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迷宮が返還され十日が経った或る日の事、某有名玩具メーカーから会談の申し込みが来た。
最初はメールでアポイントメントを取って来た事と、こんな大企業から来る筈が無い、悪戯だろうと思っていたのだが、指定期日に担当者がやって来たので会う事にした。
念の為にネットでメーカーのサイトに書かれた電話番号に掛けて、渡された名刺に書かれた部署と名前の確認をした所、詐欺などの類で無い事が判明し平謝りした。
彼は俺の持っている著作権の独占販売権が欲しいと言う。
「うちは玩具屋のイメージが強いですが、アパレルや生活用品に文具なんかもやってましてね、全ての部署での商品展開を考えているんですよ」
一流企業の交渉担当だと言うのに堅苦しい感じのしない彼は『親しみ易く解り易い交渉』を売りにしているのだと言う。
「それでですね『迷宮モンスターズ』と言う括りで、先ずは地下10階のモンスターの縫いぐるみから始めたいと考えています。ここに来る前に直接見て来ましたが、あのねこはいけますよ、間違いなく売れますね!胸の魔法陣の所にギミックを仕込んで泣き声が出る様にしたいんですよ」
「あ、あれはねこじゃないんです。『ねこうもり』と言って蝙蝠の亜種なんですよ。え~っと・・・・・はい、これが設定資料になります」
「え・・・・・はぁ、そうなんですか・・・では、拝見します・・・・・・・『ねこうもり:見た目の可愛らしさで人を油断させ、抱き付いて首筋に噛み付き血を吸う吸血蝙蝠の亜種』・・・こわっ!何ですかこれ!怖すぎますよ!」
「まぁモンスターですから、本来は人を襲うものですし」
「そ、そうですね・・・・・え~っと他は・・・あ、良かった、あのウサギのも有りますね、これもかなり期待出来ますよ・・・『蹴兎:投、打、極を極めた立ち技最強の格闘術を持つ兎。小さな体格と短い手足の為に持てる技術を生かせない残念兎』・・・切な過ぎるでしょこれ・・・・・」
「ええ、まぁネット小説なんかだとウサギは基本残念なもんなんですよ」
「あ~・・・そう言えば確かにそんな感じですねぇ・・・・・ま、まぁこの資料を持ち帰って検討したいのですが宜しいでしょうか?」
「勿論ですよ。独占販売の件も含めて色好い返事をお待ちしています」
この後数回の会談を経て正式に契約を結び、公式HPで正式発表されると日本全国から事前予約が殺到したのだった。
とまぁ嬉しい事ばかりでは無く、少々面倒な問題が起こった。
ホームレスが住み着いたのだ。
何が面倒かと言うと、彼等は地下9階のシャワー室で身体と服を洗い身奇麗にしている上に、一般客の邪魔にならない様に昼間は何も無い地下7階で大人しくしていて、人の減る夕方に食料を調達して戻り、一番人の減る明け方にシャワーを浴びてまた帰って行くのだ。
そして新しく来たホームレスにもこのルールを説明し、守れない者は外に出すと言った徹底振り。
長期滞在の収入になる上に、他の客に迷惑を掛けている訳でもないから追い出すにも気が引ける。
アクアに頼んで彼等の中の代表者で、最初にここへ来た人に話を聞いて貰ったんだが・・・・・
「碌でもない人生だったから最後位はこんな穏やかな所で逝きたい」
だそうだ・・・・・重い!重過ぎだよ!これ聞いて追い出すとか無理だから!
聞くんじゃなかったと頭を抱えていると、リトラがこんな提案をしてきた。
「モンスターを倒させて有る程度の強さを持たせ、衣食住と仕事を与えて見ると言うのは如何でしょうか?力を得て暴れるのであればアクアや四天王達で制圧し警官に引き渡せば良いですし、何も無いとは言えご主人様の所有物で有る迷宮を断りも無く占有しているのは事実ですから、従え無いのであれば出て行って貰うと言う事にすれば良いかと」
よくよく考えてみれば確かにリトラの言う通り断りも無く占有している訳で、本来ならこちらが譲歩する必要も無いのだ。
返還されて正式に俺の物となったが、城から出られ無い為に自分の物だと言う意識が全く無かったのは情けない話である。
まぁ少々心は痛んだがアクアに伝えて貰った所、全員がこれを承諾。
こうして総勢十二名の人間の仲間が増える事となった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




