第23章 ― 失うことへの恐れと、手放すことへの恐れの狭間で
壊れた山々が村を取り囲む中、風が吹き抜け、砂塵と記憶を巻き上げていた。
ズリは立ち止まり、砕けた岩を見つめていた。まるでそれが時そのものの傷跡であるかのように。そこに刻まれているのは、ただの物理的な傷ではない――戦いの記憶、喪失の痛み……そして、誤った選択の痕跡だった。
そのとき、ふとあることを思い出した。
古い記憶。
トラウマと、思わず笑ってしまいそうになる滑稽さが混ざり合った記憶だった。
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何年も前。
「す、すごい……我が女王、もう一つだけ質問してもよろしいでしょうか……?」
アシナは片眉をわずかに上げた。まるで生きた彫像のように、微動だにせず。
「言え。」
目の前の若者はごくりと唾を飲み込んだ。
「あの……その……自分はあなたの娘が好きで……できれば……その……お付き合いを……したいと……」
続いた沈黙は、普通のものではなかった。
絶対的な沈黙だった。
アシナは瞬きもしない。
呼吸すらしない。
ただ、ゆっくりと立ち上がった。
洞窟は暗くなり、まるで光そのものが舞台から退いたかのようだった。赤黒いオーラが彼女の身体から立ち上り、濃い煙のように広がっていく。瞳は燃えさしのように赤く輝いた。
「娘と付き合いたいだと?」その声は、あまりにも静かだった。
「ならば私と戦え。全力で来い。さもなくば……死ぬ。」
少年は一瞬で顔面蒼白になった。足は震え、脳は名誉も誇りもすべて放棄した。そして踵を返す。
「ゆ、許してくださあああい! そ、そんな意味じゃなかったんですぅぅぅ!」
まるで死神が首筋に息を吹きかけているかのように、全速力で逃げ出した。
アシナは腕を組む。
「臆病者。」
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現在へ戻る。
ズリは目を閉じ、小さく鼻で笑った。
「カエリラ……お前の母親は本当に恐ろしかったな。」
そのとき、足音が聞こえた。
目を開ける。
ズリカが村へ入ってくる。
目を見開き。
表情は純粋なトラウマそのもの。
そしてその後ろには……カエリラ。
ズリの全身が一気に緊張した。
「何があった?」
彼は娘のもとへ駆け寄り、その前にしゃがみ込む。両手をしっかりと彼女の肩に置いた。
「どうしたんだ、我が娘よ?」
ズリカは父の目を深く見つめた。
そして、まるで黙示録を生き延びた者のような重みをもって言った。
「お風呂にも入れないの。」
沈黙。
ズリは瞬きをした。
ゆっくりと。
それからカエリラを見る。彼女はまだ立ったまま、娘を見つめていた。まるで目に見えない危険を分析し続けているかのように。
「何があった、カエリラ?」
声は真剣だった。
揺るがない。
だが彼女の目は和らがない。
「守っていただけ。もう家族を失いたくない。」
その言葉は重く落ちた。
ズリは一瞬うつむき、肺に溜めた空気をゆっくりと吐き出した。そして立ち上がり、ズリカの肩から手を離す。
再び伴侶を見た。
「話がある。」
それから娘へ向き直る。
「洞窟へ戻りなさい、我が娘よ。今日は母と話す。外へは出るな、いいな?」
「うん、パパ。」
彼女は従った。
洞窟へ歩いていく彼女を、何人かの狼男たちが哀れむように見つめていた。常に監視される生き方を、彼らは知っている。一歩一歩を休むことのない視線に追われる感覚を、知っている。
また別の者たちは、女王を哀れんでいた。
彼女はすでに最初の仔を失っている――名前すら与える時間もなかった命を。
カエリラはズリに続き、村の金属の壁のそばまで来た。
二人は地面に腰を下ろす。
だが彼女は彼を見ない。
視線は洞窟の入口に固定されたままだった。
まるで石を透かして見ようとするかのように。
まるで、瞬きをすれば何かが消えてしまうとでもいうように。
ズリはため息をついた。
「こっちを見ろ、カエリラ。」
反応はない。
彼女は洞窟を見続ける。
まるで脳がその機能――“監視”――だけに固定されてしまったかのように。
彼は深く息を吸った。
「カエリラ……俺を見ろ。」
何もない。
そしてついに、彼は声を荒げた。
「カエリラ、俺を見ろ!」
その名が村に響いた。
彼女はゆっくりと視線だけを動かす。
それから顔ごと向けた。
そして、ついに彼を見た。
「何?」
その声に攻撃性はない。
ただ、空虚だった。
ズリは少し近づく。
「やっとだ。話そう。」
顔をさらに近づけ、強い口調で続ける。
「俺たちの娘のことだ。」
そして、腰を下ろしてから初めて、カエリラの瞳はただの警戒ではなくなった。
そこにあったのは恐れ。
敵への恐れではない。
愛しすぎたときに起こり得る、その先への恐れだった。
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次章へ続く。




