えっ! ○○って結婚したの⁉ っていう話
(うっ、あったま痛てぇ……)
割れるような痛みにすべての意識を持っていかれそうになる。
一分、二分、三分たっただろうか、時計の類を持ち歩いてなく、また、確認するような余裕もないので正確な時間は分からないがそれくらいがたった。頭痛も引いてきて周りに向ける余裕も出てくる。
起き上がったところで鈴木は自分が倒れていたことに気が付いた。そしてそんな酷い状態であることにも驚く。
(確信はない、が……もしかして異世界移動するとめちゃんこ頭痛がしてる気がする、それも数を増すごとに酷くなるパターンのやつだ)
この問題にはまた後で考えるとして、とりあえず周囲の状況を確認することとする。
辺りを見渡すと、そこはどこかの村の中にいるようで、喧騒の中いきかう人々は鈴木には全く興味を示さず、何をしているかわからないが人が集まって野次を飛ばしたり、野次を飛ばした人が飛ばされたりしていた。バイオレンス。
舗装されていない地面に寝ていたせいで、服についた土を払い。喧嘩か何かでぶっ飛ばされてきた人に声をかける。
「やあ、おたくさん。怪我無いかい?」
ぶっ飛ばされてきた人は目を見開いて大声を出す。
「ここにもいたぞぉおおお!!」
一斉に周囲にいた人達が鈴木に振り替える。
「ワッツ!? 待て待て待て! 寄るな来るな近づくないままで俺のこといるのもわかってなかったくらいにガン無視してたじゃない!? 待って待って待って来ないで私に酷いことする気でしょう! エロ同人みたいに痛い! ごめんなさい! ああ、待って蹴らないで! 痛い痛い! 痛い!! やめて! 助けて! 数の暴力で俺に迫らないで!!」
最近まで天汰の肩代わりで無理なことしてもダメージを負うことがなかった為、久々の痛みに体が付いていっていない。大人数に囲まれて亀のようにうずくまり、蹴りに耐えることしかできない。
「あるじに近づくな!!」
轟ッ!
それは例えるなら一騎当千。鈴木を取り囲んでいた人たちを拳を振るうたびにぶっ飛ばしていく。
「あるじ!」
「アイリスちゃぁああああああああん!! うわああぁあああああん!! 怖かったよぉ、これ死んだかと思ったああああん!!」
何の恥も躊躇もなく、幼女に抱き着いた。
「あ、あるじ! 今はそういうことは……!!」
正面から抱き着く鈴木に言葉の上では拒否を示すも、ちょっと嬉しそうに口元が緩んでいるのはご愛敬、不意に頼られて思わずニヤけてしまう。
と、そこに「なんですかこの騒ぎは!」と大声が通る。
(お?)
桃色の髪の背の低い女性だった。しかしながら簡素ではあるが他の人よりも豪華というか、ゆとりのある服を着ているところから、この人は他の人よりも高い位の人物なんじゃないかと予想する。
「げっ、あなた達は……!」
「あん?」
一瞬だが、確実に嫌な顔をされた。鈴木少しだけショック。
「皆さん! この方たちは敵ではありません、私の知り合いです!」
ざわざわざわ、周囲の人たちが騒然とする。
状況が読めないから果たしてこれがいい反応なのか悪い反応なのか判断ができない。
「巫女様の知り合い?」「じゃあこの方たちも?」「でもあの女の子は我々に攻撃してきたぞ……」「それにあの男、目を見てみろ、あんな濁った眼をしたやつがまともなものか」
余計なお世話だふぁっくゆー! 鈴木は心の中で中指をたてた。
「彼らは……その……」
ピンク髪の女性もうまい言い訳が出てこないとみえる。
「やっぱり巫女様も信じられないぞ」「俺たちはやはり騙されてたんだ」「キサマ、巫女様になんてことを!」ガヤガヤ、ワイワイ。
(なんだこの女、偉そうに出てきてんのに村の掌握できてねーのか? ん~~~~! どーすっかなーこれ……)
考えてる時間はそんなにない、ぐずぐずしてると村人たちが巫女様への不信感でどうなるかわからない。
……一芝居打つか。
「巫女様! やっと、やっと会えました!」
アイリスから離れて地面を這いながら桃髪巫女に接近する。少し仰々しいが、かえってそれが久しぶりに会えたゆえの行動だと周囲の人には映るはず。
這った格好のまま祈るように手を組む。
「我々二人、巫女様の傘下に加わりますよぉ! アイリス! お前も早く頭を下げろ!」
アイリスも少し困惑しつつも、またいつもの変なことしてるなーって感じで納得して鈴木の右後ろで鈴木の真似をする。
「えっ、あっ、おっ」
(困惑するのもわかるが巫女様がそれはマズイだろうが!)
ゴリ押しするしかないと頭を切り替える。
「ささ、巫女様、我々は今来たばかりなのでどこか落ち着いて話せるところでゆっくり今までの情報のすり合わせをしましょう! ね!?」
「え、ええ……そっ、そうですね」
・ ・ ・
簡素なつくりの――泥を乾燥させて壁とし、藁でつくったものを屋根とする――原始的な家で三人が向かい合う。既に桃髪巫女が人払いを済ませているのでこれからする深い会話を誰かに聞かれる可能性はないだろう。
(にしても、前の世界がバリバリ科学技術の世界だったからか、この世界の文明水準に呆れてしまうわ)
座布団すらでないことに内心不快になりつつもそれを顔に出して鈴木は「で?」と桃髪巫女に問う。
「オタク誰よ、なんで知り合いだなんて嘘ついた?」
「えっ?」「あるじ?」
「お?」
桃髪巫女と、アイリスも驚いたように鈴木の顔を見る。
(あれ、プレミした?)
「……まさか、私のことをわすれたんですか?」
桃髪巫女の顔に影が差す。
「――あー。あっ、あれだ。思い出した思い出した、あのー、あれだ、あの……アレの時の人だ」
ふわっふわな言葉、もちろん鈴木にはこの桃髪巫女が誰なのか全く思い出せない。時間稼ぎに過ぎないが稼いでも思い出せなければ意味がないので詰んだ。
「――っすぅー(呼吸)、あの……怒らないで聞いてもらえるとありがたいんですけどぉ……その、どちら様ー、でしたっけ?」
「あるじ……」
アイリスが残念な人を見る目を鈴木に向ける。
「ええそうですよね! あなたはそういう人ですもんね! わかってても私を巻き込んだ張本人がのほほんと忘れてるのを知ると怒りも湧いてきますよええもう!」
桃髪巫女が泣きながら笑い、怒るという非常に器用なことをしているのだが、当の鈴木は全く持ってわからない。
「メイ……」
「え?」
「私の名前は! クロイシ・メイです!」
「くろいし、めい……」
名前を聞いても全然思い出せない、まあこれは仕方ない部分もある。鈴木がこの桃髪巫女の名前を聞いたことがあるのは今のこれを除けば一回だけなのだから、記憶に残らなくても仕方がない。
「元! ギルドの! 受付をしてました! メイです! 黒石さんの妻になりました! メイです!!」
「は!? え? はいぃ!?」
いろんな情報が一気に出てきた。
ギルド嬢、思い出した。鈴木の記憶では最後に別れたのはあの自称神様がみんなをバラバラな世界に送ったあの時だ。
それよりももう一つの、黒石の妻になったという情報だ。なるほど、言われてみるとゆったりした服装はマタニティドレスと言われるとそのようにもみえる。
「思い出しましたか!?」
「おおお、思い出したけどおま、ええ!? 黒石と……」
「そうです……」
桃髪巫女こと元ギルド嬢、メイは言って少し恥ずかしくなってきたのか頬に赤みが増す。無意識なのかお腹をなでる。それで鈴木は確信した。
(なるほど、こいつと黒石、大和はこの世界に渡って、それで黒石とこいつは幸せなキス以上をヤって終了ってやつか、とりあえず黒石はもげろ)
頭の中で軽く呪詛をかけて、それでと話を進める。
「その黒石と大和はどこだ?」
「今は遠征に出ていて、いつ帰って来られるかわかりません……」
「遠征? 全くわからん。とにかく、この世界の情報が欲しい、知ってること全部教えてくれ」
「なんであなたなんかに――って、言っていられる状況でもないんですよね、これ。その代わり、全力で協力してくださいね」
「わーってるって、俺は身内には甘いんだ」
メイは話した。この世界に来てからのことを。




