や何を売っているのかよく分からない店があったりした。そこには緑の飲み物はないだろう。あとは自転車屋、石材店、町医者と介護施設、何故かもう一軒別の介護施設だ。そこにも絶対にないと言い切れる。
(高齢化だな。病院頑張れ。デイケア頑張れ。でも、どうしようもなくなったら石屋さんなんだ。俺なんか五回目は全部すっ飛ばして石屋さんだったんだからな。あ、そうだ、俺ってお墓どうするんだろ? 実家のには入りたくないもんな。そういう事もこれからは考えていかないとな。とりあえず、寺探すか、寺)
その不思議な並びに、有利の思考はそちらに傾いた。
オーソンの水がなくなった頃、有利は自宅に到着した。
(疲れた。休み取ったのに疲れた)
運動は苦手ではないがそこまで得意でもない、筋肉が付きにくい体質の細身の有利はぐったりした。しかし、水分はこまめに摂取していたので熱中症にはなっていないし、それに、きちんと生きている。
(緑の飲み物も「これ!」ってのがなかったし、意味あったのかな? まあ、あったのかなかったのかは明日になれば分かるんだ)
今は分からなくても、明日が来れば分かるのだ。
着ていた物を洗濯籠にぶち込み、手を洗ったパンイチの有利は、ただ区役所へ行っただけの時とは違い、汗だくになっていた。という訳で、シャワーを浴びる事にしたのだが、
「帰宅」
その前にののにLiNKで報告した。
それから、先に昼食のためのご飯を出しておこうとパンイチのまま冷凍室に手をかけたところで、
「お疲れ
協力してくれてありがとう
バイト代渡すね」
ののからの返信があり、有利がそれを読んで何かを返そうとした瞬間、LiNKクーポンが送られてきた。ファミコのチョコミントフラッペだ。美少女からのめちゃうまな贈り物だ。
「ありがとう
でも、何もしてないんだからいらないよ」
しかし、有利は遠慮した。本当に何もしていないからだ。緑の飲み物は見つからなかったし、部外者の有利がただ散策しただけなのだ。なのに、
「有利のおかげで調査がすすんだ」
ののから理解に苦しむメッセージが届いた後、
「調査がすすむのは進む?勧む?」
更に、学力が心配になるようなものまで来た。
「進むだよ
おすすめするのがお勧めするだよ
勧むって変換できなくない?」
それに地元の公立高校と専門学校を卒業した経歴のある有利が解説と回答を送ると、
「教えてくれてありがとう
お礼にチョコミントをどうぞ」
経歴が謎なののは無理矢理チョコミントフラッペを渡そうとしてきた。
(ああ、今のはわざとだったのか)
有利はその無理矢理についてそう感じた。何故なら、ののはいい子だからだ。
ほぼ水にしたシャワーを軽く浴びて汗を流した後は、チャーハンを作って食べた。食べながらスマホでニュースサイトを見たが、通り魔は発生していない。
(まだニュースになってないだけかもな。でも、まあ、現時点では起こってないんだ。あのパトカーも通り魔だったらもっと大挙してやって来るだろうし、救急車もいなかったしな)
有利は安心しつつ、めちゃうまチャーハンを平らげた。今回は滅茶苦茶お腹が空いていたので大満足だ。
大満足の有利は、その後は扇風機の前でダラダラしつつ、しっかり水を飲んだ。オーソンで買った美味しい水も、蛇口の浄水器から出てくる水も、有利にとっては熱中症対策でしかない。
夜になっても通り魔のニュースはニュースサイトにアップされていない。それを確かめた有利の頭に、
(やっぱり、ののが解決してくれたんだ。ちょっと残念かも)
と浮かんだ。
(……ん? どういう事? 別に誰が解決したっていいじゃないか。俺、何考えてんの?)
それは当の本人も戸惑う意味の分からなさだ。どうやって「勧む」と変換するのかくらいの分からなさだ。
(ののはともかくとして、ののの仲間にはきっと屈強な男たちがいて、俺よりも効果的におっさんを取り押さえられるんだ。ほっそい腕のののですらあんなに的確に落としてた。仲間の男たちはもっとしっかり落とせるはずだ。走るのだってずっと帰宅部だった俺なんかよりも速いんだ。そうなんだ)
だから、その後は意味が分かる事だけを考えようとした。
有利はそれでももにょもにょするので、更に「意味が分かる事」を並べる事にした。
(区役所に行く時間が変わろうと、クレーマーのおじいさんとおばあさんに会おうと会わなかろうと、何も変わらない)
まずはこれだ。
(おっさんに遭遇しようと、殺されようと殺されなかろうと、何も変わらない)
そしてこれだ。
(俺がどんな緑の飲み物の事を閃いても、それでは解決に至らない)
更にこれだ。
(ののを見かけても見かけなくても、会って喋っても、巻き戻りには関係ない)
しかし、そう考えた時に、
(……そうだよな?)
その事に違和感を覚えた。
その違和感について、
(そうだ、ののは「進んだ」って言ってた。俺の本来の予定を伝えた事と、今回ウロウロした事で「進んだ」んだ)
まだまだ意味と意図が不明の指令について思考が向いた。
(それなら、俺がののと出会った事自体は関係あるって事?)
そこからそう考えてはみたが、
(いや、そういう側面はあったとしても、それはただ単に「巻き戻りを認識できる人」という属性においてだけなんだ。「俺という人」である必要はないんだろう)
すぐにそれを否定してみた。しかし、何故か胸が軽くざわつき始めた。「不安」とまではいかないにしても、なかなかざわざわしている。産毛の表面をさわさわ撫でられているような気持ち悪さだ。それを払おうとして、
(うん、「進んだ」んだったら明日は来るんだ)
なるべくポジティブに捉えようとしてみた。なのに、それでも収まらない。これではいけない。眠れない。明日が来るのなら眠らないと仕事に差し支える。七時間以上寝ないとパフォーマンスが落ちる。しかも、長時間徒歩で移動した事によって体はかなり疲れているので、この状態では眠れないと絶対に体調を崩す。
有利は焦った。この気持ち悪さを解消しないと、明日を迎えた時に影響が出る。
(俺がののと会わなくても、関係ない場所にいても――)
しかし、
(「関係ない場所」?)
ここで、自分が思った事に引っ掛かってしまった。
(俺みたいな素人の部外者が何したって同じなんだから、俺がどこにいたって、そこが「関係ない場所」である事は確かだよな? 「関係ない人」がいる場所は「関係ない場所」だ)
次にはそう考えたが、しっくり来ない。
(まず、「通り魔はののかののの仲間が解決した」のはいい事で、がっかりする事じゃない。それと、俺は「関係ない人」だから、どこで何してても、それがこの巻き戻りに作用する事はない。「巻き戻りを認識できる人」ではあるから手伝いくらいはできるのかもしれないけど、だからって俺が解決する事はできない。そういうのは全部ののたちの仕事だ。そう、俺は「認識できる人」なだけだから、プロに全部任せるだけなんだ)
そこで、脳内でまとめてみたが、やっぱり腑に落ちない。
(「進んだ」、「調査が進んだ」、どういう事だ?)
まず、それがおかしいのだ。有利はこれまでは「自宅の近所」の範囲内から動かなかったが、それを敢えて「一駅分でもいいから別の場所へ行け」と言われた。「電車に乗れ」とも言われた。それがどう功を奏したのかが分からないので、それがざわざわさせるのだろうと考えた。そこで、
(俺はターゲットじゃないし、ターゲットの関係者でもないはずだよな? あ、だから何やかんやが起こってる場所から俺を離して、邪魔にならないようにしたとか? うーん、違うな)
そんな推測をしてみたが、
(「違う」?)
そこにも引っ掛かった。
でも、ののに尋ねるのはやめた。
(今この時点で明かされてない事は聞くべきじゃない。「組織」なんだから、守秘義務とかそれに類する何かがあるかもしれない。それに、明日が来たらそういうのは全部どうでも良くなるんだ。俺は明日になったらのののLiNKのIDは削除する。ブロックする。もう関わらない。これからもただ「ああ、巻き戻ってるな」って思うだけで、今回の事は「こんな事もあったな」って思い出すだけになるんだ)
そう必死に思い込んだ。そうしないと眠れないからだ。




