表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/27

第十六話 修行開始は突然に!


 次の日の放課後――。


 俺はいつもより早く家へ帰ってきていた。


「シンちゃん……今日から修行するって言ってたけど、どうするんだろうな……」


 部屋でひとり、時計を見上げる。


 待つしかないのだろうか。


 落ち着かず、なんとなく携帯を開いた。


 ニュース欄には事故、事件、殺人――相変わらず暗い話題ばかりが並んでいる。


「なんか……嫌なニュースばっかりだな」


 そう呟きながら画面を流していると、一つの記事で指が止まった。


 ――KR・ソール・コーポレーション、新型リラクニング・マシーン《ソール・リサイクラー》、臨床試験をクリア。実用化へ向け最終段階へ。


「KR・ソール・コーポレーション……?」


 聞いたことのない会社名だった。


 だが妙に引っかかる。


 ソール・リサイクラー。


 魂でも再利用しそうな、不思議な名前だ。


「……まあ、俺には関係ないか」


 そう思って時計を見ると、もう五時になっていた。


「うわっ、待ってるだけで時間が過ぎた……」


 その時。


 窓の外から、カサカサと何かを引っかく音がした。


「なんだ?」


 ガラッと窓を開ける。


 そこにはシンちゃんがいた。


 大きく伸びをし、そのまま欠伸をしている。



「遅いですよ! 初日から遅刻じゃないですか?」


「いや~~、すまんの。昨夜は徹夜でな」


「えっ……まさかミーちゃんと……?」


 俺が聞くと、シンちゃんは胸を張った。


「それ以上は詮索するでない。なんせ、成猫同士の付き合いじゃからな」


「付き合いって……封印されてるんじゃないんですか?」


「細かいことは、いちいち気にするでない!」


「いや、そこは気になるところですけど!?」


「フライ・ゲートというやつじゃ」


「それなら、プライベートでしょ!」



「まあよい。修行場へ行くぞ」


 シンちゃんは、どこからともなく古びた縄の輪を取り出した。


「これを使え!」


「あんまり目立つと面倒じゃからの!」


「押し入れの壁にでも貼ったらいいじゃろう!」


「え? 貼るって……テープとかでいいんですか?」


「なんでもよい! しかし、なるべく丸くするのじゃぞ!」


「真円に近い方が、反応しやすいのじゃ!」


 言われた通り、押し入れの壁へ貼りつける。


「こんな感じで?」


「うむ!」


 シンちゃんが〝ふっ〟と気を放つと、縄の中心がゆらぎ、ぽっかりと穴が開いた。


「うわっ!?」


「通り道じゃ」


「すげぇ……便利!」


「でも……穴が開いたままだったら、ちょっと困るかも?」


「心配するな。穴はしばらくしたら塞がる。開いたままにしとる方が大変じゃ」


「ほれっ!」


 シンちゃんが、またどこからか何かを取り出して放り投げた。


 なんだこれ……お守り?


「そのお守りをかざせば、次からはお前だけでも開く……失くすでないぞ!」


 渡されたお守りを握りしめ、俺は深呼吸した。


「じゃ……行くか」


 シンちゃんが飛び込み、俺も続けて穴の中へ入った。



 俺たちは、しばらく薄暗い中を歩いた。


 そして、シンちゃんの封印場所である例のお屋敷へ辿り着いた。


 空気が澄み、不思議と心が落ち着く場所。


 出口には深代さんが立っていた。


「やあ、遠間さん。お久しぶりですね」


「深代さん!」


「その後、お体は大丈夫ですか?」


「はい、なんとか」


「私はまだアザが残っておりますよ」


 笑顔でそんなことを言う。


 この人、やっぱり只者じゃない。



「深代、茶を頼む」


「あっ、はいはい……」


 深代さんは慣れた手つきでお茶の準備を始めた。


「えっ、深代さんがやるんですか?」


「はいっ……ここでの雑用も、私の大事な役目なんですよ」


「真様は重要機密ですから。滅多な人間を近づけるわけにはいきません」


「じゃあ俺は?」


「……例外ですね」


「雑っ!」


 シンちゃんは空中を漂うお茶を飲みながら満足そうにしていた。



「さて」


 シンちゃんの目が、すっと俺を見る。


「そろそろ始めるかの」


「はい!」


「まずはこれじゃ」


 差し出されたのは、一枚の紙だった。


「テスト?」


「修行前の確認じゃ。おぬしの頭の中を見る」


「制限時間、一時間!」


「ええっ!?」


 しょうがないので、とりあえずやることにした。



 まずは、第一問。


 ――死とは何か。


「重っ!」


 第二問。


 ――生きるとは何か。


「もっと重っ!」


 第三問。


 ――窮地とは何か。


 第四問。


 ――勝利とは何か。


「修行なんだから……普通は筋トレとかじゃないの!?」



 悩んだ末、俺はこう書いた。


【死=生命活動の停止】

【生=生命活動している状態】

【窮地=困難】

【勝利=勝つこと】


「先生! できました!」


 シンちゃんは、こたつの上でコクコクやってるところだった。


「ふぁ〜っ! 何……もう書いたのか?」


「ちと、早すぎんか?」


 どれどれ……と答案を見たシンちゃんは、しばらく黙った。


「……おぬし、国語辞典か?」


「ええっ!?」


「まあ、最初から期待してはおらんがの」


「ひどい!」



「さてと……では、講義を始めるかの」


 その声と同時に、部屋の空気が変わった。


 俺は自然と背筋を伸ばしていた。



「この四つの問いは、人が生きるうえで避けられぬ問いじゃ」


「だが多くの者は、自分で答えを出したつもりで……誰かに与えられた答えを生きておる」


「与えられた答え……?」


「そうじゃ。恐れ、欲望、競争、支配……そうした考えが世には溢れておる」


「それをただ信じるだけでは、心が曇る……よいか?」



「まず死じゃ」


「死ねば終わり。そう考える者は多い」


「だから生きている間に好き勝手してもいいと思う者も出る」


「だが、その考えが世を乱しておるのも事実じゃ」


「確認できぬ死後より、そこで生まれる影響を見るのじゃ」



「次に生」


「生とは、ただ肉体が動いておることではない」


「意志があること。願いがあること。誰かを想えること……」


「魂が在ること……それもまた、生じゃ」



「窮地とは何か……」


「人がもっとも変われる場所じゃ」


「苦しみ、迷い、逃げたくなる時……そこには必ず問いがある」


「問いがあるなら、答えもまたある」


「だから諦めないことが大事じゃ」



「最後に勝利」


 シンちゃんの目が、まっすぐ俺を射抜く。


「本当の勝利とは、相手に勝つことではない」


「自分の弱さに負けぬことじゃ」


「怖い心。逃げたい心。諦めたい心」


「それらを抱えたまま、それでも前へ進める者こそ強い」



 難しい話だった。


 全部理解できたとは言えない。


 でも、いくつかの言葉が胸に刺さっていた。


「……俺、グールに負けて悔しかったです」


「うむ」


「でも、あいつより強くなりたいってだけじゃ足りない気がする」


「うむ」


「俺……自分に負けたくないです」


 シンちゃんは、ふっと笑った。


「まあ……とりあえずは、それで十分じゃろ」



「今日の修行はここまでじゃ」


「えっ!? 実技は!?」


「頭が混乱しとる状態で何を鍛える」


「まずは考えを整えよ」


「本番は明日からじゃ」



 帰り道。


 頭の中はまだ整理できていなかった。


 けれど、不思議と心は昨日より静かだった。


 強さとは何か。

 勝つとは何か。


 その答えは、まだ遠い。


 それでも――


 俺は確かに、一歩前へ進んだ気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ