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異世界冒険記  作者: 九重九十九
新異世界編
52/69

実はよく煽るやつほど煽り耐性は低いもの

 軽トラックに乗せられて連れてこられたのは、割と広いだだっ広いところだった。

 鈴木は何かの倉庫を連想したけど、こんなに広い倉庫はそうそうない。


 壁際には壁一面を使ったでっかいモニターが埋め込まれていて、小太りのえらっそうな人が指を組んでこれまたえらっそうな態度で俺ら二人を見下ろしていた。

『やあ、初めまして』


 倉庫(仮)のいたるところにはカメラがあって、モニターに映るおっさんは鈴木たちのことが見えているようだ。


「天汰、ここどこ?」

「知らん」


 軽トラックと軍隊の人は二人を下すと来た道を帰って行った。出入口は軽トラックが出ていくとシャッターが下りてきて、唯一の出入口を遮断する。


『君たちは男だね、ということは『舞姫』ではないみたいだけど……いや、舞姫でもこの島に上陸するのは困難なハズなんだがね。空間移動なんて魔法みたいなことができるわけもないし、いったいどうやってこの場所にこれたのか、聞かせてくれるかな?』


(余裕そうなその態度がハラ立つし、そもそも別世界からの移動だからどう説明したものか。それとこの世界には魔法がないということがコイツの発言で分かった)

 鈴木は心のメモ帳に『この世界には魔法はない』と書き込む。


「すーさん、どうしよう」

 天汰の目を見ると、『どうしよう、助けて』みたいな意図が読めてとれた。おーけい、俺に任せなとばかりに鈴木はすっと一歩前に出る。


「さて、なんでだろうね」

 そして不敵に余裕そうな雰囲気を見せるためにニヤリと笑う。


(さあ、鈴木さんのハッタリタイムがやってまいりましたよ!)

 内心ドキドキしながら鈴木は必要な情報を頭の中にそろえていく、と言っても少し前にインフォンで調べた程度の知識しかないのだが。


『聞いているのは私の方なんだが?』

 モニターの男の機嫌が崩れた様子はない。次のセリフにもう少し煽りを入れてみるかと考える。


「質問に質問を重ねてるんだよ、それくらいわかれよ低能」

『ほう、君は自分の立場が分かっていないのかな?』

 モニターのおっさんは少しだけ不機嫌になる。


(よしよし、これくらい温まってもらった方が饒舌になってくれる)

 鈴木はモニターの男の心理状態を掴みつつある。


「いや、そういう訳ではないんだ。こっちもこっちでいろいろあるんだ、まあもう既にアンタも察している部分は大いにあると思うけどさ」

 こんな感じで煽った後は少しだけ持ち上げる。すると相手は無意識に親近感を感じるようになる、つまり、口の滑りが少し良くなるってことだ。


『フン、我が国の内情偵察だろう。だが、結局はお前らは生きて返さないがな』

(ほうほう、つまりこのおっさんは俺らのことをどこかのスパイだと思っているわけだ。まあそれが妥当なところだろうな)

 少しずつ情報を集めていく。


「んー、つまり俺らはいろいろしゃべったところで結局は殺されちゃうのね。なら普通に考えて黙っておいた方が我々としてはいい訳だ」

『しかしそうなると君らの死期が早まるだけだぞ?』


「こっちにはアンタらが魔法のように思えた方法でこの島に侵入したんだ。同じ方法でいつでも出られるとは思わないのか?」

 おっさんの顔に初めて焦りが生まれる。


「軍人さんの鉄砲も俺らには効かない、いつでも島外に出られる、この状況でなんでまだここに残っているのか、アンタならわかるんじゃないか?」

『貴様! まだ何か隠しているのか!』

 焦りは苛立ちとなり、モニター越しに鈴木を睨む。


(おっと、ちょっとやりすぎた)

 鈴木は微調整に入る。

「そんなに難しく考えるなよ、アンタの頭にもいくつか考えがあるだろうが、ハラの探り合いはよそう。この件は俺らが頼む側なんだ。すこし突拍子もないが一つ聞いてくれないか?」

 選択肢の有無をおっさんに預ける。選択権の譲渡は立場を相手の方が上にするという行為だ。これで温まった頭を落ち着きを取り戻させる。


 相手にしてみても情報がほしいので結局この男は鈴木の話を聞くという選択肢しかないのだが、それを分かった上で鈴木は選択権を渡した訳だ。つまり見た目ではモニターの男の方が主導権を握っているように見えるがそんなことはない。


『……いいだろう、話してみろ』

「どうも、感謝する。さて、どこから話したもんか、そうだな。まずひとつこちらの――俺とコイツのという意味でだが、こちらの立場を明確にしよう。そちらに俺とコイツは亡命したい」

 鈴木は隣にいる天汰の肩を組む。


 そして小声で「聞かれたら話を合わせろよ」と言っておく。

 天汰もモニターの前なので頷くといった動作はしない。ただ、緊張で唾をごくんと飲み込んだ。


『亡命、亡命!? キサマ、今亡命と言ったか!』

「ああ、言った。割と思うのは俺らのところってもう未来はないと思っているんだよね、いくら『舞姫』じゃなくても俺らみたいなのがいようと、魔法のような空間移動ができようと、もうダメな感じじゃね? みたいな風に思ってさ、そんなことを思いながら過ごす日々だったわけだよ。で、幸運のめぐりあわせのようにこの島での偵察任務が入った訳だ、ここなら俺とコイツ以外の仲間はこれないし、亡命するにはちょうどいい条件がそろってるんだ。そんな訳で、俺らはコッチ側からソッチ側に鞍替えしたい」


 俺らのところとかコッチ側とか具体的な名前は言わずに会話を進める。知らないことを悟られると怪しまれる、今までうまい調子に会話が成り立っているのだ、ここが一番の山場だと鈴木は思った。


「どうだろうか? ソッチ側にもメリットはかなりあると思うんだけど?」

『それは、キサマらの頭をいじくりまわしてIOSの解析をしてもいい、ということなのか』


「ああ、そのつもりで言ってるつもりだけど? あ、だからといって非人道的な扱いはゴメンだぞ?」

『造り物のモルモットがよく言う。いいだろう、VPSのテスト機動でお前らを殺してやろうと思ったが、お前らにそれ以上の価値がある訳だ。もし、裏切ったらわかっているだろうな?』

 モニターの男は凄んでくるが、鈴木はそれをさらりとかわす。


「ここまで、誰か一人でも怪我をしたり死亡させたりしたか? 何のためにいつでも殺せる軍人さんに手を出さなかったか。それでこちらの誠意を感じてもらえると幸いですが」

『……いいだろう。うまくいけばエイラにもそのIOSを組み込めるかもしれない』

 男は何気なくこぼした一言だろうが、鈴木と天汰は『エイラ』というおそらくは人名にピクリと反応した。


(エイラ? なんだか女の子っぽい名前、もしかしなくともソーマさんのメールにあった『舞姫』だろう)

 天汰はそう思い、

(十中八九女の子の名前だ。この世界、まだ野郎(おとこ)しかみてないから美少女だといいな)

 鈴木はそう思った。


「まあ、しばらく休ませてくださいよ。ここまでの道のり、割ときつかったんですから。落ち着いたころに施設案内とかしてもらえると助かります」

『いいだろう。迎えをよこす手配をしてやる。そうだな、待ち時間も暇だろう。時にキサマら、こんなのを見たことがあるか?』

 モニターの男はニヤリと笑う。


(あ?)

 あの顔は自慢したい人の顔だ。鈴木はそれが分かる。その直後、背後にドーンと何か巨大なものが降ってきた音がする。

「!?!?!?」「――なん!」

 風圧でずっこけそうになりながらもなんとか踏みとどまる。


 振り返り何が起きたのかを確認しようとして、二人の目が見開かれる。

「なんだこれ、ガンダ――」

「いや、それにしては大きさが小さい。十メートル、いや八メートルほどはあるけど」


 腐骨なフォルム、角ばった肩やごつごつした足や腰回り、唯一つるんと丸みを帯びているのは頭部だけでそれでも表情は冷たいイメージだ。頭部の左側にはチャームポイントのようにアンテナがある。


VPS(ヴェネジェクトパワードスーツ)、舞姫に代わり戦争を変える兵器だと私は思っているんだが、君たちの意見を聞かせてくれないか?』

 モニター越しに男は口角をニヤっと上げる。


「これは、俺の専門ではないな。天汰、任せた」

「え、マジ、俺に振るの? えっと、じゃあ、まず、人型の欠点である重心の問題、歩くと転ぶってやつね。それと機体が自分で動くことで壊れないか――つまりパーツの耐久、それと量産なのかワンオフなのかわかんないけど、コレを作るためのコストと維持するためのコスト、最低でもこの三つの問題をクリアしない限り無理に人型にする必要はないと思う」

 天汰、まさかのダメ出し。


『なるほど、人型兵器の問題である重心の問題はバランサーがあるから問題はない。次に耐久だが、コイツは携帯ミサイル程度なら簡単に耐えるよ。まあ、それよりも強い攻撃もあるから専用の盾も今製作中なんだがね。そしてコストだが、動力炉は『ヴェネジェクト炉』という安価だがとても希少なものを使っている。そのせいで量産は不可能だが、今までの核融合炉を基本としていた大型兵器と比べても比較的安価で維持できる。理論上では舞姫であれば撫子型の高圧ブレードまでなら耐えられるし、戦艦の中経口砲ならくらってもまだ動ける。飛行ユニットの開発に手間取っているが、そう遠くない時期で空中戦も可能になる。これがあれば戦争は我が国の勝利のものとなる。キサマらやエイラはコレができるまでの間の繋ぎだ、そのことを覚えておくのだな』

 セリフを言い終わるとほぼ同時に出入口のシャッターが開いた。


『モルモットはせいぜい脳をいじくられて発狂しましたなんてオチはやめてくれよ。できることなら戦闘で使い潰したいのだからな』

 そこまでいってモニターは映像を映すのをやめた。


「なんか腹立つけどあいつ」

 鈴木は切れたモニターを見ながら呟いた。


 鈴木の性格はひょうひょうとしているが、実はあまり煽り耐性は少ない。

(いつかアイツもソーマも嵌めてやる)

 改めてそう誓う鈴木であった。


「すーさん、行こう」

「ああ」

 天汰に声を掛けられて、鈴木は迎えの軽トラックに向かった。

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