第十九話 歩き出した悪意
終了のチャイムが鳴った。
本日も学業は無事終了。
「さてと……今日も修行にいそしむかっ!」
俺は必要なものをバッグに詰め込み始めた。
「リュウ! 今日も用事あんのか?」
俺の心の友、安内 宝が話しかけてきた。
「ああ~~っ! 悪い……しばらくの間、野暮用がある。付き合えなくて悪いな!」
……本当に悪いと思ってるんだか。
「そうか?! 新しいDVDを借りようと思ってるんだが……」
「付き合いは、誰か他をあたるか?!」
「悪いな……!」
「しかし俺はいいが……あそこに、俺よりしつこそうなのが、もう一匹いるぞっ!」
見ると、教室の出入り口の影に見覚えのあるシルエットがいた。
「あっ……あ~~あっ!」
俺は帰る準備を済ませ、教室を出る。
そして、その人物に声をかけた。
「エチカ! お待たせ!」
エチカは少し口をとがらせて振り向いた。
「べっ……別に、あんたを待っちゃいないわよ!」
「わたしは……ここから見る景色が好きなだけ!」
ふんっ! と、いつものように鼻を鳴らす。
「そうっ! じゃ~俺はシンちゃんの所へ行くけど……エチカはここに居る?」
「居るわけ無いでしょ!!!」
「いや……つまり、景色は十分に堪能したという事よっ!」
ふむっ。
「じゃ~っ! 一緒に行く?」
「まぁ~っ! どうしてもって言うならねっ!」
エチカは満足げに微笑んだ。
あ〜っ!
いつもながら面倒くさい方だ!
とりあえず、二人で歩き始めた。
⸻
「でっ……あんたも、気の塊をもらったんだって?」
「うんっ! まぁ〜色々あってね!」
「ふ~ん……まぁ、もらっといた方がいいわよね~っ!」
「わたしも、おかげで助かったんだし……」
「なんやかんや言っても、結構役に立ってるわよね~っ! あの猫!」
あのね~っ!
あの人(?)は、かなり偉い人なんだぞ~っ!
やや性格に難はあってもっ!
「でっ! エチカは、その後なんか変化はあったの?」
「変化? と言うほどのことはないけど……でも、スーパーエチカが発動したあと、気の大きさが格段にアップしたわね~っ!」
「だから、その力を利用して……今までより技のレベルが比較にならない程、上がったわ!」
「そのうち見せてあげる」
「この分だと、魔王になるのも夢じゃないわね!」
エチカが言うと、本当に怖い。
冗談には聞こえない!
「ははははははっ!」
何も返す言葉がなくて、とりあえず笑ってみた。
……と、その時だった。
突然、エチカの携帯が鳴った。
慌てて携帯を取り出すと――
「あっ! 〝みっちょん〟からメールだっ」
〝みっちょん〟とは、エチカの友達らしい。
しばらくメールに目を通したエチカは、俺を見た。
「リュウ! 近くの公園で用事があるから、来て欲しいって!」
「へ~っ! じゃあ俺は先に、シンちゃんとこへ行っとくから!」
「それがっ! リュウも一緒に来て欲しいって!」
「ええ~っ! 俺も?」
「うんっ! あなたの教室に行く前に、ばったり〝みっちょん〝と会ったの」
「で、どこに行くのか聞かれたから、リュウの所って言ったんだけど」
「考えてみたら、みっちょん、リュウに会ったことは無いはずなのよね~っ?」
「そういえば今日、なんか元気もなかったし、悩みかなっ?」
「まぁ、俺って! 結構、学校では有名なヤツだからな~っ!」
「俺のファンなのかもねっ!」
「へぇ~っ! リュウが有名とは初耳ねっ!」
なぜかエチカにホッペタをつねられた。
えっ、なんでっ?!
「まぁいいわっ!」
「ちょっと付き合ってくれる?」
「しゃ~ねぇ~なっ!」
またホッペタをつねられた。
えっ、なんでっ?!
⸻
しばらくエチカの後をついて歩く。
どうやら、この先に見えるのが待ち合わせ場所らしい。
「リュウ! この公園だよっ!」
「へぇ~っ!」
「あっ……みっちょんだっ!」
エチカが指差した。
見ると、ベンチに女の子が座っている。
なんか……うつむいて座ってるな~っ。
悩みってヤツ?
エチカが手を振りながら近づいた。
「みっちょん!」
エチカが声をかけると、みっちょんはゆっくりと顔を上げた。
その顔――
「エチカ! これって!」
「うんっ?! ……憑依されてる……ねっ!」
またこんな展開かいっ!
見ると、全身黒服の男が数人、近づいてきた。
真昼間の公園で、全身黒づくめって……なんか意味あるのだろうか?
そんな事を考えていると、そのうちの一人が話しかけてきた。
「失礼。遠間さんと須比野さん……我々と一緒に来てもらえますか」
エチカが即答した。
「一応聞くけど……なんで!」
「一応言いますが、彼女を解放してほしければ……です」
俺がつぶやく。
「やっぱりね!」
「まぁ、いいけど! みっちょんの身の安全は!」
「どちらかが、先に来てもらえれば、この少女は解放します」
「それでどうでしょう?」
「わかりましたっ! じゃ~っ! 俺が先に!」
「リュウ!」
「後から、エチカも来てくれるんだろ?!」
「んっ! たぶん!」
エチカは真剣な顔だった。
「ええ~っ! たぶん?!」
「わかってるっ! まぁ、ちゃんと行くから!」
「ええ~っ! まぁっ?!」
俺は黒服に促され、この先に開いている空間――黒い穴へ向かって歩いていった。
⸻
その時、公園のベンチでみっちょんが目を開けた。
「……んっ! ……あれっ?! ここはっ?!」
「みっちょん!」
「あっ! エチカじゃん! あたし、なんでこんなとこいるのかな~っ!」
「授業受けてたはずだけど……また寝ちまったのかな~っ!」
「でも、なんでこんなとこいるんだろう?!」
「んっ! あれじゃない? 春眠、あかつか・ふじお?ってヤツ!」
「なんか春って眠たいんだよっ! きっと!」
エチカが少々わけのわからない説明をした。
「ん~んっ! そうだね」
「とりあえず、なんか調子悪いみたいだね?」
「家へ帰るか!」
「エチカ! なんか……ごめんな!」
「先に帰るわ!」
みっちょんは釈然としない様子で手を振った。
「気を付けて帰りなよ、みっちょん! 買い食いすんなよ!」
「ば~かっ!」
公園を出る前に、また手を振って去っていった。
……そして。
「もう、いいですか?」
どこからともなく現れた黒服の男が声をかけてきた。
「どうでもいいけど! あんまり気軽に声をかけないで……ザコ、その1」
「催促されなくたって行くわよっ!」
「言っとくけど、あんたたち……自分達が一番やってはいけない事をやったのに、気づいてないでしょっ?!」
「リュウを人質にとるとか! ありえない!」
「楽な消え方は出来ないと、覚悟する事ね!」
エチカは、すごんだ微笑みを投げかけた。
どうやら彼らには、後悔という感情は無いらしい。
エチカは黒服に続き、黒い穴へ入って行った。




