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異世界冒険記  作者: 九重九十九
新異世界編
68/69

神はいるんやな~って

(うーあー、おぇ、気持ちわる……)

 異世界移動の後、何となく気分が悪くなった。車酔いみたいなやつかな?

 さてさて、辺りを見渡してみるとどうやらここは黒の世界――ソーマの姉を名乗ったあのヤバめの存在感の人(?)がいる世界だ。

 この宇宙のような空間、地面の概念がないみたいでなんか浮いているようなふわふわした感じだ。動けるかなと思って足を動かすとどうも普通に歩ける。地面を踏んでる感触がないのでなんだこれ気持ち悪い。


「いつまで我に背をむけているのです?」

 ゾクゾク! 声を聴いただけで身震いしてしまう。あの女だ。あの女の声を聴いただけで心臓をつかまれたかのような錯覚さえ覚える。

 振り返るとやはりそこには異常に長い髪と喪服のようなドレスを着た絶対存在者が居た。


「久しぶりね、鈴木」


「これはどうも、黒幕さん。それで? これはどういうことでしょうかね?」

「そう不機嫌そうな顔をしないでよ、これでも悪いとはおもっているのよ?」

 そうは言うが、クスクスと笑っているところから絶対悪いなんて思ってはいないことがうかがえる。


「ソーマがやられたわ」

「らしいですね」

「なので我は早急に次の駒を確保しなければならない」

「で、その白羽の矢が俺になったと? いや俺らの誰かか。どちらにせよなんで俺らが従わないといけない」


「ウフフ、ちょっと深読みが過ぎるわね。流石にあなた達にソーマほどの働きができるとは思ってもいないわ。元々ソーマは攻めの兵、いろんな世界に行って戦うことを求められる。その役目をあなた達に負ってもらうのはいささか荷が重いという話よ」

「ナチュラルディスってくるのはムカつくが、じゃあなんですか? 俺みたいなちんけなただの人間がこんなとこまで呼ばれた理由は」


「それは勧誘よ、我らの仲間になりて、共に戦いましょうというね」

「断れば?」

「断ってもいいけれども、その後は確実に死ぬわね」

 ウフフと口元を手で隠して可笑しそうに微笑む。

「事実上拒否権はないのね、それなのにわざわざ聞いてくれるとはお優しいことで」


 かぶりを振り、肩をすくめる。

 こんなの茶番だ、どう答えてもこの絶対存在者の駒となるのは確定している。まあ、最初から従えと強要しても鈴木は反発するだろうから、形だけでも選択権を与えるのはあながち間違いではない。


「ソーマの対として、クラリアを守りの兵として育てているのだけれども……アナタにはその補佐をしてほしいのよ」

「補佐ねぇ?」


「あなたに分かるように言えばね、元々クラリアはね、特異点だったの。消滅した世界でただ一人生き残った存在。それに興味を惹かれて世界を修復する代わりに我に仕えるように取引をしたのよ。そして『月下魔滅』を与えてソラの世界で経験を積ませた」

「スケールがでかすぎてわけわかんねーよ」


「あなた達はたまたま偶然世界を越えてきた珍しい存在、あなた達にも興味がわいたわ。だからすぐにクラリアを向かわせて監視していたの。面白そうなら我の駒にするし、敵の罠なら普通に殺せばいいし、どちらにせよ放っておくには惜しい案件でしたからね」

「なるほど、異世界来てすぐに別の世界の住人がいるのはできすぎていると思ってたが、やっぱりアンタの仕業だったか。それで?」

 続きを放せと鈴木は促す。


「面白い駒も見つけたし、クラリアと一緒に育てようと思っていた。でも、我の管轄の別の世界で異変が起きてしまった。だからソーマとクラリア、あとあなた達を使ってそれを治めようとした。正直ソーマとクラリア以外は何の期待もしていなくて、時間稼ぎくらいにしか思っていなかったから、あなた達が誰も死なずに事を治められたのは我も驚いているわ。よくやったわね、褒めてあげるわ」

「嬉しくもなんともない。こっちはソーマ出てきたあたりからずっと訳わからず置いてきぼりくらってるんだ」


「だから今、話してあげてるじゃない。さてあなた達は無事に飛ばされた世界の問題を解決したわけだけど、その犠牲としてソーマがやられてしまった」

「らしいな」


「ソーマ亡き今、我の戦力は大幅に落ちたといっていいわ」

「うん」

 相槌をうつ。


「純粋な手駒はクラリアだけ、だから鈴木、今のあなた達は準手駒なのだけど、ここから世界の真実を知って我の味方に付いてクラリアの補佐をしてくれないかしら?」


 ・ ・ ・


 天汰たちは救命いかだを使い、結局途中遭遇することのなかった鈴木の安否を気にしつつも『イザリヤ』からの離脱を成功させていた。

 波に揺れながら炎上している『イザリヤ』と戦艦『ルーテル』、護衛艦二隻が次第に遠くなるのを確認しつつ、天汰は一応ながらも砲で撃たれないかと警戒をする。


「おそらく大丈夫ですよ」

 天汰の様子をみていたエイラが声をかける。


「ミサイルが発射されてもすべて迎撃できますから。私が本気を出せばあの艦隊全部沈められます、それは向こうもわかっていると思うのでこちらが手を出さない限り下手なことはしないでしょう」

「そう、か」

 天汰はひとまずは安心として、緊張レベルを下げる。


 改めて見ると、救命いかだは大きな浮きの上にテントがあるような見た目で、そこそこ大きい。中には緊急セットと非常食、そして大きめのバスタオルと毛布が入っていた。

 そう、バスタオルだ。

「あ、あの、天汰さん」

「あ、はい」

 クラリアが困ったような笑みで天汰に話しかける。


「その、できれば今まで通り外を向いてもらえると助かるのですが……」

「そ、そうですよね!」

 おのれエイラが話しかけたのは罠だったかと慌てて外側の海の向こう、地平線を眺める。


「救命いかだの仕様とはいえ、仕方のないことですが、これは少し寒いですね」

 クラリアは肩を抱いてブルリと震えた。


 元々救命いかだは取り付けられているときは中くらいのコンテナといった形であって、それを海に落とすと中にあるボンベが作動、浮きに空気が送り込まれ、大きくなるにつれてテント部分も自動的に組み上がるものとなっている。これで浮きテントの完成になるのだが、これに入るには一度海にダイブして、そこから救命いかだに乗り込むという方式になるわけで、そしてそれは女性陣の服も全身濡れ透けになるという訳で。

 というか、主にクラリアなわけで。


「その、疎外感を感じるかもしれませんが、服が乾くまでこちらを見ないでくださいね?」

「お、おお! 任せとけ!」

 唐突なハッピーイベントにちょっとだけ動揺・ドギマギしつつも自分が乗り込むときに見たクラリアの濡れ透け姿を脳内のお気に入りフォルダに入れておく。やったぜ!


 なんてバカなことを考えていると後ろからなにやら衣擦れが聞こえてきまして!?

「え? クラリアさん!? まさか、え? まさかだよね? え、うそ、この音ってまさかだよね!?」

「あの、私にも羞恥心というものがあるのですが。黙って耳をふさいでいてください」

 ガラにもなく羞恥で少しだけ頬を染めて、いつもよりも余裕のない声で、クラリアは言い放った。


(なんてことだ、神は存在した)


 生まれてこの方、「神なんて傍観主義者、祈るだけ無駄」と思っていた天汰だったが、この時ばかりは神に感謝の祈りをささげた。やっぱ行動で示すのが一番だなって。


 ・ ・ ・


「さて、まずはそうじゃの。我のことから知ってもらおうかしら」

 圧倒的絶対者はどこから取り出したのか黒の扇子(これもドレスのようなレース仕様)で口元を隠す。


「ありていに言えば……そう、我らは人間からは神と呼ばれている存在じゃ」

(なんてこった、神は実在した)

 鈴木はげんなりとそう思った。


 ほぼ同時刻で天汰と同じことを違う内容で思っているなんてミラクルが発生しているのだが、鈴木がそれを知る由はない。


「我らと言ったがソーマは神ではないからな。『我ら』とは――」

「アンタの対戦相手だろ、世界規模のチェス指すアンタのようなプレイヤー」


「そう、理解が早くて助かる。事の大筋は鈴木、お前が考えている通りで合っている。我は世界を股にかけて戦っているのだ」

「そこまでは想像できた。ただ理由だとか異世界でやることとかそうゆうのは流石に予想できなかった」


「そう悔しがるな。元々矮小な人間には過ぎたことだ」

「ナチュラルディス腹立つ。どうせ方向性の違い~とかそんなんで戦ってんだろ? 音楽か!」

「あらそこまで当ててくるなんて、本当にお前は目の付け所がいい」

 鈴木としては完全に適当に言っただけである。


「具体的には世界を滅ぼすか、滅ぼさないか、で意見の食い違いが生まれてのう、我は神の中ではまだ弱いので自分の影響下にある世界を守るので手一杯よ」

 よよよ、とウソ泣きのしぐさ。


 それよりもソーマよりもおそらく上であるこの女より、さらにヤバイのがいると知りえた鈴木は、自分という一個人はそいつらからしたらハエや蚊のように非常に小さなもので、そいつらの気まぐれひとつで住んでいる世界ごと簡単に消しされるのだというこの世のものとは思えない想像をしてしまう。SANチェック物のヤバめの衝撃を受けた。


「うむ? ここは笑いどころよ? どうかしたのか、顔色が悪いぞ?」

「今度から生きてることに感謝して、身の丈に合った生き方をしようと思ってたところです」


「我の駒になるのだから、それはもう無理な話だけどな」

「ああ、はい……」


 絶望に絶望は重なる。

 人生における一つの答えを見つけた鈴木であった。


「とゆうか、クラリアの補佐っていうけど、ぶっちゃけ俺にどうこうできるようなことはないぞ? むしろ、思い返してみると色々クラリアには助けてもらっていたし」

「案ずるな、そこはちゃんと考えてある。そして喜べ、お前にも力が与えられる」


「お? ――ん? え、はあああああああああ!? マジか! マジなのか!?」

最初鈴木は理解が追い付かずにいた、しかしそれが指しているのが天汰や大和のような身体能力向上だったり、黒石のような魔法の才能であったりする異世界ボーナスのことを指しているのだと気が付いた。


「いや、だが待て。俺は最初、あの魔法陣を書くのを手伝わなかったから異世界ボーナスが受けられなかったんじゃないのか? 神様よ」

「あの陣はな、時空超えの陣でな、あの陣は我と相性が良いのじゃ。我の力を陣を通して天汰、大和、黒石の三名に付与してみた。うまくいけば我の駒として使えるかもしれないと思ってな」


「なるほど、一番最初からこうなる可能性を見抜いていたと」

「『先読み』は我にはできぬよ、ただ、そうなる可能性もあってそうなれば我にとって都合がよいからそうなってほしいという願望はあったがな。兎も角、我の力を付与するのにあの陣は必要でもない、ということよ」


「じゃあ俺にもやっとチート能力がもらえるのか! くぅ~、長かったぜ!」

「まあ、どんなものになるのかは本人の素質次第だからの。身体能力向上、魔法能力向上、特殊能力開化、我の力が付与されてどんなものになるのか、楽しみじゃな」


「超能力?」

「特殊能力じゃ、超能力はまた別の世界にあるがの。ソーマの空間操作だったり、クラリアの十手『月下摩滅』だったり、既存の法則の延長線になく独自のルールで働く力よ」


「難しい話はわかんねぇが、なんか強そうだな」

「当たりはずれの強いものだからな、特殊能力よりかは身体能力向上の方が我としてはうれしいのだが……」

 自称神様は扇子をパタンとたたんで先を鈴木に向ける。


「終わりじゃ」

「――え、もう? もうちょっとこう、ためとか雰囲気だしてからやってくれないそういうのはさあ!」


「さて、そろそろクラリア達と合流してもらおうか。その後、大和達のいる世界へ飛んでもらう」

「無視しないでくれる? あ、一つだけいいでしょうか自称神様?」


「なんじゃ」

「友人の赤村を見た、あと徳浦もVPSのパイロットをやってるみたいなんだが、これはどういうことか説明してほしい」


「ふむ、おおかた、我に対するお前たちみたいに対抗すべく連れてこられたんだろうな。日和るなよ? あれはもう敵ぞ?」

「わかってる――だけど」


「だけど? ウフフ、甘えが捨てきれないのね、戦いたくないならそうすればいいけど、敵はやさしくはないわよ?」

 鈴木の足元に陣――時空超えの陣が展開される。


「甘さに足元をすくわれないように、ね」

 まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、鈴木は強制的に別世界へ移動させられた。

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