第二十話 果てしなき悪意……
穴の中は、この前のように砂漠のような場所だった。
少し先に、黒服の集団がいる。
その集団は、一人の少年を残し、それぞれ思い思いの方角へ消えていった。
エチカは少年に駆け寄った。
「リュウ! 大丈夫?!」
「あっ、エチカ……平気、平気!」
「それより、エチカが来るまでに、色々とヤツらの情報を仕入れたよ……」
「ヤツら悪人なんだろうけど、秘密主義じゃないみたいだね!」
「ダメもとで聞いたら、知ってることはみんな答えてくれたよ!」
「どうせ生きて帰れないだろうから……だって♪」
「あっ! 喜ぶところじゃないかっ!」
その間にも、エチカはブレードの錬成を始めていた。
「リュウ、確認するけど……こいつら全部、人じゃないのよね?」
「んっ! とりあえず今囲んでいるヤツらは、ネック・ロストの最下級で、“ファイター”という階級らしい!」
「気に入った人体の首から下を手に入れて、次々に取り替えながら長い年月を生きているヤツらみたいなんだ!」
「本体は頭部だけで、体を破壊されても頭だけでしばらく活動できるらしい!」
「とりあえずは、そんなとこかな!」
「あんたは解説者かっ!」
その頃には錬成も終わっていた。
「リュウ……これ、貸しとくわ!」
「こいつらは物理的な肉体を持ってるなら、あなたの気のブレードはあまり役に立たないでしょっ!」
エチカが差し出した剣を見て、俺は目を見開いた。
「えっ! これって、イスルギじゃないか~っ!」
かなり上位のブレードだっ!
「エチカ、いいのっ?! えらく太っ腹だねっ!」
「そんだけ働いてよね~っ!」
「ヤツら、うじゃうじゃいるみたいだから……」
「奥には、もっと強そうなのがいるみたいね~っ!」
「うん……序列がはっきりしてるみたいだ。強いのは後からって事だね!」
話している間に、エチカも自分の分を錬成した。
「頼むわよっ! ミツルギ!」
紫色の浄化の光を放つ剣だった。
「ようしっ! 準備OK!」
俺達は背中を合わせ、敵が来るのを待った。
すでに周囲は囲まれている。
全員が無表情だ。
どこからともなく声が響いた。
「かかれっ!」
その合図と同時に、一斉に飛びかかってきた。
⸻
「悪いけど……数が多すぎる!」
俺は気のバリアーを張った。
壁に阻まれた敵たちを、内側からブレードの光刃で次々と切り伏せる。
「まったく……たった二人相手に、とんでもない数ね~っ!」
「ちょっとは加減ってものを、考えなさいよ~っ!」
エチカがぶつぶつ言っている。
だが以前と違い、今のエチカの気の量は桁違いだった。
この状態でも、かなり長く戦えそうだ。
……その前に、シンちゃんに感謝だな。
戦いながら、俺は敵を観察した。
ファイターは基本的には人間と変わらない。
だが肉体の力は、一人一人がプロレスラー以上だ。
素手で相手をしたら、軽くやられるだろう。
さらに肉体を失っても終わりではない。
本体である頭部が飛び回り、霊的な力で攻撃してくる。
最後には魂のような気の塊となって、どこかへ飛び去っていく。
……あれは何なんだ?
そんな事を考えているうちに、かなり数が減っていた。
⸻
「リュウ! 最初のヤツらより強いのがいるわ!」
「こいつらは単純にはやられてくれないみたいね!」
「そうだね! でも数は少ない。バリアーなしでもいけそうだ!」
最後の群れを片付け、俺はバリアーを解いた。
「エチカ! いくよっ!」
「了解っ! 気合い入れてねっ!」
「さあ~っ! どこからでもどうぞっ!」
すると、先の闇から声がした。
「ふっ……生意気な」
「我らをファイターの木偶の坊と一緒にするな」
「あんたらの階級は、なんなんだ……?」
「我らは選ばれた者……ネック・ロスト・ソルジャーだっ!」
「へぇ~っ! そいつは、マスターってのとどっちが上?」
「お前達が、マスター様達を気にかける必要はない!」
その時、エチカが笑いをこらえながら言った。
「えっ! マスターって、この前私が片付けたヤツの事じゃないの?!」
「何を、たわけたことを!」
怒号と共に、ソルジャー達が斬りかかってきた。
⸻
俺は軽くかわし、そのままブレードごと一刀両断にする。
どうやら敵の剣も、気で出来た武器らしい。
物理の剣には耐えられない。
エチカも一人斬り伏せたが、顔をしかめた。
「リュウ……やっぱり肉体を切るのっていやだっ!」
「血も飛ぶし……感触が……」
やっぱりエチカは女子だな。
「そうだね……でも、やられる訳にもいかないから!」
その時、さっき倒した敵の頭部が襲いかかってきた。
ファイターの頭部より強かったが、こちらは霊体。
肉体よりはやりやすい。
だが、また最後に気がどこかへ飛んでいく。
やはり、あれは気になる。
⸻
「リュウ……悪いけど、私しばらくパスだから……」
そう言って、エチカは近くの岩に腰掛けた。
「ええ~っ! まさかの休憩!」
「何よっ! レディーに殺戮をやらせるつもりっ?!」
「もう~っ! こんなにいるのにっ!」
仕方がない。
俺は一人ずつではなく、一気にやることにした。
回転しながらブレードの力を解放する。
「おりゃ~~~~っ!」
周囲で悲鳴が上がった。
「ギャ~~~~ッ!」
「グオ~~~~ッ!」
「ドワ~~~~ッ!」
だが――
……んっ?
なんかイスルギ、疲れてきてないか?
「エチカっ!」
「何~っ! 私は殺戮しないわよっ!」
「いやっ! イスルギが限界みたいなんだけど!」
「切れ味、落ちてきてるし!」
「え~っ! 折れるまで使いなさいよ~っ!」
「折れた時点で危ないんだけど!」
「エチカのヤツ、貸してくんない?」
「やよ! これ、お気に入りなんだからっ!」
「じゃあ同じのをもう一本出して!」
「ブレードは、一本ずつしか錬成できないのっ!」
「わかったわよっ! 取って置きがあるから、ちょっと待ってなさいっ!」
「しゃ~~~~~~っス!!!」
俺がもうひと踏ん張りしていると――
「お待たせ~っ! 出来たわよ~っ!」
まるでご飯を呼ぶような声だった。
「はいっ! これ! “クサナギ”くん、だよっ!」
オレンジの光に包まれた新たな剣だった。
「エチカっ! これ、いいじゃん!」
手にしっくりくる。
「サンキューなっ!」
俺は再び敵陣へ飛び込んだ。
⸻
その時だった。
奥の闇から、これまでとは違う声が響く。
「お前達は、もうよい……下がれ」
闇の中から、別格の気配をまとった存在が現れる。
「次は……私がお相手しよう」
「私は――ネック・ロスト・マスター、“ザード”」




