第二十一話 高まりゆく悪意……
だいぶランクが上がってきたな~って……俺っ!
……グールには負けたんだっけ!
まっ、いいかっ!
後ろにはエチカ大明神もいる事だしっ!
やれるとこまで、やるさっ!
「俺は……遠間 隆っ! では……参る!」
⸻
――ガッキィィン!!
刀と刀がぶつかり合う。
だが、さすがはクサナギだ。
見事に押し勝った!
どうやらグールの時と同じように、マスターの剣は物理と気の両方の特性を持つらしい。
押し負けたザードの刀へ、続けて三度、鋭く斬りつける。
――ガキィン!!
ザードの刀は折れ飛んだ!
「やりぃ!」
そのまま体を袈裟斬りに切り伏せる。
だが、やはり生首が飛んできた。
この生首は強かった。
縦横無尽に飛び回りながら雷撃。
危なくなればバリアーまで張ってくる。
しばらくして、ようやく片付けた頃には、俺は肩で息をしていた。
その後、例の気の塊が飛んでいく。
しかもランクが上がるほど、だんだん大きくなっている。
……あれが何を意味するのか、俺には謎でしかなかった。
それにしても、このザード。
俺が勝ったから言う訳じゃないが、グールより明らかに弱かった。
同じランクとは思えないほどに。
なぜなんだろう……?
まあ、なんにしろ、ネック・ロストにはまだまだ謎が多い。
⸻
「次のマスターは、いないのか?!」
俺が闇に向かって叫ぶと――
「では……私が、お相手しよう」
また別の存在が現れた。
マスターとは明らかに違う気の大きさ。
「えっ……あんたのランクは?」
「私は……誇りある、アンダーズ・ナイツ」
「名を、セルゲイツと申します」
「ちなみに、マスターの上位種。肉体を持つネック・ロストの中では最上位種となります」
「では……お相手致しましょう!」
こいつは大物だ。
果たして勝てるのか……?
しかし……覚悟を決め、構えたその時だった。
⸻
辺り一面が金色の気に包まれる。
ってことは――
「リュウちゃん、お待たせ〜っ♪」
「この人とは、私がやろうかな~っ?」
金色の気をまとったエチカが、微笑んでいた。
え~~っ!
エチカさんっ!
それはちょっとズルイんじゃ~!
「リュウちゃんは、休憩ねっ!」
拒めば蹴りが飛んできそうな状況だ。
「しゃ~~~~ね~~~~なっ!」
俺はしぶしぶ舞台を降りた。
ハイエナに獲物を取られる、チーターの気持ちが少し分かった気がした。
⸻
「わたくし、須比野 恵千香ですっ!」
「お相手致します。宜しく」
にこっと微笑み、足をクロスさせ、スカートの裾をちろっと上げる。
ああ~~~~っ!
また、ぶりっ子してる!
俺は苦笑した。
「女子をいたぶるのは少し気が引けますが……そのぶん、楽に殺してあげましょう」
「それでご勘弁を」
エチカは黒い笑みを浮かべた。
「あっ、気にしないで」
「いたぶられる心配はしてないから」
「でも私は手抜きはしない主義だから……あなた、ちょっとひどい目にあうかもっ!」
ミツルギを一振りすると、紫の光が乱舞した。
セルゲイツは必死の形相でそれを避ける。
そして怒号を上げた。
「調子に乗るな! 小娘!」
「後悔させてやる! アーマード!」
⸻
その瞬間、体は黒く輝く鎧に覆われ、手には赤黒い剣が握られていた。
「私を怒らせたからには、簡単に死ねるとは思うなよ……小娘!」
「だから、死ねるとは思ってないって!」
「鎧持ってるなら、最初から着てればいいのにっ!」
「だから危ない目にあったでしょ?」
エチカは人差し指を立てた。
なるほど……この階級は、防具まで錬成できるって訳か。
セルゲイツは鬼の形相だった。
何度も剣を振り下ろす。
だがエチカはそれを余裕でかわしていく。
「そんな重たそうな鎧着てると、体が思うように動かないんじゃ~ないのっ?」
そのまま両肩の大きな角を切り落とした。
「おっ?! ちょっと良くなったかもっ?」
さらに次々と鎧を切り刻んでいく。
気づけば、鎧は無惨な姿になっていた。
「これで大分軽くなったでしょ?」
「しかも芸術的価値もアップ! まさに一石二鳥ね!」
「キャハハハハハハッ!」
……エチカ、性格悪すぎっ!
だが性格はさておき、動きは以前より数段上がっていた。
もはや超人的。
残像さえ見えそうな速さだ。
セルゲイツは押されている。
だが、それは弱いからではない。
俺が相手をしてたなら、八割は負けていたはずだ。
それほど今のエチカは強かった。
⸻
「くっ……くそぅ!」
「なんで俺が……こんな事に……!」
「俺はセルゲイツだぞっ!」
「栄光のアンダーズ・ナイツ! 肉体を持つ者の頂点なのだっ!」
「その私が……なぜ、こんな小娘ごときに!」
「なぜだっ!!!」
その問いに答えを出したのは、エチカだった。
「そんなの、決まってるじゃない!」
「あんたが、私より弱いからよっ!」
――ガシャァァン!!
セルゲイツの剣が地面へ落ちた。
拾おうとした剣を、エチカが足で踏みつける。
そして見下ろした。
⸻
その時だった。
どこからともなく、静かで重い声が響く。
――どうした、セルゲイツ。そろそろ儂と代わるか?
その声に、セルゲイツはビクッと震えた。
「うわああああっ!!!」
セルゲイツは、エチカを跳ね除け立ち上がった。
「まだっ! 私は負けておりません!!!」
「まだ戦えます!!!」
「私の力はこんなものではございません!!!」
「私は……まだっ!!!」
エチカは黙って見ていた。
――勘違いするな、セルゲイツ。お前の強さを、私はよく知っておる。
――ただ、その娘がお前より強かった……それだけだ。
――もう無理をせずともよい。違う形で、我の役に立つ道もある。
――案ずるな、セルゲイツ。お前は実によく戦った。
⸻
その言葉と共に、声の主がゆっくりと実体化する。
やや小柄。
だが、ただ立っているだけで空気が変わる。
セルゲイツは、その前にひざまずいた。
「レガス様……私は……」
「よいよい」
「お前は、ゆっくりと休め……私の中で」
その言葉を聞いた瞬間、セルゲイツは目を見開き、体を硬直させた。
次の瞬間――
見えなかった。
太刀筋すら見えない一閃。
セルゲイツの体は、頭頂から真っ二つに裂けていた。
……。
その光景の残忍さに、俺とエチカはしばし言葉を失った。




