30
迷宮返還前日の早朝、報道陣が囲む一台のバスの中からY市市長と市議会議員達が降りて来る所をTVの画面が映し出していた。
俺達はその光景を朝食を取りながら眺めていた。
「ハッ!どいつもこいつも不貞腐れた面しやがって、微塵も反省してやしねぇ。嫌なら謝罪に応じなけりゃ良いのにな」
「そう言う訳にも行かんでしょう。これで治癒薬が手に入らなかった為に死者が出れば彼等は社会的に・・・いや、物理的に抹殺されてもおかしくありませんし」
「まあな。どうせ反省してない事は解ってたし、仕掛けて置いて良かったぜ・・・・・お、入るみたいだ」
報道陣の問いには一切答えず、押し退ける様に迷宮に入って行く議員達だったが、直ぐに出て来てバスの中に戻って行き走り去って行った。
「ブハッ!いやぁ~笑わせてくれるねぇ・・・ククク・・・近くのスーパーにでも行って確り準備してくるんだな!ハハハハハ!」
そして約一時間後に迷宮入り口前に戻って来た議員達の背中には水と食料の入ったリュックサックが背負われていたのだった。
「さぁ~て、ここに来るのはいったい何時になることやら・・・ククククク・・・・・」
* * * * * * * * * *
「・・・ハァハァ・・・クソッ!・・・ハァハァ・・・ふざけやがって・・・ハァハァ・・・必ず後悔させてやる・・・・・」
「・・・ゴクゴク・・・プハッ・・・下手な真似はしないで下さいね・・・ハァハァ・・・私までとばっちりを受けたら堪ったもんじゃない・・・ハァハァ・・・・・」
「・・・君達・・・余り口を利かない方が良い・・・この暑さだ、身体が持たなくなるぞ・・・ハァハァ・・・・・水も・・・飲み過ぎ無い方が良い・・・ハァハァ・・・・・・」
「・・・そうだな・・・ハァハァ・・・階段を含めたら60km以上になるらしいじゃないか・・・ハァハァ・・・ペース配分を考えた方が良い・・・ハァハァ・・・・・・」
正式な返還は明日なので更地のままだが、気温を30℃に設定した迷宮内を議員達が進んで行く。
彼等は当初着ていたスーツを脱いで今はシャツとズボンだけになっていた。
そして地下10階から9階、8階へと上って行き、漸く地下7階と言う時に彼等は慌てて階段の途中まで戻って行った。
「ちくしょう!なんて奴だ!俺達を殺す気か!!」
「・・・見た目に騙されたよ・・・・・彼は本当に〝魔王〟だったんだな・・・・・・・」
「・・・・・ああ、そうだな・・・若しかしたら彼は私達を許す気なんて無いのかもしれないな・・・・・」
「・・・だが、私達に他の選択肢は無い・・・・・皆、上着を着て進もうじゃないか・・・・・」
地下7階の気温設定は0℃だ。
議員達はスーツを着なおして先へと進んで行くが、ここまでに掻いた大量の汗を吸って重たくなったシャツとズボンは一瞬で冷え、彼等の体力を容赦なく奪って行った。
そして2~3階毎に0℃から30℃と寒暖差の激しい階層を歩き続け、階段の途中で休憩を取りつつ、彼等が魔王城の前に辿り着いたのは真夜中だった。
議員達は崩れ落ちる様に土下座をし、涙を流しながら俺に謝罪した。
俺は疲弊しきって完全に心を折られた彼等の謝罪を受け入れ、凍傷を負った彼等を治癒薬で癒した後に四天王達に送らせた。
正直やりすぎた感は否めないが、俺が〝魔王〟で在る事、そして国を味方に付けた超法規的存在だと知らしめる為には必要な措置だと自分を納得させた。
* * * * * * * * * *
議員達が帰った後に迷宮を接収前に戻して就寝した。
流石にこの時間まで残っている報道関係者は居なかった様で、これ幸いと議員達は迷宮内で何が有ったかについては完全に沈黙を貫いた。
彼等は俺の報復が怖かったのか、二度と係わりたく無かったのか、その両方であろうとも俺にとってもその方が都合が良かったので何も言わなかった。
そして翌朝には迷宮内に警官達も戻り、以前と変わらぬ日常が戻って来たのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




