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第十一話 さとちゃん・再び……


次の日は、日曜日だった。


結局、前日は由紀ちゃんの件や今後の対策について夜遅くまで話し合ってしまい、俺は楽しみにしていたガンダムDVDを見損ねた。


なんということだ。


だが、落ち込んでばかりもいられない。


葉澄が次に狙われているとすれば、誰かが彼女を監視する必要がある。


そこで俺たちが出した結論――。


それは、さとちゃん。


……つまり、キン爺だった。


霊的な力がある。

時間もある。

土地勘もある。


性格面には重大な不安があるが、適任者はあいつしかいない。


問題は、どうやって説得するかだった。


普通に頼んで引き受ける相手ではない。


そこでエチカが、意味ありげに笑った。


「策なら、あるわよ」


その顔を見た瞬間、俺は少しだけ、爺ちゃんに同情した。



そして今日。


俺たちは準備万端で、ミカねぇの家へやって来た。


「待ってたわー! 今、さとちゃん寝てるけど、そろそろごはんの時間だから起きるんじゃないかしら」


その時だった。


『ン・ギュ~~!』


奥の部屋から声がした。


ターゲット、起床。


俺たちは気配を閉じ、さとちゃんに気づかれないよう息を潜めた。


「はいはい、今行くからねー!」


ミカねぇが奥へ向かう。


『ンギャー! ンギュー!』

……ママン、おそいぞ~~!


『バブー! ブブー!』

……はやく来てにょ~~!


俺は吹き出しそうになった。


いい歳した爺さんが、何を言ってんだか……。



やがてミカねぇが、さとちゃんを抱いて戻ってきた。


「さとちゃん、ごはんでちゅよー」


むぎゅう、と優しく抱きしめる。


『ブキュ~~!』

……これこれこれ~~!


見るからに幸せそうだった。


だが次の瞬間、さとちゃんの表情が固まる。


俺たちが気配を解いたのだ。


『……バブ?』


『ギャーーーッ!!』

……クソタカとエチカじゃ~~!!


「はーい、さとちゃん。元気だった?」


エチカが満面の笑みで近づく。


『な、なにしに来た~~!? てか、いつからおった~~!?』


「あらあら、どうしたのかしら?」


急に機嫌が悪くなったさとちゃんを見て、ミカねぇは不思議そうに首をかしげる。


「あっ、ミカさん。ここからは私に任せてください」


エチカは素早くさとちゃんを抱き上げ、自分の胸元へ押しつけた。


「むっ・ぎゅ~~~~っ!」


『キャッキャッキャ~~!』

……あっ、これこれ~~!


さとちゃん、あっさり陥落。


「あらー、エチカちゃん。扱い上手くなったのねー」


「お任せください!」


さらに、むぎゅ~~っ!


『キャッキャッ……ん?』


一拍遅れて気づいたらしい。


『しまった! エチカの罠じゃ~~!!』


だが、時すでに遅し。


「じゃあ、お願いしようかなー」


ミカねぇは笑顔で買い物へ出かけていった。


玄関の扉が閉まる。


さとちゃん絶望。


『ママ~~~ン!!』



「さて」


エチカが、にっこり笑った。


「キン爺、ちょっと頼みがあるの」


『断る!』


「まだ何も言ってないでしょう」


エチカが、さとちゃんのほっぺを軽くつねる。


『フッ、フギャ〜ッ!』


『どうせ! ろくでもない話じゃろうが!』


「察しがいいわね」


『褒めとらんわ!』


エチカの笑みがさらに深くなる。


「じゃあ仕方ないわね。ミカさんに、さとちゃんの正体を全部バラすわよ!」


『なっ!?』


「本当はスケベで、マヌケで、しかもロリコンのジジィだってね」


『スケベとマヌケは認めるが、ロリコンではな~~い!』


「シンちゃんが全部しゃべってんのよ?」


『あやつ~~!!』


さとちゃんの顔色が変わった。


「でもママンには分かるはずがない! 霊感がないからの!」


「ふっ……」


エチカが俺を見る。


「リュウ、出番よ!」


「へいへい」


俺は肩をすくめた。


「あのさ、爺ちゃん。ミカねぇ、小さい頃は霊感あったんだよ。知ってた?」


『……なに!?』


「成長して薄れてるだけらしいよ」


『……』


「それと昔、かなりヤンチャだったってのも、知ってる?」


「いわゆる……レディース」


『……』


「しかも、嘘つかれるのが大嫌いなんだってさ」


「今の話の流れを、ゆっくり考えてみ?」


沈黙。


さとちゃんの古びた脳内コンピュータが、ゆっくり回転を始めた。


ポク、ポク、ポク……チン!


『あの〜っ……ワシ、やってみようかの!』


「そう! それがいいわね〜っ!」


その場に、乾いた笑いが起こった。



「じゃあ決まりね」


『……はい……』


完全敗北である。


だが、さとちゃんは最後の抵抗を見せた。


『お祝いに、もう一度む・ぎゅ~~を頼むっ!』


「あっ、いいわよ」


「はいっ!」


むっぎゅ〜っ。


エチカは笑顔で、さとちゃんの右頬をつねった。


『ギャーーーッ!!』


「あ、ごめんごめん。違った?」


「もう一度!」


むっぎゅ〜っ。


今度は左頬をつねる。


『ギャーーーッ!!』


『ちっが〜〜う!!』


「じゃあ、どこがいいのかな〜?」


『いや……もう結構です……』


――ポキッ。


心が折れた音がした。



すると、さとちゃんが俺を睨んだ。


『クソタカ! お前、なぜ身内の儂を裏切った!』


「いや……俺だって好きでやったわけじゃないんだ!」


「早く終わらせて、ガンダムのDVD見たかったんだよ〜っ!」


『が、ガンダム……で・デーブィ?』


『あっ、あれか? エチカの得意な暴力のやつか?』


パコーーン!!


「それはDVでしょ!! このロリコンジジィ!!」


『また叩いたな~~!!』


さらに、むぎゅ~~っ!


『つねるのもやめてぇぇぇ!』



こうして、さとちゃんは葉澄の監視役を引き受けることになったのだった。


めでたし、めでたし。


……なんのこっちゃ!




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