第十八話 疑惑の摩天楼
とある高層ビル――その最上階に、KR・ソールコーポレーション本社はあった。
街並みを一望する摩天楼。
その中心にある社長室は、成功者の城そのものだった。
だが、自社工場はそこから遠く離れた山間部に存在する。
最先端技術を扱う企業にしては、不便すぎる立地。
表向きには、環境への配慮と説明されている。
だが――本当に、それだけなのか。
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社長室にインターホンが鳴った。
「何かしら?」
「斗蘭です。社長、少々よろしいでしょうか?」
「専務? ええ、いいわよ」
ロックが解除され、斗蘭 豊臣が室内へ入ってくる。
社長――来栖 留呂亜は、その姿を見ると微笑んだ。
「あなたがドアから入ってくるなんて珍しいわね……グール」
「はっ。たまには、この環境に合わせた行動も必要かと」
男は丁寧に一礼した。
その男の正体こそ、あのグールだった。
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「そう……それで? 何かしら?」
「はい……ご報告がございます」
「農場からの原料調達が、順調に進んでおりまして……」
「現在、三千台分の《ソール・リサイクラー》用注入剤の生産が可能となりました」
留呂亜の目が細くなる。
「そう……予定より早いわね」
「初期生産は今月中にも実施可能かと」
「素晴らしいわ。ラスト・ルート様も、きっとお喜びになるでしょうね」
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満足げな表情。
だが次の瞬間、その顔から感情が消えた。
「ところで……あなた、しばらく現場を離れられる?」
「はっ。ここまで来れば、後は無能な者どもでも問題ないかと」
「何か御用がおありで?」
「ええ。少し……気になることがあるの」
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二人は声を落とし、しばし密談を交わした。
やがてグールが深く頭を下げる。
「承知致しました。すぐに向かいましょう」
「悪いわね。出張扱いにしておくから、社内手続きはこちらで済ませておくわ」
「お心遣い、感謝致します」
その言葉を最後に、グールの姿はふっと消えた。
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「……悪いわね、グール」
留呂亜は一人、窓の外を見つめる。
「でも、この件は少し様子を見る必要があるわ……」
「場合によっては、ラスト・ルート様へ直接ご報告しないと……」
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その時、彼女の脳裏に先日の出来事が蘇った。
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午後。
誰もいないはずの社長室に、突然“気配”が現れた。
空気が軋み、温度が下がる。
そして、低い声が響いた。
『ソルロアは、おるか!』
留呂亜は即座に立ち上がる。
「これは……レガス様。突然、いかがなさいましたか」
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『儂のもとへ、ラスト・ルートより何の連絡もない』
『先日、おぬしに命じたはずだな?』
『あの不愉快なネズミの件、釈明するよう伝えよと……』
「はい。ラスト・ルート様にも、ご報告致しております」
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『その後、何の返答もない』
『これはどういうことかわかるな?』
「……はっ」
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闇の中で、笑い声が漏れた。
『ふふふ……ラスト・ルートへの義理は果たしたのだ』
『後は、我が思うままに動くのみ』
『我らに、連携など無い』
『各々が欲望のままに考え、行動する存在……それが我らだっ!』
『それが結果として、この世界の総意と重なり……世を影から支配しておる』
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『もはや、聞く耳は持たぬぞっ!』
『儂は儂の欲望に従う……』
『そう……お主が、ラスト・ルートへ伝えよ!』
『しかと、申し伝えたぞ……クックック……』
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その瞬間、気配は完全に消えた。
残されたのは、重苦しい沈黙だけだった。
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現在。
誰もいない社長室で、留呂亜は小さく呟く。
「……承知致しました……レガス様?」
その横顔には、わずかな微笑みが浮かんでいた。
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摩天楼の窓の外では、無数の灯りが街を照らしている。
だがその光の下で、確かに闇は動き始めていた。




