第5話 冒険者ギルド
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1時間ほど仮眠をつると魔力も少し回復したのだろう。ロンドのめまいはなくなった。
あらためて周囲を確認する。
今ロンドがいるのは小高い岩山の中腹だ。標高は200メートルくらいだろう。
この岩山自体が、ダンジョンのあった崖の上の台地にある。
街道が眼下に見え、遠くにゴリアテの街も見える。
「まずは道に戻ろう」
ロンドは降りやすそうなルートを探しながらなんとか道なき道を進んだ。
途中で魔物や危険な動物にであうこともなく、街道にたどり着いた頃にはあたりは夕焼けに包まれていた。
まっすぐ街に向かっていればと少し後悔するロンドだったが、命があっただけでも儲けものだと気持ちを切り替え、ゴリアテの街へと歩みを進める。
ロンドが街を囲むレンガの壁にたどり着いたのはとっぷりと日も暮れた頃だった。
特に有事でもないため街の門は開放されている。
入ってすぐに宿屋や商店などがあるが、夜になったせいか酒場と宿屋以外は店じまいした後だった。
「宿を確保するか……」
本当は部屋を借りて活動拠点としたいが、今日はもう遅い。とりあえず一泊の宿が欲しいロンドである。
ロンドは疲れた体をなんとか動かし、酒場と宿が一体化した庶民のビジネス旅館と言った佇まいの建物へと入る。
「いらっしゃい」
両開きのドアをくぐると、ドア横の会計カウンターから声がかかった。
30後半の女性だ。
「お泊まりですか?それともお食事ですか?」
「ああ、食事と部屋を頼みたいのですが、いくらですか」
「はい、定食が60ジェニー、豪華定食が100ジェニー、素泊まりが280ジェニー、明日の朝食が40ジェニーですが、今なら創業5周年記念価格一泊二食付きで300ジェニーの割引コースがあります。お飲み物は別料金です」
一泊二食300ジェニーというのは日本円にして3000円。かなりお得だ。
創業5周年とはいいときに訪れたものだとロンドは思う。
「一泊二食で頼みます。飲み物は水があれば他は要りません」
「では300ジェニーです。お水はセルフサービスになっていますので奥のテーブルにある桶から各自で持って行ってください」
「わかりました。はい、300ジェニー」
「はい、ちょうどですね。
ではこれが部屋の鍵です。食事はすぐにされますか」
「ええ、部屋に行く前に食べておきたいと思います」
「では空いているテーブルへおかけください。
部屋は階段を上がって右の奥から2番目です」
「わかりました」
「ごゆっくりどうぞ。
お客様一名お越しです。定食お願いします」
「はい、定食一丁お願いします」
「おっす、定食一丁!」
受付の女性が奥へ声をかけると別の客を配膳していた若い女性が調理場へ声をかけ、奥から男性の声が答えた。
ロンドがテーブルに着くと幾ばくも待つことなくパンとスープとサラダと肉が盛られたトレーが運ばれてきた。
「はい、本日の定食です。
お肉は豚肉の塩焼きになります」
そう言って置かれたトレー上には300gステーキほどの大きさの豚肉と野菜がたっぷり入ったスープに厚切りのフランスパンもどきが2切れ載っていた。肉には葉物野菜のサラダが添えられている。これが60ジェニーなら安いだろう。
「かなりお得だな……」
ロンドは偶然入った宿が良心的な経営をしていることに幸運を感じた。
部屋は値段相応のワンベッドルームでとても狭かったが、翌朝にはギルドに行って冒険者の登録をしたのち、活動拠点となるアパートを借りるつもりだったロンドは、「眠るだけのスペースとしては十分」だと、すぐにベッドに入って朝まで熟睡した。
翌朝、サラダとミルクとパンとスープの朝食を簡単に済ませ、少ない荷物を持つと冒険者ギルドへの道を宿の人に聞き、礼を言ってすぐに出発する。
時刻は朝の7時半と言ったところだ。時計が普及していないこの世界は、一日の長さは24時間であり地球と大差ないが、人々は大雑把な時間把握で暮らしている。
冒険者ギルドは便利屋的な機能もある何でも屋で、ここに登録することで裏口の修理や取り付けなどの仕事も斡旋してもらえる可能性が高い。
魔物と戦うだけが冒険者ではないのだ。
ギルドに到着すると、朝8時前にもかかわらず、少しでも割のいい仕事にありつこうと多くの冒険者が詰めかけていた。
職業安定所の日雇い労働者を募集する朝の状況に近いものがある。
そんな中ロンドは、まず登録するために依頼票を壁から剥がして並んでいる冒険者たちの最後尾に、何も持たずに並んだ。20人待ちというところだ。
二つある窓口では一人あたり1分程度で受付しているので10分待ちくらいだろう。
「おい、兄ちゃん。
冒険者登録かい」
後ろに並んでいた中年の男性冒険者に声をかけられる。
「はい、そうです。
なんでわかったんですか?」
「そりゃぁ、依頼票も剥がさずに、まっすぐ受付に並ぶんだから予想もつくさ。
見たところ戦闘系の希望じゃなさそうだな」
「ええ、本当は戦う冒険者やダンジョンの探検に興味があるんですが、授かったスキルが戦闘に向きそうになかったんで、スキルに合った仕事をギルドで募集しようと思って登録します」
「そうか?
レベルさえ上げればスキルが生産系でもダンジョン探索できるぞ。知ってるか?」
「はい、その場合レベルを上げるまでが大変で、死んじゃうことも多いと言いますから当分はあきらめています。稼げるようになったらレベリングの依頼を出してでもレベルを上げたいとは思いますが、一人で魔物と戦うのは無理だと身につまされているところですよ」
「と言うことは、何かあったのか」
「はい、田舎からゴリアテに来る途中で未発見のダンジョンらしきものを見つけて入ってみたんですが、死にかけました。
今日はその報告もあるんです」
「何だと。
未発見のダンジョンだと!
そりゃあすげーな。
今日はこんな依頼より兄ちゃんが見つけたダンジョンの調査チームが編成されるだろうからそっちにするかな。
それにしても運が良かったな兄ちゃん。発見の報酬が出るはずだぞ」
「はい、それも期待しています」
後ろの男性の声が大きかったせいか、周りから「ダンジョン……」という声がひそひそと聞こえてくるが、どうやら受付の順が来たようである。
「お待たせしました。次の方どうぞ」
右の窓口の女性に呼ばれてロンドはカウンターの前に立つ。
「本日はどういったご用件でしょうか」と受付嬢。
「はい、新規冒険者登録と、ダンジョン発見の報告をお願いします」
ロンドの「ダンジョン発見」という言葉に、一瞬受付嬢の動きが止まる。
「あの、それは本当でしょうか。
もし本当なら、この近辺では26年ぶりの大発見となりますが」
そう、今ゴリアテの街周辺には3つのダンジョンが確認されており、いずれも未踏破で毎日冒険者が探索している。
そのうち一番新しいものが発見されて26年、一番古いものは100年以上前から存在しており未だに攻略されていない。いずれも巨大ダンジョンだと言われている。
ダンジョンは放っておくとドンドン大きくなり、魔物があふれることもある。
時間がたつにつれて広く深くなるため、潰してしまうなら出来て間がないときが狙い目だ。
ダンジョンのコアさえ壊してしまえばダンジョンはただの洞窟と変わらなくなり、やがて風化し、崩落し、消えてなくなる。
ダンジョンが生きている間は、魔物とともに特殊な鉱石や宝箱が出現することもあり、ダンジョンで発生する魔物自体が素材や食料として利用できるものもあるため利用価値は高いが、それを補って余りあるほど危険も大きい。
昔、成長したダンジョンから、より高度な鉱石を採掘しようともくろんだ領主が、あえてダンジョンの攻略を1年間ほどしなかったところ、魔物があふれて近くにあった領都が壊滅した。この領主はそのときに奮戦むなしく散ってしまったそうだ。
それ以来、ダンジョンは攻略できれば攻略してしまった方が良いが、攻略出来なくてもできるだけ頻繁にダンジョンへ侵入して魔物を間引いておくものであるという認識が、この世界では一般的なのだ。
ゴリアテは既に近辺に3つも大きなダンジョンを抱えており、ダンジョン産の物品で潤っている反面、どれか一つでも氾濫を起こせば町が壊滅する危機となるような立地条件だ。
そこに来てロンドが新たなダンジョンを発見したという報告である。
このダンジョンを討伐不能となる前になんとしても消しておきたいというのが、ダンジョン対策の最前線となる冒険者ギルドの総意であろう。
「間違いありません。試しに入ってみて死にかけました」
ロンドは、受付嬢の質問に端的に返した。
「では、まず冒険者に登録し、ダンジョンについては場所など詳しく奥の部屋でお聞かせください。確認が取れ次第、報奨金をお支払いすることになるので支払い方法などもその場で詰めましょう」
「了解しました。ではまずは登録をお願いします」
ロンドは受付嬢から説明されるままに登録届け出用紙を記入し、窓口に提出する。
受付嬢は必要なデータをギルドの登録カードに転記すると、ロンドの名前が書いた木のカードを渡してきた。
「それが冒険者の身元確認カードになります。
カードは初心者が木製、初級者が鉄製、中級者が銅製、上級者が銀製、最上級者が金製となります。
金の上に特別な人にプラチナ製のカードが渡されることもありますが、これはよほど大きな功績を残さないともらえません。
もらうと言ってもカードの材料費は各冒険者持ちです。まあ、銀級以上の高価なカードはそれに見合うほどの収入が得られるような活躍をしなければ決して授かることはありませんので、今の段階で心配する必要はありませんけどね」と受付嬢は締めくくった。
「はあ、……、わかりました」
聞いていても情報量の多さに半分理解できたかが怪しい。
ため息しか出ないロンドだったが、とりあえず木の板を受け取る。
「ロンドさんはスキルを使って裏口専門の工事業者になりたいと言うことですね」
「はい、そうです」
受付嬢の質問にロンドは答える。
「では、ギルドの仕事募集掲示板に募集内容を書いて貼っておいてください。はい、記入用紙です」
受付嬢から紙を渡された。
「その紙に書いたら掲示板に貼って、その後右手奥の通路から面接室へお進みください。
そこでダンジョンの件を相談します」
ロンドは頷くと仕事募集用の掲示板前に移動し、仕事の募集内容を記入する。
【裏口に関するご相談をお受けします】
裏口作成:2000ジェニー(何もない壁に裏口を設置します)
裏口撤去:1000ジェニー(既にある裏口を取り外して壁にします)
裏口取り替え:3000ジェニー(既にある裏口を新しいものと取り替えます)
(裏口専門業者:ロンド)
そのように書くと早速掲示板に貼り付ける。
1000ジェニーが日本円で一万円くらいなので、村のときよりは高く設定しているが、これはかなりのお得料金なのである。
ロンドは仕事が来ますようにと祈りながら、ダンジョンの件について話し合うため通路の奥の面接室へと進んだ。
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