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第二十五話 つかの間の安息……


 その日のティータイムは、

 お茶に大福という、なんとも渋い組み合わせだった。


 シンちゃんの所でくつろぐ俺とエチカは、体のあちこちに痛みを抱えながらも、とりあえず無事に落ち着いていた。



「そうか……結構、大変じゃったようじゃの~っ」


 シンちゃんは、例によってお茶の塊を飲み込みながら、のんびりとつぶやいた。


「一言で締めくくらないで下さいよ~っ!」


「私だって……川岸で、しばらくたたずんでいたわよっ!」


「あの時、クロノアールさんとマロンパフェさんが引き止めてくれなかったら……どうなっていたことか!」


 エチカは例の猫顔で、お茶をすすった。


 ……この世への未練、スイーツだけなんじゃないのか?


「まぁ……覚醒をする為には、それなりの試練が伴うものじゃろうの~っ」



「ところで!」


 俺は姿勢を正した。


「レガスってヤツが、俺の体が特別だって言ってたんですけど……あれ、どういう意味なんでしょうか?」


 シンちゃんは、ふむ……と小さくうなずいた。


「おぬしは、“使役量しえきりょう”という言葉を知っておるか?」


「使役量……?」


「いや、聞いたこともないです」


「うむ」


 シンちゃんは湯のみを置き、静かに語り始めた。


「簡単に言えば――自分の持つ能力や気量を、どれだけ使いこなせるか……という事じゃ」


「人はそれぞれ力を持っておる。じゃが、それをどこまで扱えるかは、努力と使役量の大きさで決まる」


「どれほど強大な力を持っていても、使役量が低ければ、その力は宝の持ち腐れとなる」



「リュウ、お前は……その使役量が、生まれつき大きいのじゃ」


「お前自身の力は、まだそこまで巨大ではない。じゃから実感は無いじゃろう」


「じゃが、お前の使役量は……凄まじい」


「しかも使役量は、鍛えて増えるものではない」


「だから……お前は特別なのじゃ」


 俺は思わず言葉を失った。


 シンちゃんはさらに続ける。


「ネック・ロスト……特に霊体の上位種が、物理的な体で本来の能力を発揮するには――強い使役量を持つ肉体が必要となる」


「それが、お前が狙われておる理由のひとつじゃ」


「ひとつ……?」


「他にも理由があるんですか?」


「それは……まだ、わしにもわからん」


 シンちゃんは珍しく真面目な顔になった。


「そもそも霊体で活動する連中が、なぜそこまで肉体に執着するのか……そこが腑に落ちぬのじゃ」


「普通なら、肉体に入るという事は能力を落とす事にもなる」


「自分で体を持つより、肉体を持った部下を使う方が安全で楽じゃからのう」


「たとえお前の体を手に入れても、霊体のままの方が自由に動けるはずじゃ」


「……そこには、まだ別の理由がある気がしてならん」



「そんなの、どうでもいいわ!」


 エチカが即座に言い切った。


「体を狙われてるなら、やられないようにするだけじゃない!」


「乗っ取られたら、その時点で終わりよ!」


「それ以上の理由なんて、考えるだけ無駄!」


「リュウの体を取られてたまるもんですか!!!」


 そう言って、手に持っていた大福を一口で頬張った。


 ……説得力あるような、ないような。



 そこへ、深代さんがやって来た。


「真様……遅くなりました」


「あっ、今日はエチカさんも来られているのですね」


「エチカさんも修行ですか?」


「いえっ! 私は修行とか似合わない女の子ですから」


 ……たしかに。ずぼらだし。


「深代っ!」


 シンちゃんが声を張った。


「リュウは、もう覚醒しておるぞ!」


「あっ……そうですか……」


「ええ~~~~っ!!!」


 深代さんが、珍しく本気で動揺した。


「昨日の今日じゃないですか!!!」


 はい。昨日の今日です。



「まぁ、そういう訳じゃから……修行は一旦終了、という事じゃのう~っ」


 深代さんはまだ信じられない顔で俺を見ていた。


「いったい……どうやって覚醒したのですか?」


 俺は遠い目になった。


「いえ……ちょっと死にかけただけです……」


 ううっ……涙。



 ――そんなこんなで、その日はお開きとなった。


 結局、修行どころか――

 お茶と大福をごちそうになっただけだった。




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