棒立ちするだけの簡単なお仕事
「さて、どうするか……」
お昼はビーフシチューにするかハヤシライスにするか、結局高校受験の時以上に悩んで、ラーメンにした。
天汰はもう何も言うまいといったスタンスで、同じくラーメンを頼んだ。
昼飯が終わった後、二人は放送で呼ばれた。
『鈴木、天汰の両名は第一戦闘観察室に来るように』
「はて、それどこだよ」
「道行く人に尋ねればいいんじゃないかな?」
そんな感じで二十分ほどかけて第一戦闘観察室なるところについた。
第一戦闘観察室は、だだっ広い人工空間というのが一番合っている言葉だと思う、数メートルの等間隔で線が入った壁、縦横並んで正方形の模様になっている。正方形の大きさは三メートルくらいだろう。
その部屋の真ん中に、先ほどの少女がたたずんでいた。
鈴木は身の危険を感じ、天汰に蹴りを入れて部屋に突き飛ばして扉を閉める。
ガシャンと電子ロック的な音が響いて、反対側から天汰がガンガンと扉を叩いている音が聞こえる。
「ふざけんな! なんだよこれ!」
扉越しに天汰の怒声が聞こえるが鈴木はあんまり気にしてない。
「あー、やっぱり入ると鍵かかる系の奴だったか」
「ふざけんなよ! なんで教えてくれないんだよ!」
「いやあ、ゴメン」
といっても、完全に勘で動いたので事前に通達することなんてできなかったのだが。
閉じ込められた天汰は、仕方なしと考えて少女と向き直る。
「ひとり、逃げられてしまいましたが、何なら呼び戻してもいいんですよ?」
「いや、いい。すーさんがいると普通に足手まといだから」
「テメェ扉隔ててもうっすらと聞こえてるからな!」
鈴木の言葉は聞かずに天汰は続ける。
「俺一人で十分だ」
「……私は『舞姫』ですよ?」
「らしいな」
「そうですか。その自信は優秀なIOSからくるものでしょうか? わかりませんが、戦闘訓練をお願いします」
部屋の天井隅に備えられたスピーカーから声が流れる。
『この戦闘はエイラの経験のためのものです。対戦相手はエイラを本気にさせて、尚且つエイラを殺してはいけません。逆に、エイラは経験を積まないといけないため、殺す気で相手をしてください。カウントを取ります、ゼロになったらスタートです、三、二、一、ゼロ!』
スピーカーの声を聞きながら天汰は(あれ、俺の勝利条件って何?)と考える。
対する少女、『舞姫』エイラは早速仕掛ける。
「――IOS発動、『装機・オシリス展開』」
その銃は今まで天汰が視てきた銃と少し毛色が違った。装甲銃とでもいうのか、四角いフォルムが特徴的なそれは、エイラの手に一丁、左右にも装甲銃が二丁浮かんでいた。
「これより訓練敵を撃破します」
エイラが言い終わると同時に、三丁の長銃が火を噴いた。
バババン! 装甲銃の弾丸は見事に天汰に吸い込まれていくように命中する。
「ふうん、それで? 痛みすら感じないからまだ最初に外で撃たれた時の銃の方が威力があるのかも」
天汰は避けようともしなかった。
「――単発銃展開」
エイラは少し焦ったように声が上ずった。
最初に展開していた左右の装甲銃はいつの間にか消えていたが、エイラの掛け声を境に今度は四つ現れた。
「一斉射撃、ってー!」
バババババン! 今度は手元の銃も合わせて合計五丁分の射撃音が、しかしその全てが命中しているはずの天汰は全くダメージを負ったふうではない。
「単発銃を削除、主砲を両側に展開、並びにミサイルコンテナを展開。両兵器同時に発射する」
効果が薄かった装甲銃が消えて、新しく装甲砲が両側に展開された。また、それぞれの少し上には長方形のミサイルコンテナが同時展開された(ひとつに三×四の十二発のミサイルが積まれている。二つあるので合計二四発発射可能)。
「てー!」
ドゴゴン! まずは主砲、次に少し遅れてミサイルが四発天汰に命中した。
「それで? その後はどうするの?」
だがやはり、天汰はダメージを負ったふうではない。
「耐えられると思ったけど、普通に耐えられた。それなりに痛かったけど全然我慢できるレベル。これ以上の攻撃がないならもう終わりにしよう、時間の無駄だよ」
防具の力を借りた天汰はもはや(小型とはいえ)ミサイルにも耐えるようになっていた。
(まだ黒石の魔法の方が威力がある。この程度じゃいくらかけても防御不能の状態まで追い込まれないな)
天汰はエイラの戦力をそう分析した。
「あなたが無事なのは、身体強化を使っているからですか? でも、撫子型には見えませんし、武器のデバイスも持っているようには見えませんが」
「まあ、頑張って考えてみてよ。今の方法で俺を倒すなら火力が不足しているとだけ言っておくよ」
『せ、戦闘訓練を終了する。両者、武装解除してそのまま待機』
スピーカーから聞こえてくる人の声はかなり驚いた様子だった。天汰が無事なのが本当に驚いているらしい。
(武装解除もなにも、俺武器持ってないんだけどなぁ)
棒立ちしてるだけで戦闘に勝った天汰は、なんだかなあーと思うのだった。




